「ごめんなさい、今日は…」社内の飲み会・ランチ、人間関係を保つアサーションでの断り方・応じ方
社内でのコミュニケーションは、日々の業務を円滑に進める上で非常に重要です。しかし、時には業務時間外の付き合い、例えば飲み会やランチへの誘いに、どう対応すべきか迷う場面があるかもしれません。仕事熱心な方ほど、「人間関係を円滑に保ちたい」「誘いを断って波風を立てたくない」という気持ちと、「自分の時間や体力を大切にしたい」「その日は別の予定がある」という気持ちの間で板挟みになりがちです。
無理に誘いに応じて疲弊したり、逆に断り方が悪くて気まずい雰囲気を招いたり、といった経験をお持ちの方もいらっしゃるのではないでしょうか。このような時に役立つのが、「アサーション」というコミュニケーションスキルです。
社内の誘いに対するアサーションとは?
アサーションとは、相手を尊重しつつ、自分の気持ちや意見、要求を正直かつ誠実に伝えるコミュニケーションの方法です。社内の飲み会やランチの誘いに対してアサーションを用いることは、単に「断る」ことや「我慢して応じる」こととは異なります。
それは、「誘ってくださったことへの感謝」を伝えつつ、「自分の現在の状況や都合」を正直に述べ、「今回は応じられない(あるいは条件付きで応じられる)理由」を誠実に説明し、必要であれば「代替案」を提示するといった、自分も相手も大切にするコミュニケーションです。これにより、人間関係を一方的に損なうことなく、自分の大切な時間や心の平穏を保つことができます。
具体的なビジネスシーンでのアサーション表現例
ここでは、社内の飲み会やランチに関する具体的な誘いの場面を想定し、人間関係を保ちながら対応するためのアサーション表現をご紹介します。
場面1:急な飲み会の誘いがあり、その日は残業したい、または別の予定がある場合
同僚や上司から、業務終了間際に「今日これから飲みに行かない?」と誘われたとします。その日はどうしても終わらせたい業務があるか、プライベートな予定が入っている状況です。
NGな対応例: * 「えーっと、どうしようかな…(曖昧に濁す)」→ 相手に期待を持たせてしまい、結局断る際に気まずくなる可能性がある。 * 「すみません、今日はちょっと…(理由を言わない)」→ 相手に「なぜ?」「何か気に入らないのか?」といった不信感や疑問を抱かせる可能性がある。 * 「はい、行きます!(無理して応じる)」→ 自分の体や心を犠牲にし、後々負担になる可能性がある。
アサーション表現例:
- 例文1(残業したい場合): 「お誘いいただきありがとうございます。大変嬉しいのですが、今日はどうしても終わらせたい業務がありまして、申し訳ありません。また今度、ぜひご一緒させてください。」
- 例文2(プライベートな予定がある場合): 「お声がけいただきありがとうございます。ぜひ参加したい気持ちはあるのですが、あいにく先約がありまして、本日は失礼させていただきます。また別の機会にぜひお誘いいただけますと嬉しいです。」
- 例文3(感謝と代替案): 「お誘い、ありがとうございます!実は、今日は〇〇(具体的な予定や理由を簡潔に)の予定がありまして、参加できないのです。皆さんとご一緒できず残念です。また、もしよろしければ来週あたりにでも、皆さんと少しお話しできる機会があれば嬉しいです。」
表現を選ぶ理由・意図: まず、誘ってくれたことへの「感謝」を明確に伝えることで、相手の好意を無下にしない姿勢を示します。次に、「今日は応じられない」という事実を正直に伝え、その理由を簡潔に述べます。「どうしても」「あいにく」といった言葉で、やむを得ない状況であることを丁寧に伝えています。具体的な理由を伝えることで、相手は納得しやすくなります。最後に、「また今度」「別の機会に」といった言葉を添えることで、関係性を今後も大切にしたい気持ちを示し、相手への配慮を示します。無理に詳細な理由を創作する必要はありませんが、正直に伝えることが信頼に繋がります。
場面2:定期的なランチの誘いがあり、参加したい日とそうでない日がある場合
職場の同僚と、普段から一緒にランチに行く習慣がある。今日は一人でゆっくり過ごしたい、あるいは別の同僚と約束している、といった状況です。
アサーション表現例:
- 例文1(断る場合): 「お誘いありがとう!今日は少し集中したい作業がありまして、デスクで簡単に済ませようと思っているんだ。ごめんね。また明日とか、タイミングが合う時にぜひ行こう!」
- 例文2(別の約束がある場合): 「誘ってくれてありがとう!実は、今日は〇〇さんと約束していて、ご一緒できないんだ。また明日以降なら大丈夫な日もあるから、声かけてね。」
- 例文3(参加するが、少し早く切り上げたい場合): 「ありがとう、行こう!ただ、午後からすぐに〇〇の会議があって、あまりゆっくりできないかもしれないんだけど、それでも大丈夫かな?」
表現を選ぶ理由・意図: ランチのような日常的な誘いの場合、よりカジュアルなトーンでも良いでしょう。断る理由を簡潔に伝え、「また今度」といった代替の可能性に触れることで、今後の関係を円滑に保ちます。参加する意思はあるが条件がある場合は、正直にその条件(時間制限など)を事前に伝えることで、後から慌てたり、相手に気を遣わせたりする事態を防ぎます。これも自己(時間的な制約)と相手(一緒に食事する時間)を尊重するアサーションです。
