チームの意見対立を建設的に解決するアサーション術
多くのビジネスシーンにおいて、チームで仕事を進める上で意見の対立は避けられないものです。お互いの考えが異なるのは自然なことですが、その意見の衝突をどのように乗り越え、建設的な合意形成へと導くかは、チームの成果に大きく影響します。
意見の対立を苦手と感じ、発言を控えてしまったり、相手に合わせて自分の意見を押し殺してしまったりする方もいらっしゃるかもしれません。また、逆に感情的に反論してしまい、話し合いがこじれてしまう経験をお持ちの方もいるでしょう。
このような課題を解決し、チーム内のコミュニケーションを円滑に進めるために役立つのが「アサーション」というスキルです。アサーションを身につけることで、相手を尊重しながらも自分の意見や立場を誠実に伝え、より良い解決策を見出す道が開けます。
チーム内の意見対立におけるアサーションの重要性
アサーションとは、相手の人権を尊重しつつ、自分自身の権利や意見、感情、信念などを率直かつ誠実に表現するコミュニケーションスキルです。単なる自己主張や一方的な意見の押し付けとは異なります。
チーム内の意見対立の場面でアサーションが重要になる理由はいくつかあります。
- 健全な議論の促進: メンバーそれぞれが率直に意見を伝えられる雰囲気を作ることで、多角的な視点からの検討が可能になり、より質の高い結論に繋がりやすくなります。
- 誤解の解消: 曖昧な表現や遠慮がちな伝え方を避け、自分の意図を明確にすることで、誤解やすれ違いを防ぐことができます。
- 相互理解の深化: 自分の考えを伝え、相手の考えを理解しようと努める過程で、メンバー間の信頼関係が築かれます。
- ストレスの軽減: 言いたいことを我慢したり、不本意ながら相手に合わせたりすることから生じるストレスを軽減し、より健全な精神状態で業務に取り組めます。
具体的なビジネスシーンでのアサーション表現
ここでは、チーム内で意見が対立する可能性のある具体的な場面を想定し、アサーティブな表現の例をご紹介します。
シーン1:提案された計画案に懸念がある場合
チームリーダーやメンバーから新しいプロジェクトの計画案が提案されたが、実行可能性やリスクについて懸念を感じている。
- 避けるべき表現(非アサーティブ):
- (何も言わない、賛成したふりをする)
- 「この計画は無理だと思います。」(断定的、攻撃的)
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アサーティブな表現例:
- 「提案ありがとうございます。この計画案について、一点懸念がございます。特に〇〇のプロセスにおいて、過去の経験から△△のようなリスクが考えられます。この点について、もう少し詳しく検討する必要があるかと思いますがいかがでしょうか。」
- 「素晴らしい提案ですね。実現すれば大きな成果が期待できると思います。一方で、懸念している点が△△のリソース確保です。現状の体制で対応可能か、具体的に確認させていただけますでしょうか。」
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表現を選ぶ理由・意図:
- まず提案への感謝や評価を伝え、相手の努力を尊重します。
- 主語を「私」にして(Iメッセージ)、「私が懸念している」という形で伝えます。計画案そのものを否定するのではなく、「〇〇のリスクが考えられる」のように事実や客観的な根拠(過去の経験など)に基づいて伝えます。
- 「〜が必要かと思いますがいかがでしょうか」「〜確認させていただけますでしょうか」のように、一方的に決定を下すのではなく、チームとしての検討や対話を促す形で投げかけます。
シーン2:複数の意見が出て、自分の意見も伝えたいが割り込みにくい場合
チームミーティングで活発な議論が行われており、複数の意見が出ているが、自分の意見も聞いてもらいたい。
- 避けるべき表現(非アサーティブ):
- (発言のタイミングを逃し、結局何も言えない)
- (人の発言を遮って、強引に話し始める)
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アサーティブな表現例:
- 「〇〇さんの意見も△△さんの意見も大変参考になります。よろしければ、関連して一点、私の考えも述べさせていただいてもよろしいでしょうか。」
- 「少しよろしいでしょうか。今出ている△△の点について、私は〜と考えます。その理由は〇〇です。」
- (発言の機会が得られたら)「皆さまの意見を踏まえた上で、私はこのように考えております。〜」
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表現を選ぶ理由・意図:
- 他のメンバーの意見を尊重している姿勢を示します。「参考になります」「皆さまの意見を踏まえて」といったクッション言葉を使うことで、スムーズに自分の発言へと繋げます。
- 許可を求める形(「よろしいでしょうか」)や、簡潔な前置き(「少しよろしいでしょうか」)を入れることで、相手に不快感を与えずに発言の機会を得ようとします。
- 自分の意見であることを明確に伝える(「私は〜と考えます」)。
シーン3:合意形成に向けて、妥協案や代替案を提案したい場合
意見が対立し、議論が平行線をたどっている状況で、両者の落としどころとなるような案を提示したい。
- 避けるべき表現(非アサーティブ):
- 「もうこれ以上話しても無駄ですね。」(投げやり、諦め)
- 「A案で決めるべきです。それが一番良い。」(一方的な決定、意見の押し付け)
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アサーティブな表現例:
- 「皆さま、活発な議論ありがとうございます。今の状況を整理しますと、△△の点と〇〇の点で意見が分かれているかと思います。ここで一度、両方の考えを取り入れた◇◇のような代替案を検討してみるのはいかがでしょうか。」
