このタスク、誰がどこまで?アサーションで明確にする役割分担と期待値の伝え方
曖昧な役割分担や期待値のズレが引き起こす問題
ビジネスの現場では、新しいプロジェクトやタスクが立ち上がる際に、担当者の役割や期待される成果について、曖昧なまま進んでしまうケースが少なくありません。こうした状況は、後々以下のような問題を引き起こす可能性があります。
- 業務の重複や抜け漏れ: 誰が何をするのかが不明確なため、同じ作業を複数の人が行ったり、逆に誰も手をつけなかったりする。
- 手戻りの発生: 想定していた成果物と実際のものにズレがあり、修正に多大な時間と労力がかかる。
- 不満や対立: 「自分がやるべきことではなかったのに」「〇〇さんがやってくれると思っていた」といった相互の不満が生じる。
- 業務圧迫: 曖昧なまま引き受けてしまい、自分の本来の業務を圧迫する。
読者の皆さまの中には、こうした経験をお持ちの方もいらっしゃるかもしれません。特に、依頼を断るのが苦手だったり、会議で確認の質問をするのをためらってしまったりする場合、曖昧な指示をそのまま受け入れてしまいがちです。
このような状況を改善し、チーム全体の効率を高め、自分自身の業務を適切に管理するためには、「アサーション」を用いた期待値のすり合わせが非常に有効です。
期待値すり合わせにおけるアサーションの重要性
アサーションは、相手の意見や感情を尊重しつつ、自分の考え、感情、要求を率直かつ誠実に伝えるコミュニケーションスキルです。期待値のすり合わせにおいて、アサーションは単なる「確認」に留まらず、相互の認識を一致させ、誤解を防ぐための重要な役割を果たします。
- 不明確な点を明確にする: 曖昧な指示や役割について、臆することなく質問し、具体的な内容を引き出す。
- 自分の認識を伝える: タスクの範囲や期待される成果について、自分がどう理解しているかを相手に伝え、認識のズレがないかを確認する。
- 懸念点や制約を共有する: 自分のスキルセット、現在の業務負荷、必要なリソースなど、タスク遂行上の懸念点や制約を正直に伝える。
- 協力体制を確認する: チームメンバー間の連携や協力が必要な部分について、具体的な方法や担当を確認する。
アサーションを用いることで、相手を責めることなく、「私はこう認識している」「私には〇〇が必要です」という形で、建設的にコミュニケーションを進めることができます。これにより、不必要な衝突を避けつつ、互いが納得する形で期待値を調整することが可能になります。
具体的な場面で使えるアサーション表現と意図
ここでは、ビジネスシーンでよく直面する期待値すり合わせの場面を想定し、具体的なアサーション表現とその意図を解説します。
場面1:新しいタスクを依頼されたが、内容や期待が不明確な場合
上司や同僚からタスクを依頼されたものの、「ちょっとこれお願い」「〇〇について調べておいて」といったように、指示が抽象的で具体的な内容や、どのレベルの成果を求められているのかが分かりづらい状況です。
使えるアサーション表現例:
- 「このタスクについて、いくつか確認させて頂けますでしょうか?」
- 「具体的にどのようなアウトプットを期待されていますか?例えば、レポート形式でまとめるイメージでしょうか、それとも箇条書きで十分でしょうか?」
- 「タスクの範囲について、私の認識では〇〇までと考えておりますが、こちらの理解で合っておりますでしょうか?」
- 「完了の期日は△△ですね。この期日までに求めるレベル感について、認識をすり合わせさせていただけますか?」
- 「このタスクを進める上で、〇〇の情報や、△△部署の協力は必要になりますでしょうか?」
表現を選ぶ理由や意図:
- これらの表現は、まず相手への敬意を示しつつ(「確認させて頂けますでしょうか」)、具体的に何が不明確なのかを pinpoint して質問しています。
- 単に「分かりません」と言うのではなく、「どのようなアウトプット」「範囲は〇〇までという認識」のように、具体的な選択肢や自分の認識を提示することで、相手も答えやすくなります。
- 期日や必要なリソースについても具体的に確認することで、タスクの現実的な遂行可能性や協力体制を早期に把握できます。
- 主語を「私」や「このタスクについて」とすることで、相手の指示自体を否定するのではなく、あくまで「自分の理解を明確にしたい」「必要な情報を得たい」という姿勢を示せます。
