「これ私の仕事?」他部署からの急な依頼、アサーションで適切に対応し業務を守る方法
「これ私の仕事?」他部署からの急な依頼にどう応じるか
ビジネスの現場では、自分の所属するチームや部署の責任範囲を超えた依頼を、他部署や社内の別の方から受ける機会があるかもしれません。特に、突発的な依頼や、誰が担当すべきか不明確なケースでは、「これ、私の仕事なのだろうか?」と戸惑いを感じつつも、断りづらさからつい引き受けてしまい、結果として自身の本来業務が圧迫されてしまう、という経験をお持ちの方もいらっしゃるのではないでしょうか。
仕事熱心な方ほど、頼まれると何とか力になりたい、あるいは「断ると角が立つのでは」「協力しないと評価が下がるのでは」といった懸念から、無理をして引き受けてしまうことがあります。しかし、これが常態化すると、業務過多に陥り、本来注力すべき業務の質が低下したり、長時間労働につながったりするリスクがあります。
このような状況で、自分自身を守りつつ、相手との良好な関係を維持するために役立つのが「アサーション」です。アサーションとは、相手の権利や感情を尊重しながら、自分の意見や要求、感情を誠実に率直に表現するコミュニケーションスキルです。単に自己主張を押し通すのではなく、お互いを尊重し合う姿勢が基盤となります。
この記事では、他部署や業務範囲外からの急な依頼に対し、アサーションを用いて適切に対応するための具体的な表現方法と、それを身につけるための練習法をご紹介します。
アサーションの重要性:なぜ業務範囲外の依頼に適切に対応する必要があるのか
業務範囲外からの依頼に適切に対応することは、個人の業務効率と組織全体の生産性の両方に関わる重要な問題です。
- 自身の業務を守る: 自身の責任範囲を明確にし、不要な業務を引き受けないことで、本来行うべき業務に集中できます。これは自身のパフォーマンス維持・向上に直結します。
- 業務過多を防ぐ: 無計画に依頼を受けることは、自身のキャパシティを超え、納期遅延や質の低下を招く可能性があります。アサーションによって、引き受けられる範囲を明確にできます。
- 責任範囲を明確にする: 誰がどの業務を担当するのかを明確にすることは、業務の効率化と属人化の防止に繋がります。
- 相手との関係を維持する: ただ単に「できません」と断るのではなく、アサーションを用いることで、相手を尊重しつつ理由を伝えることができるため、関係性の悪化を防ぎます。
場面別の具体的なアサーション表現
ここでは、業務範囲外からの依頼に対して考えられるいくつかの具体的な場面と、それぞれに応じたアサーション表現の例をご紹介します。アサーションの基本的な考え方である「I(私)メッセージ」(主語を「私は〜」とする)、「Descripition(描写)」(状況や事実を客観的に述べる)、「Expression(表現)」(自分の感情や考えを伝える)、「Specific(具体的)」(具体的な解決策や代替案を提示する)の要素を意識すると、より効果的な表現になります。
場面1:依頼内容が自分の業務範囲に属するか不明確な場合
依頼を受けたものの、それが本当に自分の担当すべき業務なのか、あるいはどの部署が担当すべきなのかが不明確な場合があります。曖昧なまま引き受けてしまうと後々問題になる可能性があるため、まずは事実を確認することが重要です。
アサーション表現例:
「〇〇さん、この件についてご相談いただきありがとうございます。このタスクですが、私の理解では△△部署の担当範疇かと思っておりました。大変申し訳ないのですが、私の現在の担当業務との関連性について、もう少し詳しく教えていただけますでしょうか?」
表現の意図:
- まず感謝を伝えることで、相手への配慮を示します。
- 「私の理解では〜」という表現で、断定を避けつつ現在の認識を伝えます。
- 「担当業務との関連性について、もう少し詳しく教えていただけますでしょうか?」と具体的に質問することで、事実に基づいた判断に必要な情報を引き出します。
場面2:明らかに自分の業務範囲外である場合
依頼内容が、明らかに自身のチームや部署の責任範囲ではないことが明確な場合です。この場合、引き受けられないことを明確に伝える必要がありますが、代替案を示すことで相手の困りごとへの寄り添いを示すことができます。
アサーション表現例:
「〇〇さん、この件についてのご依頼ありがとうございます。内容を拝見しましたが、大変申し訳ございません、この業務は弊部署の担当範囲ではなく、おそらく△△部署が担当しているものかと存じます。△△部署の担当であれば、〇〇さん(担当者の名前が分かれば伝える)にご相談いただくのが最もスムーズかと思います。」
表現の意図:
- 依頼への感謝と、断ることへの丁寧な謝罪をセットで伝えます。
- 「この業務は弊部署の担当範囲ではなく」と、客観的な事実(担当範囲外であること)を伝えます。
- 代替となる担当部署や担当者を具体的に伝えることで、相手が次に取るべき行動を示唆し、単なる拒否ではなく解決への協力姿勢を見せます。
場面3:現在の業務が立て込んでおり、引き受けるリソースがない場合
依頼内容が自身の業務範囲内であったとしても、現在の業務量や納期を考慮すると、追加の業務を引き受けることが物理的に困難な場合があります。正直に状況を伝えることが重要です。
アサーション表現例:
「〇〇さん、ご相談ありがとうございます。この件ですが、私の現在の担当業務で△△のプロジェクトが佳境を迎えており、□月□日までは他の業務に時間を割くことが非常に難しい状況です。大変恐縮なのですが、この期間内のご依頼ですと、ご期待に沿えない可能性が高いです。もし、□月□日以降でも差し支えなければ、改めてお引き受けできるか検討させていただくことは可能です。」
