集中したい時に使えるアサーション:長引く雑談に優しく区切りをつける方法
業務中の長引く雑談、どう対処すれば良いか悩んでいませんか?
日々の業務において、集中して取り組みたい作業があるにも関わらず、予期せぬ雑談や立ち話が始まり、気づけば時間が経過してしまっている、という経験は多くの方がお持ちではないでしょうか。特に、仕事熱心な方ほど、依頼を断ることに抵抗を感じたり、人間関係への配慮から話を遮ることが難しく感じられたりすることがあります。結果として、業務効率が低下したり、抱えているタスクが終わらずに負担が増えたりといった悩みに繋がることも少なくありません。
このような状況で、相手との関係性を損なうことなく、自分の業務状況や集中したいという気持ちを正直に、そして誠実に伝えるためのスキルが「アサーション」です。アサーションは単に自己主張するだけでなく、相手の立場や感情にも配慮しながら、自分の意見や要求を適切に表現するコミュニケーション手法です。
ここでは、ビジネスシーン、特に業務中に長引く雑談に直面した場合に役立つアサーション表現と、すぐに実践できる具体的な練習方法について解説します。
なぜ業務中の雑談にアサーションが必要なのか
業務中に長引く雑談に適切に対応することは、個人の生産性を維持するだけでなく、チーム全体の効率にも影響します。しかし、相手が上司であったり、親しい同僚であったりする場合、露骨に話を切り上げるのは失礼にあたるのではないか、とためらってしまうものです。
ここでアサーションを用いることで、以下の二つを両立させることが可能になります。
- 自身の業務効率と集中力を守る: 抱えているタスクを期日内に完了させるために、必要な時間を確保できます。
- 良好な人間関係を維持する: 相手の人格や話そのものを否定するのではなく、あくまで「今の自分の状況」を伝えることで、相手を不快にさせる可能性を低減できます。
場面別:業務中の雑談に使えるアサーション表現例
具体的な場面を想定し、使えるアサーション表現とそのポイントをご紹介します。
場面1:集中して作業している最中に話しかけられた
重要な資料作成や、納期が迫っているタスクなど、高い集中力が必要な作業中に話しかけられた場合です。
アサーション表現例:
- 「すみません、〇〇(具体的なタスク名)の締め切りが迫っており、今集中して作業を進めておりまして。お話はとても興味があるのですが、申し訳ございません、この作業を終えてからでもよろしいでしょうか?」
- 「ありがとうございます。その件、ぜひ聞かせていただきたいのですが、今ちょうど△△(具体的な作業内容)の対応をしておりまして、手が離せない状況です。この後、〇時頃であれば少しお時間を取れるかと思いますが、いかがでしょうか?」
表現のポイント:
- まず、話しかけてくれたことへの感謝や、話の内容への関心を示すことで、相手の行為を否定しない姿勢を示します。
- 「すみません」「申し訳ございません」といったクッション言葉を適切に用います。
- なぜ今対応できないのか、具体的な理由(締め切り、作業内容)を簡潔に伝えます。これは言い訳ではなく、事実に基づいた状況説明です。
- 「今」は難しいが「後ほど」であれば対応可能である、といった代替案や具体的な時間を示すことで、話を完全に拒絶するのではなく、聞く意思はあることを伝えます。
場面2:少しの立ち話が長引いてしまった
廊下や給湯室、自席の近くなどで始まった短い立ち話が、予想以上に長くなってしまい、業務に戻りたい場合です。
アサーション表現例:
- 「大変楽しいお話なのですが、すみません、〇〇(業務内容)に戻らなければならない時間になってしまいまして。」
- 「お話、尽きないですね。ぜひ続きはまた後ほど聞かせてください。私はそろそろ△△の続きに取りかかりますね。」
- 「あっという間に時間が経ってしまいました。申し訳ありません、この後すぐに次の予定(またはタスク)が入っておりまして、失礼いたします。」
表現のポイント:
- 相手の話を肯定的に捉えつつ(「楽しいお話」「尽きないですね」)、切り上げたい理由を伝えます。
- 理由としては、「業務に戻る時間」「次の予定/タスク」など、客観的な状況を示すと相手も納得しやすくなります。
- 「また後ほど」「続きはまた今度」など、今後話す機会を持つことに言及することで、関係性を維持しようとする意思を伝えます。
場面3:上司や先輩からのフランクな雑談で切り出しにくい
特に目上の方からの雑談で、なかなか自分から話を切り出すきっかけがない場合です。