場面2:チーム内でタスクが進んでいるが、役割分担や進捗が曖昧になっている場合
プロジェクト進行中、担当が明確でなかったり、複数の人が似たような作業をしていたり、逆に誰も担当していない部分があったりする状況です。
使えるアサーション表現例:
- 「皆様、〇〇タスクの件で、現状の役割分担について一度確認させていただけますでしょうか。」
- 「△△の部分は、どなたがご担当されていますか?もし未割当でしたら、私が担当することも可能です。」
- 「この工程について、私の担当範囲はここまでで、この先は〇〇さんのご担当という認識で合っておりますでしょうか?」
- 「全体の進捗状況を把握するため、皆様の現在の状況を簡単に共有いただけますでしょうか?私の担当している部分は現在◇◇の段階です。」
- 「このタスクについて、必要な協力や情報がありましたら、遠慮なくお申し付けください。私も可能な範囲でサポートさせていただきます。」(これは相手への貢献意思のアサーションですが、期待値のすり合わせに繋がります)
表現を選ぶ理由や意図:
- 会議やチャットなどで、チーム全体に向けてオープンに確認を促します。「皆様」「一度確認させていただけますでしょうか」と伝えることで、個人攻撃ではないことを明確にします。
- 曖昧な部分を具体的に指摘し(「△△の部分」)、誰が担当しているかを確認します。必要であれば、自ら担当する意思を示すことも、建設的なアプローチです。
- 自分の担当範囲を明確に伝え、相手の認識と一致しているかを確認することで、将来的なズレを防ぎます。
- 自身の進捗を共有することで、他のメンバーも自身の状況を共有しやすくなり、全体の期待値が調整されやすくなります。
場面3:自分の作業状況や認識を共有し、相手の期待値を調整したい場合
タスクを進める中で、当初の想定よりも時間がかかっている、あるいは特定の前提が崩れたため計画変更が必要になったなど、自分の状況を正直に伝え、相手の期待値を現実的なものに調整したい状況です。
使えるアサーション表現例:
- 「〇〇タスクの進捗について、現在のご状況をご共有させて頂けますでしょうか。」(相手から聞かれる前に自分から報告する)
- 「このタスクについて、当初の見込みよりも〇〇の点で時間を要しており、現在◇◇の段階です。」
- 「△△の情報が得られていないため、当初予定していた方法から□□に変更する必要がありそうです。現状をご報告させて頂き、今後の進め方についてご相談させて頂けますでしょうか。」
- 「誠に申し訳ございませんが、現在の私の業務負荷を鑑みますと、このタスクを△△期日までに完了するのが難しい可能性が出てきました。現状をご説明させて頂き、期日やタスク内容について調整をご相談させて頂けますでしょうか。」
- 「この点について、私の認識ではこのように理解しておりますが、〇〇さんの期待されていることと合致しておりますでしょうか?」
表現を選ぶ理由や意図:
- 事実(時間を要している点、情報不足など)に基づき、客観的に状況を伝えます。感情的な表現は避け、「〇〇の点で時間を要している」「△△の情報が得られていない」のように具体的に伝えます。
- 報告とともに、「今後の進め方についてご相談」「期日やタスク内容について調整をご相談」のように、相談や解決に向けた姿勢を示すことが重要です。一方的に「できません」と伝えるのではなく、共に解決策を探るアプローチを取ります。
- 自分の業務負荷についても、正直に伝えることが自己防衛と適切な業務管理のために不可欠です。「申し訳ございませんが」といったクッション言葉を用いつつ、現在の状況と必要な調整について具体的に相談を投げかけます。
期待値すり合わせのアサーションスキルを向上させるための練習方法
アサーションは、練習によって誰でも習得できるスキルです。特に期待値のすり合わせに必要なアサーションを身につけるために、以下のステップで取り組んでみましょう。
ステップ1:自分の「苦手な場面」を特定する(自己分析)
- 期待値のズレや役割の曖昧さで困った経験を振り返ってみましょう。
- どのような状況で、どのように伝えたらよかったのか、あるいは伝えられなかったのかを具体的に書き出してみます。
- 特に、確認や質問をためらってしまうのは、どのような相手や状況が多いでしょうか?