表現の意図:
- 現在の具体的な状況(△△プロジェクトが佳境であること、具体的な期間)を事実として伝えます。感情的にならず、客観的な状況説明に徹します。
- 「〜難しい状況です」「ご期待に沿えない可能性が高いです」と、現在のリソース状況から判断して依頼に応じられない見込みであることを正直に伝えます。
- 「もし、〜以降でも差し支えなければ」と代替案(可能な期間の提示)を示すことで、柔軟性や協力の意思を示します。
場面4:一部だけ引き受ける、あるいは条件付きで引き受ける場合
依頼の全体は引き受けられないが、一部であれば協力できる場合や、特定の条件であれば対応可能な場合があります。完全に断るのではなく、可能な範囲で協力する姿勢を見せることも関係構築には有効です。
アサーション表現例:
「〇〇さん、この件についてのご依頼、ありがとうございます。内容を拝見し、私が全てを対応するのは難しいのですが、もしよろしければ、この部分(具体的なタスクを指定)であればお力になれるかもしれません。ただし、私の現在の業務の都合上、〇月〇日までにご協力できる範囲となりますが、いかがでしょうか?」
表現の意図:
- 依頼全体は難しいことを伝えつつ、「この部分であれば」と具体的に協力可能な範囲を提示します。
- 「私の現在の業務の都合上」と、協力に際しての条件(ここでは期日)を明確に伝えます。
- 相手に選択肢を提示し、同意を求める形で提案します。
アサーションスキルを向上させるための実践的な練習方法
アサーションは、意識して練習することで身につけられるスキルです。一人でも取り組める具体的な練習方法をご紹介します。
ステップ1:自己分析と状況の把握
- 自分がどのような状況で依頼を断りづらいと感じるかを振り返ってみましょう。「他部署の上長からの依頼」「緊急度が高いと強調された場合」「自分の業務範囲が曖昧な依頼」など、具体的なシチュエーションを特定します。
- 自分の現在の業務量や抱えているタスク、期日などを正確に把握し、自分のリソースを客観的に評価できるようにしておきましょう。
ステップ2:スクリプト作成
- ステップ1で特定した具体的な断りづらいシチュエーションを想定します。
- その状況で自分が伝えたい内容(事実、感情、希望)を整理し、この記事で紹介した例文などを参考に、実際に口に出す言葉を書き出してみます。これが「スクリプト」です。
- 単に断るだけでなく、「依頼への感謝」「断る理由(客観的な事実や状況)」「代替案や協力できる範囲の提示」といった要素を盛り込む練習をしましょう。
ステップ3:声に出して練習する
- 作成したスクリプトを、実際に声に出して読んでみましょう。
- 鏡の前で練習するのも有効です。自分の表情や声のトーンが、相手にどのように伝わるかを意識してみましょう。落ち着いた、丁寧なトーンで話すことを心がけます。
- スムーズに言えるようになるまで、繰り返し練習します。
ステップ4:スモールステップで実践する
- いきなり難しい状況で試すのではなく、比較的小さな依頼や、断りやすい相手から試してみましょう。
- 練習したスクリプトを参考に、実際にアサーションを用いて対応してみます。
- 実践後は、うまくいった点、改善が必要な点を振り返り、次の実践に活かします。
ステップ5:信頼できる相手とのロールプレイング
- 可能であれば、信頼できる同僚や友人に協力してもらい、依頼者役と自分役でロールプレイングを行います。
- 実際に依頼を受けた際の緊迫感を再現し、練習したアサーション表現を使ってみます。
- 相手からフィードバックをもらうことで、より実践的な学びが得られます。
アサーションを行う上での心構え
業務範囲外からの依頼にアサーションで対応する際に、いくつか心に留めておきたいポイントがあります。
- 即答する必要はない: 急な依頼に対して、その場で無理に答えを出す必要はありません。「一度持ち帰って、現在の業務状況を確認してからお返事させていただけますでしょうか?」と保留する時間を持つことも、適切な判断のために重要です。
- 客観的な事実を伝える: 感情的になるのではなく、「〇〇という状況なので」「△△の納期があるため」のように、断る理由を客観的な事実や状況に基づいて説明することで、相手も納得しやすくなります。
- 代替案や情報を提供する: 例に挙げたように、自身では対応できなくとも、「〇〇さんなら詳しいかもしれません」「△△部署の管轄だと思います」といった情報提供や代替案を示すことで、相手の課題解決への協力姿勢を示すことができます。
- 完璧を目指さない: 最初から全てうまくいくとは限りません。言いたいことが伝えきれなかったり、相手が難色を示したりすることもあるでしょう。大切なのは、意識してアサーションを試みること、そして振り返りながら改善していくことです。
まとめ
他部署や業務範囲外からの急な依頼に適切に対応することは、自身の業務を守り、過度な負担を避ける上で不可欠なスキルです。アサーションを用いることで、相手を尊重しつつ、引き受けられること、引き受けられないことを誠実に伝えることが可能になります。
今回ご紹介した場面別の表現例や練習方法を参考に、ぜひご自身の状況に合わせたアサーションを実践してみてください。すぐに結果が出なくても、少しずつ練習を重ねることで、自信を持って自分の意見や状況を伝えられるようになり、より健全で生産的な働き方を実現できるはずです。不要な業務を抱え込まず、ご自身のスキルと時間を最も重要な業務に最大限に活かしていきましょう。