「すみません」を卒業!不要な謝罪を減らし、自信を伝えるアサーション表現と練習法
ビジネスシーンで「すみません」が口癖になっていませんか?
多くのビジネスパーソンが、無意識のうちに「すみません」という言葉を多用しているかもしれません。特に、自己表現が苦手だと感じている方や、相手に迷惑をかけたくない、波風を立てたくないという思いが強い方にとって、「すみません」はつい口から出てしまうフレーズになっていることがあります。
たとえば、
- 相手に話しかけるとき
- 資料を依頼するとき
- 意見を述べるとき
- 席を立つとき、通路を通るとき
- 相手に少しでも手間をかけさせてしまったとき
- 感謝の気持ちを伝えたいとき
など、謝罪が必要ない場面でも「すみません」と言ってしまうことは少なくありません。
しかし、この「すみません」の多用は、時にあなたの自信がないように見えたり、伝えたい意図が曖昧になったりする原因となります。本記事では、「すみません」を不要な場面で使う癖を直し、より明確で自信のあるコミュニケーションを実現するためのアサーション表現と具体的な練習方法をご紹介します。
なぜ「すみません」を多用してしまうのか
「すみません」を多用する背景には、様々な心理が考えられます。
- 相手への遠慮や配慮: 相手の時間を取らせてしまう、手間をかけさせてしまうことへの申し訳なさ。
- 自己肯定感の低さ: 自分の存在や発言が相手にとって負担になるのではないか、という不安。
- 波風を立てたくない気持ち: 自分の意見や要求が相手を不快にさせるのではないか、という懸念。
- 習慣: 特に意図はなく、会話の潤滑油として無意識に使ってしまう。
これらの心理は、相手を尊重しようという気持ちの表れでもありますが、過度になると自分自身を必要以上に卑下しているような印象を与えかねません。
「すみません」からアサーションへ:自己尊重と相手尊重のバランス
アサーションとは、相手を尊重しつつ、自分の考え、気持ち、要求を誠実に、率直に伝えるコミュニケーションスキルです。「すみません」を多用する状態は、しばしば相手への配慮(相手尊重)が過剰になり、自分の意志や存在(自己尊重)が後景に退いてしまっていると言えます。
アサーションの実践は、「すみません」を必要ない場面で使うことを減らし、代わりにその状況にふさわしい、より正確な言葉を選ぶことから始まります。これは謝罪をしないということではなく、謝罪が必要な場面とそうでない場面を区別し、それぞれの状況に最も適した言葉を選ぶということです。
「すみません」の代わりに適切なアサーション表現を使うことで、あなたの意図はより明確に相手に伝わり、自信を持ってコミュニケーションしているという印象を与えることができます。
場面別:「すみません」の代わりに使えるアサーション表現
ここでは、「すみません」と言ってしまいがちな具体的なビジネスシーンを想定し、その代わりに使えるアサーション表現の例文をご紹介します。
1. 相手に感謝の気持ちを伝えたいとき
- NG例: 「すみません、資料作成ありがとうございます。」
- アサーション表現:
- 「ありがとうございます。大変助かりました。」
- 「ご対応いただき、ありがとうございます。」
- 「〇〇さんのおかげで、無事△△が完了しました。感謝申し上げます。」
- 表現を選ぶ理由・意図: 謝罪ではなく、感謝の気持ちをストレートに伝えることで、相手の貢献を正当に評価していることが明確に伝わります。「ありがとう」はポジティブな感情を共有し、良好な関係を築く上で非常に重要な言葉です。
2. 相手に何かを依頼したいとき
- NG例: 「すみません、これお願いできますか?」
- アサーション表現:
- 「〇〇さん、△△についてご相談したいのですが、少々お時間をいただけますでしょうか。」
- 「恐れ入りますが、この件についてお手伝いいただけますでしょうか。」
- 「〇〇をお願いしたいのですが、現在ご対応いただくことは可能でしょうか。」
- 表現を選ぶ理由・意図: 依頼の前に不必要な謝罪を挟まず、まず相手に声をかけたり、本題に入る許可を得たりすることで、相手の状況への配慮を示しつつ、依頼内容を明確に伝えようとする姿勢を示せます。依頼自体は正当な業務行為であり、謝罪する類のものではないことを理解しましょう。
3. 通路を通る、相手の前を横切るなど、物理的に相手の空間に入る・横切るとき
- NG例: 「すみません」(と言いながら通る)
- アサーション表現:
- 「失礼いたします。」
- 「少々失礼します。」
- 表現を選ぶ理由・意図: これは謝罪ではなく、相手の空間やプライバシーに配慮し、敬意を示すための挨拶です。「失礼します」が適切な表現であり、「すみません」を使う必要はありません。
4. 相手に少し手間をかけさせてしまったとき
- NG例: 「ああ、すみません!」(資料を落とした、道を尋ねたなど)
- アサーション表現:
- 「お手数をおかけいたしました。」
- 「大変助かります。ありがとうございます。」
- (資料を拾ってもらった場合など)「ありがとうございます。」
- 表現を選ぶ理由・意図: 軽微な手間であれば、謝罪よりも感謝を伝える方が自然でポジティブな印象を与えます。「お手数をおかけしました」は謝罪に近いですが、具体的な状況に対する労いとして適切です。
5. 自分の意見や提案を述べるとき
- NG例: 「すみません、私の意見なのですが…」
- アサーション表現:
- 「〇〇について、このように考えております。」
- 「△△という点について、ご提案がございます。」