ステップ2:場面ごとの「理想的なアサーション表現」を書き出す
- ステップ1で特定した場面ごとに、今回の記事で紹介した表現例や、自分で考えた表現を書き出してみましょう。
- 「相手を尊重しつつ、自分の意向を誠実に伝える」というアサーションの原則に沿っているか確認します。
- 声に出して読んでみて、自然な表現になっているか試してみましょう。
ステップ3:小さな場面から実践してみる(スモールステップ)
- いきなり重要な場面で使うのではなく、リスクの少ない小さな場面から試してみます。
- 例えば、「この資料、どこに保管されていますか?」など、確認が容易な質問から始めてみましょう。
- 成功体験を積むことが自信に繋がります。
ステップ4:ロールプレイングで練習する
- 家族や信頼できる友人、同僚に協力してもらい、想定されるビジネスシーンを設定してロールプレイングを行います。
- 相手に上司役や同僚役になってもらい、様々な反応を試してもらうと効果的です。
- 自分の話し方や表情、声のトーンなどを客観的に見てもらうことも役立ちます。
ステップ5:実践を振り返り、改善を続ける
- 実際にアサーションを使ってみたら、その結果を振り返ります。「どう感じたか」「相手はどのように反応したか」「もっとこうすれば良かった」などを記録しておくと、次の実践に活かせます。
- うまくいかなかったとしても落ち込む必要はありません。アサーションは継続的な練習によって磨かれるスキルです。
アサーションを行う上での心構えとポイント
- 完璧を目指さない: 最初から全てを完璧に伝えようとせず、まずは自分の意図の半分でも伝えられれば良しとしましょう。
- 事実に基づいた描写: 自分の解釈や感情だけでなく、「〇〇という指示でしたが、△△については具体的にどう進めますか?」のように、客観的な事実や状況に基づいて伝えます。
- 「私」を主語に(Iメッセージ): 「あなたは指示が曖昧です」ではなく、「私はこの点について理解を明確にしたいです」「私の認識ではこうなのですが」のように、「私」を主語にして伝えると、相手に受け入れられやすくなります。
- 相手の状況への配慮: 相手が非常に忙しそうな場合は、伝えるタイミングを工夫したり、「今、少しお時間よろしいでしょうか」と確認してから話したりする配慮も重要です。
- 関係性の維持: 期待値のすり合わせは、相手との信頼関係を損なうことなく行うべきです。攻撃的な言葉遣いや非難する態度は避け、協力的な姿勢で臨みましょう。
まとめ
ビジネスにおける役割分担や期待値の曖昧さは、業務効率の低下や人間関係の悪化を招く可能性があります。アサーションを用いることで、相手を尊重しつつ、自分の認識や必要な情報を誠実に伝え、建設的な期待値のすり合わせが可能になります。
具体的なアサーション表現を学ぶこと、そしてそれを実際のビジネスシーンで少しずつ練習することによって、期待値のズレによる問題を減らし、よりスムーズで効率的なコミュニケーションを実現できるようになります。
今回ご紹介した表現例や練習方法を参考に、ぜひ日々の業務の中でアサーションを実践してみてください。継続することで、自信を持って役割や期待値を明確に伝えられるようになるでしょう。