指示された業務、最適化したい!アサーションで上司に建設的な改善提案を伝える方法
指示された業務に疑問を感じたとき、どのように伝えていますか?
日々の業務において、上司やチームリーダーから指示を受ける機会は多くあります。これらの指示に従うことは、業務遂行の基本です。しかし、時に指示された内容に疑問を感じたり、より効率的と思われる方法があるのではないかと思ったりすることもあるかもしれません。
「この手順は非効率なのでは?」「もっと良いやり方があるのに…」そう感じながらも、「指示に逆らうと思われたくない」「生意気に聞こえるかも」といった懸念から、何も言えずに抱え込んでしまう読者の皆さまもいらっしゃるのではないでしょうか。
ただ指示に従うだけでなく、業務効率の向上やより良い成果を目指して建設的な提案をすることは、仕事への主体的な関わり方を示すことでもあります。そして、その際に重要となるのが「アサーション」のスキルです。
建設的な提案にアサーションが必要な理由
アサーションとは、相手の権利や意見を尊重しつつ、自分の意見、感情、要求を正直かつ率直に表現するコミュニケーションスタイルです。指示された業務内容に対して改善提案を行う場面においては、アサーションが特に有効です。
単に「これは間違っている」と否定するのではなく、あるいは一方的に自分の方法を押し付けるのでもなく、共通の目標である「業務の成功」や「成果の最大化」を見据えながら、自分の考えや代替案を誠実に伝えることが求められます。アサーションは、このような建設的な対話を行うための基盤となります。
指示への建設的な提案にアサーションを用いることで、以下のメリットが期待できます。
- 信頼関係の維持: 相手を尊重する姿勢を示すことで、指示した側の気分を害することなく、対話の余地を生み出します。
- 正確な情報共有: 事実や根拠に基づいた提案を行うことで、誤解なく自分の意図を伝えることができます。
- より良い成果の実現: 多角的な視点から検討することで、当初の指示よりも効率的、効果的な方法が見つかる可能性があります。
- 主体性の発揮: 受け身ではなく、自ら考えて改善に関わろうとする積極的な姿勢を示すことができます。
それでは、具体的なビジネスシーンを想定し、アサーションを用いた建設的な提案の表現例を見ていきましょう。
具体的な場面とアサーション表現例
ここでは、指示された業務に対して建設的な提案を行いたい、いくつかの典型的な場面とそのアサーション表現をご紹介します。
場面1:指示された手順に非効率さを感じる場合
例えば、繰り返し手作業で行うよう指示されたデータ集計や入力作業などが、ツールや関数を使えば自動化・効率化できるとあなたが知っている場合です。
アサーション表現例:
「〇〇部長、このデータ集計の件ですが、指示いただいた手順(A)で進めますと、完了までに約X時間かかるかと試算しております。以前、別のプロジェクトで似た作業を効率化するためにツール(B)を導入した経験がありまして、もしよろしければ、そのツール(B)を試してみてはいかがでしょうか?ツールを使えば、作業時間を半分以下に短縮できる可能性があると考えております。作業に取りかかる前に、一度ご相談させていただけますでしょうか。」
表現を選ぶ理由:
- まず、指示内容(手順A)を理解していること、そして完了までの試算を伝えています。これにより、指示を無視しているのではなく、真剣に検討した上での提案であることを示します。
- 「試算しております」「可能性があると考えております」といった推測や可能性を示す表現を使うことで、断定を避け、謙虚な姿勢を保っています。
- 代替案(ツールB)とその具体的なメリット(作業時間の短縮)を明確に提示しています。
- 「もしよろしければ」「一度ご相談させていただけますでしょうか」という言葉を添えることで、相手に選択の機会を与え、強要ではないことを伝えています。
場面2:指示の目的が不明確で、より良い代替案があると思われる場合
指示内容だけでは最終的な目的や背景が掴みきれず、指示通りに進めるよりも別の方法で進めた方が、目的達成に繋がりやすいと考える場合です。
アサーション表現例:
「〇〇さん、先ほどご指示いただいた△△の件について確認させてください。この作業の最終的な目的は□□の情報を得るため、という理解で合っておりますでしょうか?もしその目的であれば、指示いただいた方法(C)ももちろん可能ですが、弊社のシステムログを解析する方法(D)の方が、より網羅的かつ迅速に情報収集ができると考えております。もしよろしければ、システムログ解析の方法(D)で進めることも検討させていただけないでしょうか。目的について認識が誤っていましたら、ご指摘いただけますと幸いです。」
表現を選ぶ理由:
- 最初に指示の目的について自分の理解を確認しています。「〜という理解で合っておりますでしょうか?」と問うことで、相手に確認の機会を与え、対話の糸口を作ります。
- 目的が合っていることを前提に、指示された方法(C)の可能性を認めつつ、「より網羅的かつ迅速に」という具体的なメリットと共に代替案(D)を提示します。
- 「〜という理解で合っておりますでしょうか?」「認識が誤っていましたら、ご指摘いただけますと幸いです」といった表現で、自分の理解が間違っている可能性も考慮に入れていることを示し、相手の立場を尊重しています。
場面3:指示内容に事実誤認や現実的でない制約がある場合