- 「この件に関して、私から一つ申し上げてもよろしいでしょうか。」
- 表現を選ぶ理由・意図: 意見や提案は、ビジネスにおける建設的な貢献です。謝罪から入る必要はありません。自分の発言に価値があるという意識を持ち、自信を持って切り出しましょう。
これらの例はあくまで一部です。様々な場面で、自分が無意識に「すみません」と言っていないか注意を払ってみてください。そして、「この状況で本当に謝罪が必要だろうか?」「謝罪以外の、もっと適切な言葉はないだろうか?」と考えてみることが第一歩です。
「すみません」を減らすための実践的な練習方法
「すみません」が口癖になっている場合、それを意識して減らすのは簡単ではありません。しかし、具体的なステップを踏んで練習することで、着実に変えていくことが可能です。
ステップ1:自己観察と状況把握
まず、自分がどのような状況で「すみません」と言っているのかを意識的に観察することから始めましょう。
- 1週間程度、自分が「すみません」と言った場面を記録してみてください。手帳やスマートフォンのメモ機能を使うと便利です。
- 「いつ?」「誰に対して?」「どんな状況で?」「なぜその言葉が出てきたと感じるか?」などを簡単に書き留めます。
このステップで、自分の「すみません」癖のパターンを把握することができます。
ステップ2:代替表現リストの作成
ステップ1で見つけた「すみません」を言う場面ごとに、今回ご紹介したような代替となるアサーション表現をリストアップします。
- 例えば、「依頼するとき」の欄に「〇〇についてご相談したいのですが、お時間をいただけますか」といったフレーズを書き加えていきます。
- 自分にとって使いやすく、自然に感じるフレーズを選ぶことが大切です。
ステップ3:スモールステップでの実践
いきなり全ての場面で完璧に代替表現を使うのは難しいかもしれません。まずは、比較的プレッシャーの少ない場面や、特に意識しやすい特定の状況から練習を始めましょう。
- 例えば、「朝、自分の席に座るときに周囲に『すみません』と言わないようにする(無言か、『おはようございます』に置き換える)」など、簡単な行動から始める。
- 「資料を受け取った時に『すみません』ではなく『ありがとうございます』と言う練習をする」など、具体的な場面一つに絞って意識的に取り組んでみる。
成功体験を積み重ねることがモチベーション維持につながります。
ステップ4:ロールプレイングまたはイメージトレーニング
実際の会話でスムーズに代替表現を使えるように、声に出して練習します。
- 一人で、鏡を見ながら、あるいは録音しながら練習する。
- 信頼できる同僚や友人、家族に協力してもらい、想定されるビジネスシーンでロールプレイングを行う。相手からフィードバックをもらうとさらに効果的です。
頭の中で考えるだけでなく、実際に口に出す練習をすることで、いざという時に自然に言葉が出てくるようになります。
ステップ5:成功と課題の振り返り
練習の成果を定期的に振り返ります。
- 「今週は〇回のうち△回、『すみません』を代替表現に置き換えられた」といった具体的な目標設定と評価を行う。
- うまくいかなかった場面があれば、「なぜ言えなかったのか?」「次はどうすれば良いか?」を分析し、次の練習に活かします。
完璧を目指すのではなく、少しずつ改善していくプロセスを楽しむ姿勢が重要です。
アサーション実践のための心構え
「すみません」を減らし、アサーションを実践する上で、いくつかの心構えが役立ちます。
- 謝罪と感謝・依頼・意見表明を区別する: 本当に自分が過ちを犯したわけではないなら、謝罪は不要です。感謝すべきか、依頼すべきか、意見を述べるべきか、状況に応じて言葉を使い分けましょう。
- 自分の言動に自信を持つ: 自分の意見や要求は、個人的な感情や単なるわがままではなく、業務遂行上必要なこと、あるいは建設的な貢献である場合が多いはずです。正当な理由がある自分の言動に、不要に「すみません」と添える必要はありません。
- 「私」を主語にする: 意見や気持ちを伝える際は、「~べきです」「~は間違っています」ではなく、「私は~と思います」「私は~と感じています」のように「私」を主語にすることで、自分の正直な気持ちや考えとして伝えられ、相手も受け入れやすくなります。
- 相手への配慮は、謝罪以外の言葉で示す: 相手への感謝は「ありがとう」、相手へのねぎらいは「お疲れ様です」「助かります」、相手の状況への配慮は「ご多忙のところ恐縮ですが」「今、お時間よろしいでしょうか」といった、状況に合ったポジティブな言葉で示しましょう。「すみません」で済ませず、適切な言葉を選ぶ丁寧さが、真の配慮につながります。
まとめ
ビジネスシーンでの「すみません」の多用は、時にあなたの自信を損ない、コミュニケーションを曖昧にする可能性があります。これは自己表現が苦手な方や、相手への配慮が深い方に特に見られる傾向です。
しかし、アサーションの考え方に基づき、「すみません」を言うべき場面とそうでない場面を区別し、状況に合った適切なアサーション表現を選ぶことで、より明確で誠実なコミュニケーションが可能になります。
本記事でご紹介した代替表現の例や、自己観察、代替表現リスト作成、スモールステップでの実践といった練習方法をぜひ日々のコミュニケーションに取り入れてみてください。
「すみません」を少しずつ手放し、感謝は「ありがとう」、依頼は丁寧な形で、意見は自信を持って伝えることで、あなたは周囲からの信頼を得ながら、自分自身の心も軽くすることができるでしょう。今日から、小さな一歩を踏み出してみませんか。