目標と評価の認識ずれを解消!上司と建設的にすり合わせるアサーション術
目標設定・評価での認識ずれ、抱え込んでいませんか?
仕事熱心なビジネスパーソンほど、与えられた目標に対して真摯に向き合い、日々の業務に励まれていることと思います。しかし、目標設定の段階や、その後の評価プロセスで、上司との間で微妙な認識のずれが生じ、モヤモヤを抱え込んでしまうという経験をお持ちの方もいらっしゃるのではないでしょうか。
例えば、
- 提示された目標の意図が不明確で、具体的に何をすれば良いか分からない。
- 自分の業務範囲や能力から見て、目標設定が現実的ではないと感じる。
- 日々の努力や成果が、上司に適切に認識されていないように感じる。
- 評価結果に納得がいかないが、どう伝えれば良いか分からない。
このような認識のずれを曖昧なままにしておくと、モチベーションの低下につながったり、不要なストレスを抱え込んだりする原因となります。また、上司との信頼関係にも影響を与えかねません。
こうした状況を建設的に乗り越えるために有効なのが、「アサーション」のスキルです。アサーションは単なる自己主張ではなく、相手を尊重しながら、自分の考えや感情、要求を正直かつ率直に伝えるコミュニケーション手法です。目標設定や評価の場面でアサーションを用いることで、上司との相互理解を深め、より納得感のある状態で仕事を進めることができるようになります。
この記事では、目標設定や評価の際によくある認識ずれの場面を取り上げ、具体的なアサーション表現の例文とその意図を解説します。さらに、アサーションスキルを身につけるための具体的な練習法についてもご紹介します。
目標設定・評価におけるアサーションの重要性
目標設定や評価の場は、上司と部下が、期待される役割や成果、そしてその達成度についてすり合わせを行う重要な機会です。ここでアサーションを活用することには、以下のようなメリットがあります。
- 目標の明確化: 曖昧な目標の意図を確認したり、自身の状況を踏まえた提案をすることで、現実的で納得感のある目標を設定できます。
- 相互理解の促進: 自分の考えや懸念を正直に伝えることで、上司はあなたの状況や視点を理解しやすくなります。同時に、上司の期待や評価基準を正確に把握できます。
- 主体性の向上: 目標設定や評価プロセスに主体的に関わることで、「やらされ感」ではなく「自分で目標を設定し、達成を目指す」という意識が高まります。
- 建設的な関係構築: 困難な話題であっても、感情的にならず誠実に伝える練習をすることで、上司との信頼関係を強化できます。
アサーションは、一方的に自分の主張を通すことではありません。上司の考えや立場も尊重しつつ、対話を通じて共通の理解点を見つけ、より良い結果を目指すためのツールです。
【場面別】目標設定・評価での具体的なアサーション表現
ここでは、目標設定や評価の際によくある場面を想定し、具体的なアサーション表現の例文と、その表現を選ぶ理由・意図を解説します。
場面1:目標設定の意図が不明確・目標が現実的ではないと感じる
上司から新しい目標を提示されたが、その背景や具体的な達成イメージが掴めない、あるいは現在の業務量やスキルから考えて達成が困難だと感じている場面です。
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使えるアサーション表現の例文: 「〇〇(目標)についてご提示いただき、ありがとうございます。この目標の背景にある、部署としての、あるいは会社としての期待について、もう少し詳しく教えていただけますでしょうか。また、特に〇〇(具体的な業務や成果)に力を入れるイメージでしょうか?私の現在の担当業務を鑑みますと、△△(懸念事項)といった点で調整やサポートが必要になる可能性があるかと考えております。目標達成に向けて、どのようなアプローチが現実的か、ご相談させていただけますでしょうか。」
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表現を選ぶ理由・意図: まず感謝と受け止めを示すことで、上司の提示を否定する意図がないことを伝えます。「詳しく教えていただけますか?」「〜というイメージでしょうか?」と問いかけることで、目標の意図や具体的な内容の明確化を促します。自身の懸念(△△が必要)を「〜可能性」と示唆することで、一方的な断定を避けつつ、客観的な状況を伝えます。「ご相談させていただけますか」と、共に解決策を探る姿勢を示すことで、建設的な対話へと導きます。