例えば、過去のデータや現場の状況に基づくと、指示された期限での完了が物理的に不可能であったり、前提となる情報が古かったりする場合です。
アサーション表現例:
「〇〇部長、大変恐縮ながら、ご指示いただいた本件の納期についてご相談させていただけますでしょうか。指示では明日の午後までとのことですが、過去のデータ(※具体的なデータや根拠を示す)によりますと、類似の作業には通常、最短でも2日間程度を要しておりました。現在、他の進行中のタスク(※具体的に提示)もございますため、現実的には明後日の午前中までをいただけると大変助かります。もし難しければ、優先順位についてご相談させていただけないでしょうか。」
表現を選ぶ理由:
- まず、「大変恐縮ながら」「ご相談させていただけますでしょうか」と丁寧なクッション言葉を用いて切り出します。
- 指示内容(納期)を明確に伝えつつ、なぜそれが難しいのか、客観的な事実(過去のデータ、他のタスク)を根拠として示します。感情論ではなく、事実に基づいていることが重要です。
- 現実的な代替案(明後日の午前中)を具体的に提示します。
- 代替案が難しい場合の次のステップ(優先順位の相談)に言及することで、一方的に拒否するのではなく、解決策を共に探る姿勢を示しています。
建設的な提案のためのアサーション練習法
指示への建設的な提案は、相手への配慮と自分の考えを伝えるバランスが重要です。以下のステップで練習に取り組むことができます。
ステップ1:提案したい「事実」と「理由」を整理する
- 指示された内容のどこに疑問を感じるのか、具体的に書き出します。
- なぜそれが非効率なのか、なぜあなたの提案する代替案が良いのか、客観的な事実やデータ、経験に基づいた理由を明確にします。「なぜなら、過去のデータでは〜」「〇〇というメリットがあるから」「△△のリスクを回避できる」など、根拠を整理します。
- 提案を受け入れてもらうことで、どのような良い結果(効率化、コスト削減、品質向上など)が期待できるのかを考えます。
ステップ2:自分の気持ちと「I(私)メッセージ」を意識する
- 指示に対して自分がどのように感じているか(例:「より良くしたい」「心配だ」「貢献したい」)を認識します。
- 伝える際は「〜という事実から、私はこう考えます」「私は〜だと懸念しております」のように、「私」を主語にして伝えます。相手を主語にした「あなたは間違っている」「あなたのやり方はダメだ」といった表現は避けます。
ステップ3:アサーションスクリプトを作成する
- 実際に伝える言葉を書き起こしてみましょう。
- 以下の要素を含めるように構成します。
- 相手の指示内容を理解していることを示す言葉(例:「〇〇の件ですね」「ご指示ありがとうございます」)
- 提案したい背景や理由の提示(事実に基づき客観的に)
- 自分の考えや提案内容(Iメッセージ、代替案、期待される効果)
- 相手への配慮や問いかけ(例:「いかがでしょうか?」「ご意見を伺えますでしょうか?」)
- 声に出して読んでみて、不自然でないか、攻撃的に聞こえないかなどを確認します。
ステップ4:ロールプレイングやシミュレーションを行う
- 信頼できる同僚や友人に相手役をお願いし、実際に伝えてみる練習です。相手からのフィードバックをもらうことで、より効果的な表現を磨くことができます。
- 相手役が難しい場合は、一人で相手を想定して声に出してみるだけでも効果があります。
ステップ5:小さな提案から実践する
- 最初から重要な指示や、意見対立が起こりそうな場面で実践するのはハードルが高いかもしれません。
- まずは、比較的些細な指示や、相手も改善の余地があると感じていそうな場面など、成功しやすそうな小さな提案から試してみましょう。成功体験を積むことで自信に繋がります。
建設的な提案を行う上での心構え
- 目的を忘れない: あなたの提案の目的は、指示を否定することではなく、チームや組織全体の目標達成により良く貢献することにあります。この意識を持つことが、建設的なトーンを保つ上で重要です。
- 相手の立場を尊重する: 指示には指示した側の考えや背景があります。すぐに否定するのではなく、まずは相手の意図を理解しようと努める姿勢が大切です。
- 感情的にならない: 意見の対立は起こり得ますが、感情的な言葉遣いは避け、常に冷静かつ論理的に伝えることを心がけてください。
- 提案が受け入れられなくても諦めない: すぐに提案が受け入れられないこともあります。それはあなたの提案自体やあなた自身が否定されたのではなく、タイミングや状況、他の要因があるのかもしれません。今回の経験を次に活かす糧と捉えましょう。
まとめ
指示された業務に対して建設的な改善提案を行うことは、主体的に仕事に取り組み、より良い成果を目指す上で非常に価値のある行動です。しかし、その伝え方によっては、反論や否定と捉えられてしまうリスクもあります。
アサーションは、相手への敬意を払いながら、自分の考えや提案を誠実に伝えるための強力なスキルです。具体的な事実に基づき、「私」を主語にしたメッセージで、代替案とそのメリットを明確に提示することで、信頼関係を損なわずに建設的な対話を進めることが可能になります。
今回ご紹介したアサーション表現例や練習法を参考に、小さな一歩から実践を始めてみてください。業務を「こなす」だけでなく、自らより良い形に「デザインしていく」ことができるようになり、きっと仕事のやりがいも増していくはずです。