アサーション表現例:
- (上司に対して)「〇〇部長、大変勉強になるお話をありがとうございます。今後の業務に活かしてまいります。失礼ですが、この後すぐにクライアントへの提出資料を作成する必要がありまして、そろそろ席に戻らせていただいてもよろしいでしょうか?」
- (先輩に対して)「△△先輩、貴重なお話をありがとうございます!参考にさせていただきます。すみません、〇〇の作業の続きを急ぎで進めたく、そろそろ切り上げさせていただいてもよろしいでしょうか?」
表現のポイント:
- まず、相手への敬意や話の内容への感謝を丁寧に伝えます。
- あくまで「自分の状況」や「次のタスク」を理由に切り上げたい旨を伝えます。
- 目上の方への配慮として、「〜よろしいでしょうか?」と許可を求める形で尋ねると、一方的に切り上げる印象を与えにくくなります。
アサーションスキル向上のための具体的な練習法
業務中の雑談に限らず、様々な場面でアサーションを効果的に使うためには、日頃からの練習が大切です。一人でも手軽に取り組める方法をご紹介します。
練習法1:短いアサーションフレーズをストックする
まずは、今回ご紹介したようなアサーション表現の中から、自分が使いやすそうだと感じるフレーズをいくつかピックアップしてみましょう。それらのフレーズを、声に出して繰り返し練習します。声に出すことで、実際に使う際の口の動きや声のトーンを確認できます。
練習法2:具体的な場面を想定したロールプレイング(一人二役)
実際に困った場面や、今後起こりそうな場面を具体的に想像します。そして、自分自身が相手役と自分役の両方を演じてみます。相手役として「〇〇について話したいんだけど〜」と話しかけ、自分役として準備しておいたアサーションフレーズで応じてみる、という練習です。これにより、実際の会話の流れに近い形で練習ができます。
練習法3:過去の対応を振り返り、改善点を考える
過去に雑談の切り上げに困った経験があれば、その時の状況を振り返ってみましょう。「あの時、こう言えばもっとスムーズだったかもしれない」「この部分をもっと具体的に伝えれば誤解されなかったかもしれない」など、具体的な改善点を見つけ、次に活かすための表現を準備します。
練習法4:スモールステップでの実践
いきなり難しい場面で完璧なアサーションを目指す必要はありません。まずは、リスクの少ない場面や、比較的簡単な相手(例えば、気の知れた同僚との短い立ち話など)から、意識的にアサーションを使ってみましょう。成功体験を積み重ねることで、自信を持って難しい場面にも臨めるようになります。
アサーションを行う上での心構えとポイント
アサーションを実践する上で、いくつか心に留めておきたいポイントがあります。
- 事実に based description (描写) を心がける: 感情的に「いつもあなたの話は長すぎる!」と伝えるのではなく、「今、私は〇〇の作業をしています」「このタスクには〇分が必要です」のように、客観的な状況を伝えます。
- 「私」を主語にする (Iメッセージ): 「あなたは私の邪魔をしている」ではなく、「私は今、集中したいと思っています」「私は〇時までにこのタスクを終える必要があります」のように、「私」を主語にして自分の気持ちや状況を伝えます。
- 相手への配慮を忘れない: 切り上げたい理由を伝える際に、「あなたのお話はつまらないから」というニュアンスを含ませないように注意します。あくまで、自身の業務状況や次のタスクといった「自分側の都合」であることを明確に伝えます。感謝の言葉や、代替案(後で話す、別の時間にするなど)を添えると、より相手に配慮した印象になります。
- 非言語コミュニケーションも意識する: 話す時の声のトーン、表情、姿勢なども重要です。穏やかで、しかし自信を持った態度で伝えることを心がけましょう。
まとめ:業務効率と良好な関係性を守るアサーション
業務中の長引く雑談に適切に対処するアサーションは、自己肯定感を保ちながら、生産性を高めるために非常に有効なスキルです。相手を尊重しつつ、自分の状況を正直に伝えるアサーションは、一時的には勇気が必要に感じられるかもしれませんが、長期的には周囲との信頼関係を築き、ストレスを軽減することに繋がります。
今回ご紹介した表現例や練習法を参考に、まずは小さな一歩からアサーションを実践してみてください。自身の働き方をより快適で生産的なものにするために、ぜひアサーションを活用していただければ幸いです。