場面2:進捗状況と上司の期待にずれがある
目標達成に向けて業務を進めているものの、想定よりも進捗が遅れている、あるいは途中で見込みが変わってきたが、上司が抱いている進捗イメージとは異なると感じている場面です。
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使えるアサーション表現の例文: 「〇〇(目標)の現在の状況をご報告させていただきます。現在、△△(具体的な進捗)まで進んでおります。当初想定していた課題として、□□(具体的な課題)が発生しており、その対応に想定より時間を要しております。このままですと、期日までに完了することが難しくなる可能性がございます。つきましては、〇〇の優先度を再度見直していただくか、あるいは、他の業務との兼ね合いで、××(具体的な支援や調整案:例:他のメンバーへの一部依頼、期日の再設定検討など)といったご支援を頂けますと大変助かります。状況について、ご相談させていただけますでしょうか。」
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表現を選ぶ理由・意図: まず事実(具体的な進捗、発生している課題)を冷静に伝えます。「〜可能性がございます」と、客観的な見込みを伝達し、問題を共有します。次に、解決策の選択肢(優先度見直し、具体的な支援)を提案することで、ただ問題を報告するだけでなく、解決に向けて主体的に考えている姿勢を示します。「ご相談させていただけますか」と、一方的な要求ではなく、対話を通じて最善策を見つけたい意図を伝えます。
場面3:評価結果に納得がいかない、または評価の根拠を理解したい
期末評価などで、自己評価と上司からの評価にずれがある、あるいは評価の理由や基準が腑に落ちないと感じている場面です。
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使えるアサーション表現の例文: 「〇〇(評価項目/期全体の評価)について、評価いただきありがとうございます。この評価について、いくつかご質問させていただいてもよろしいでしょうか。例えば、△△(具体的な業務や成果)については、私自身は□□(自己評価のポイントや努力内容)と考えておりましたが、上司からはどのような点をご評価いただけたのでしょうか、あるいは、さらなる改善点としてどのような点をご覧になりましたでしょうか。今回の評価を今後の成長に繋げたいと考えておりますので、評価の背景や具体的なフィードバックについて、詳しくお聞かせいただけますと幸いです。」
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表現を選ぶ理由・意図: まず感謝を伝え、評価を受け止める姿勢を示します。評価そのものへの反論ではなく、「ご質問」「詳しくお聞かせいただきたい」と、評価の根拠や背景を理解したいという意図を明確に伝えます。自己評価とのずれがある点については、「私自身は〜と考えておりましたが」と、「私」を主語にして自身の認識を伝えつつ、上司の視点を尋ねる形にします。これは、相手の評価を頭ごなしに否定するのではなく、対話を通じて理解を深めようとする姿勢です。「今後の成長に繋げたい」と伝えることで、評価をポジティブに活かしたいという建設的な目的を示し、上司がフィードバックしやすくなります。
アサーションスキルを向上させるための具体的な練習法
アサーションは、意識と練習によって習得できるスキルです。日々の業務の中で、少しずつ実践していくことが大切です。ここでは、一人でも取り組める具体的な練習方法をご紹介します。
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ステップ1:自分の状況と感情を整理する
- 目標設定や評価の場で「言えなかった」「モヤモヤした」状況を具体的に書き出してみましょう。
- その時、自分はどのように感じたのか(不安、不満、困惑など)を正直に書き出します。
- 具体的に、何について、相手にどう伝えたかったのか、あるいは今後どう伝えていきたいのかを明確にします。曖昧な「なんとなく」ではなく、「〇〇の目標設定の際に、期日について現実的ではないと感じたため、現状の業務量を伝え、期日を見直す相談をしたかった」のように具体的に整理します。