- 「〇〇さんのご意見も、△△さんのご意見も、どちらも重要な視点ですね。合意点を見出すために、◇◇をこのように修正することで、△△の懸念点を解消しつつ〇〇の利点も活かせるのではないかと提案いたします。」
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表現を選ぶ理由・意図:
- まず、議論の状況や出ている意見を客観的に整理し、メンバー全体で状況を共有します。
- 対立しているように見える両方の意見を「どちらも重要な視点」と認め、尊重する姿勢を示します。
- 「代替案を検討してみるのはいかがでしょうか」「このように修正することで〜と提案いたします」のように、提案として提示し、チームでの検討を促します。解決に向けた協力的な態度を示します。
アサーションスキル向上のための具体的な練習方法
アサーションは生まれ持った才能ではなく、後天的に習得できるスキルです。日々の少しずつの練習で、着実に身につけることができます。
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自分の意見や感情を整理する練習(Iメッセージの練習):
- 練習方法:「私は〜と感じる」「私は〜と考える」「私は〜したい」といった「私」を主語にした文(Iメッセージ)を作る練習をします。日記に書いたり、信頼できる人に話したりするのも良いでしょう。例えば、「〇〇さんの発言を聞いて、私は△△だと感じました」「この計画案について、私は□□という点で不安を感じています」のように、事実と自分の内面を結びつけて表現する練習をします。
- 目的:自分の内面を正確に捉え、それを言葉にする習慣をつけます。
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相手の意見を正確に理解する練習(傾聴・リフレクティング):
- 練習方法:チームメンバーや友人との会話の中で、相手の話を注意深く聞き、相手が言ったことや感じていることを、自分の言葉で言い換えて確認する練習をします。「つまり、〇〇ということですね?」「△△と感じていらっしゃるのですね?」のように確認します。
- 目的:相手の意図や背景を正確に理解する能力を高め、一方的なコミュニケーションを防ぎます。
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建設的な言葉を選ぶ練習:
- 練習方法:攻撃的または受動的な表現を、アサーティブな表現に言い換える練習をします。例えば、「なんで〇〇してくれないんですか!」(攻撃的)を「〇〇していただけると助かります」(アサーティブ)に、「いいです、私がやります」(受動的)を「申し訳ありません、今は他のタスクで手一杯ですので、△△さんに相談していただけますでしょうか」(アサーティブ)のように言い換えます。
- 目的:感情的にならず、相手への配慮を忘れずに、自分の意図を効果的に伝える言葉遣いを習得します。
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ロールプレイング:
- 練習方法:チームメンバーや友人、家族など、信頼できる相手に協力してもらい、想定される意見対立の場面を再現してロールプレイングを行います。自分がアサーティブな発言をする練習だけでなく、相手役として様々な反応をしてもらうことで、臨機応変に対応する練習にもなります。
- 目的:実際の状況に近い形で練習し、実践への抵抗感を減らします。
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小さな意見表明から始める:
- 練習方法:いきなり大きな意見対立の場で完璧なアサーションを目指す必要はありません。まずは、賛成の意を示す、簡単な質問をする、感謝を伝える、といった比較的小さな場面で自分の意見や感情を言葉にする練習から始めます。例えば、会議で「〇〇さんの意見に賛成です。私も△△だと思います。」と一言加えるなどです。
- 目的:成功体験を積み重ね、自信をつけていきます。
チーム内の意見対立にアサーティブに向き合うための心構え
アサーションを実践する上で、いくつかの心構えを持つことが助けになります。
- 完璧を目指さない: 最初から全てをアサーティブに伝えようと思わず、まずはできることから試してみましょう。
- 感情的にならない工夫: 意見が食い違った時、感情的になりそうになったら、一度立ち止まり深呼吸するなど、冷静さを保つ工夫をします。感情的になったら、正直に「少し感情的になってしまいました、失礼いたしました」と伝えることもアサーティブな態度です。
- 相手の意見も尊重する姿勢: 自分の意見を伝えることと同様に、相手の意見に耳を傾け、理解しようと努める姿勢が不可欠です。相手を尊重する気持ちが、アサーティブなコミュニケーションの基盤となります。
- 建設的な解決を目指す: 議論の目的は、相手を打ち負かすことではなく、チームとしてより良い結論に到達することです。この目的意識を持つことで、冷静かつ協力的な態度で臨めます。
- 言えなかったとしても自分を責めすぎない: アサーティブに伝えられなかった場面があっても、自分を責めすぎる必要はありません。「次回はこうしてみよう」と振り返り、次に活かすことが大切です。
まとめ
チーム内の意見対立は、成長の機会でもあります。アサーションスキルを活用することで、意見の衝突を恐れることなく、むしろそれを力に変えて建設的な合意形成を進めることができるようになります。
アサーションは、練習すれば誰でも習得できるスキルです。今回ご紹介した具体的な表現や練習方法を参考に、まずは小さな一歩から踏み出してみてください。チーム内のコミュニケーションが円滑になり、より生産的で協力的な関係を築いていくことができるはずです。