場面3:付き合いでの参加を期待されている、断りにくい雰囲気がある場合
チーム全体で懇親会や飲み会が企画されており、参加することが暗黙の了解のようになっている、あるいは特定の上司から強い参加の勧めがある、といった状況です。
アサーション表現例:
- 例文1(やんわり断る): 「懇親会のお話、ありがとうございます。皆さんで集まれるのは素晴らしい機会だと存じます。大変恐縮なのですが、どうしても外せない私用がございまして、今回は欠席させていただけますでしょうか。皆様が楽しい時間を過ごされることを願っております。」
- 例文2(上司へ断る): 「〇〇部長、お声がけいただきありがとうございます。皆様との懇親の機会は大変ありがたいのですが、誠に申し訳ございませんが、その日は既に確定している私的な予定がありまして、参加が難しい状況です。何卒ご理解いただけますと幸いです。」
表現を選ぶ理由・意図: 特に断りにくい状況では、より一層丁寧な言葉遣いを心がけることが重要です。「大変恐縮ですが」「誠に申し訳ございませんが」といったクッション言葉を用い、感謝の気持ちと参加できない理由(詳細を伏せつつもやむを得ない事情であることを示唆)を伝えます。曖昧にせず、参加できないことを明確に伝えつつ、相手への配慮を示すことで、不必要な摩擦を避けることを目指します。
アサーションスキルを向上させるための練習方法
社内の誘いに対するアサーションは、実践を重ねることでスムーズにできるようになります。一人でも取り組める練習方法をご紹介します。
ステップ1:自分の気持ちと状況を正確に把握する まず、誘いを受けたときに自分がどう感じているか、そしてどのような状況にあるのか(他に予定がある、疲れている、一人で過ごしたいなど)を正直に認識します。無理に理由を作ろうとせず、「自分はどうしたいのか」を明確にすることがアサーションの第一歩です。
ステップ2:伝えたい内容を整理する ステップ1で把握した自分の状況に基づき、「何を、どのように伝えたいか」を具体的に整理します。 * 誘いへの感謝 * 応じられない/応じたいが条件がある、という事実 * その理由(簡潔に) * 代替案や次回の機会への言及(必要に応じて)
ステップ3:アサーション表現を組み立て、声に出して練習する 整理した内容を基に、具体的なアサーション表現を組み立てます。上記の例文を参考にしても良いでしょう。静かな場所で、実際に声に出して言ってみます。これにより、言葉がスムーズに出てくるか、不自然な点はないかを確認できます。可能であれば、親しい友人や家族に相手役をお願いし、ロールプレイング形式で練習すると、より実践的です。
ステップ4:小さな場面から実践してみる いきなり重要な場面で使うのではなく、比較的断りやすい誘いや、気心の知れた相手への対応など、プレッシャーの少ない場面から実践してみましょう。例えば、「今日ランチ一緒にどう?」という誘いに対して、「ごめん、今日はもう決めてたんだ。また明日!」のように、簡単なアサーションから試してみるのです。
ステップ5:実践を振り返る 実際にアサーションを使ってみた後、結果を振り返ります。うまくいった点、難しかった点、次回改善したい点などを考えます。練習と実践、そして振り返りを繰り返すことで、徐々に自信を持ってアサーションを使えるようになります。
アサーションを行う上での心構え・ポイント
- 事実に基づいた描写: 状況や理由を伝える際は、感情的な表現を避け、事実に基づいた描写を心がけます。「いつも誘いが急すぎる」ではなく、「今日の18時以降の誘いには応じられません」のように具体的に伝えます。
- 「私(I)」メッセージ: 自分の気持ちや状況を伝える際は、「あなたはいつも誘うけど…」のように相手を主語にするのではなく、「私は今日残業したいので」「私は別の予定がありますので」のように「私」を主語にして話します。これにより、非難的な響きを避け、自分の状態を率直に伝えられます。
- 感謝と配慮: 誘ってくれたことへの感謝や、相手への配慮の気持ちを忘れずに伝えます。
- 曖昧さを避ける: 断る場合は、期待を持たせるような曖昧な言い方をせず、参加できないことを明確に伝えます。ただし、きつい言い方にならないよう、丁寧な言葉遣いを心がけます。
- 完璧を目指さない: 最初から完璧なアサーションを目指す必要はありません。まずは「正直に、丁寧に伝える」ことを意識するだけでも大きな一歩です。
- 罪悪感を持たない: 自分の時間や都合を優先して誘いを断ることに、過度な罪悪感を持つ必要はありません。健全な人間関係は、お互いの立場や状況を尊重し合う中で築かれるものです。
まとめ
社内の飲み会やランチといった誘いへの対応は、ビジネスシーンにおける人間関係と自己尊重のバランスを取る上で重要な場面です。アサーションスキルを身につけることで、相手への配慮を欠くことなく、自分の都合や気持ちを正直に伝えることができるようになります。
無理な付き合いで疲弊することなく、また不必要な摩擦を生むこともなく、健全な人間関係を築くことが可能になります。最初の一歩は勇気がいるかもしれませんが、小さな実践を積み重ねることで、きっと自信を持って対応できるようになるでしょう。ぜひ、今日からできることから始めてみてください。