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ステップ2:具体的なアサーション表現を考える
- ステップ1で整理した内容に基づき、この記事で紹介した例文などを参考にしながら、実際に使う言葉を考えてみましょう。
- ポイントは、「私」を主語にする(I'm message)、「事実」に基づいて描写する、「要求」を明確に伝えることです。
- 例:「あなたのせいで困っている」ではなく、「私は〇〇という状況であるため、△△だと感じています。つきましては、□□としていただけると助かります」のように組み立てます。
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ステップ3:伝える練習をする
- ステップ2で考えた表現を、声に出して言ってみましょう。鏡の前で、自分の表情や声のトーンを確認しながら練習するのも効果的です。
- 可能であれば、信頼できる同僚や友人に協力してもらい、ロールプレイング形式で練習します。相手役から様々な反応をもらうことで、実際の場面に近い状況で対応力を養うことができます。
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ステップ4:スモールステップで実践する
- いきなり難しい状況で完璧なアサーションを目指す必要はありません。まずは、比較的伝えやすい簡単な確認や依頼から始めてみましょう。
- 例:「〇〇の件ですが、△△という理解で合っていますでしょうか?」といった確認の質問や、「恐れ入りますが、〇〇について教えていただけますか?」といった簡単な依頼などです。
- 小さな成功体験を積み重ねることで、自信を持ってより複雑な状況でもアサーションを使えるようになります。
アサーションを行う上での心構えとポイント
目標設定や評価の場でアサーションを実践する際には、以下の心構えやポイントを意識することが大切です。
- 事実に基づいて話す: 感情的な非難ではなく、具体的な状況や観察された事実を伝えます。「いつも指示が曖昧だ」ではなく、「〇〇の件について、△△という点(具体的な指示内容)が私には不明確に感じられました」のように伝えます。
- 「私」を主語にする (I'm Message): 自分の感情や考えは、「私は〜と感じる」「私は〜と思う」と、「私」を主語にして伝えます。これは、相手を非難することなく、自分の内面を表現する方法です。
- 相手への配慮を忘れない: 上司の立場や状況にも思いを馳せ、敬意をもって伝えます。忙しい時間帯を避ける、事前にアポイントを取るなど、伝えるタイミングや場所への配慮も有効です。
- 傾聴の姿勢を持つ: 自分の意見を伝えるだけでなく、上司の言葉に耳を傾け、その意図や背景を理解しようと努めます。相互理解こそが、認識のずれを解消する鍵となります。
- 一度で解決しないこともあると理解する: 特に根深い認識のずれは、一度の話し合いで完全に解消しない場合もあります。粘り強く、対話を続ける姿勢が大切です。アサーションは、関係性を壊すためのものではなく、建設的な対話を継続するためのスキルです。
まとめ:アサーションで、より納得感のある目標・評価プロセスへ
目標設定や評価の場面で上司との認識のずれに直面することは、多くのビジネスパーソンが経験することです。こうした状況で言いたいことを我慢したり、曖昧なままにしておいたりすることは、あなた自身の成長や仕事へのモチベーションにとってマイナスになりかねません。
アサーションは、こうした状況を主体的に、そして建設的に乗り越えるための強力なスキルです。相手を尊重しながら、自分の考えや状況を誠実に伝えることで、目標設定はより明確になり、評価プロセスはより納得感のあるものへと変わっていくでしょう。
すぐに完璧なアサーションができなくても問題ありません。まずはこの記事で紹介した具体的な表現や練習法を参考に、小さな一歩から踏み出してみてください。あなたの声が、より良い目標設定と評価、そして上司との信頼関係を築く力となるはずです。
ぜひ、今日からアサーションを意識したコミュニケーションを実践し、仕事への納得感と充実感を高めていきましょう。