新しいタスクの不安、どう伝える?必要なサポートを求めるアサーション
新しいタスク、その期待と裏腹な「どうしよう…」を乗り越える
新しいタスクを任されたとき、期待とともに、ふと「自分にできるだろうか」「情報が足りないな」「どう進めたらいいんだろう」といった不安や懸念がよぎることは、多くの方が経験されることかと思います。特に、これまでに経験のない業務や、新しい技術を扱うタスクの場合、その不安はより大きくなるかもしれません。
真面目で責任感が強い方ほど、「まずは自分でなんとかしなければ」「周りに迷惑をかけたくない」と考え、一人で抱え込んでしまいがちです。しかし、必要な情報やサポートを求められずに業務が滞ってしまったり、期日直前になって問題が発覚したりする状況は、ご自身にとっても、チームにとっても望ましくありません。
このような状況で役立つのが、「アサーション」のスキルです。アサーションとは、相手の権利や意見を尊重しつつ、自分の気持ち、考え、要求を率直かつ誠実に表現するコミュニケーション方法です。今回は、新しいタスクや依頼に対して、抱える不安や懸念、そして必要なサポートを適切に伝えるためのアサーション表現と、その練習方法をご紹介します。
なぜ、新しいタスクで懸念やサポートを伝えることが重要なのか
新しいタスクに取り組む際に、懸念や必要なサポートを伝えることは、決して能力不足を示すものではありません。むしろ、タスクを成功させるために現状を冷静に分析し、必要なリソースや条件を明確にする、プロフェッショナルな姿勢と言えます。
懸念やサポートを適切に伝えることには、以下のようなメリットがあります。
- 早期のリスク回避: 問題が大きくなる前に、潜在的なリスクや課題を共有し、対策を講じることができます。
- 明確な期待値設定: 自分自身の能力や状況を正直に伝えることで、タスクに対する現実的な期待値を周囲と共有できます。
- 必要なリソースの確保: タスク遂行に必要な情報、ツール、人員、時間などを適切に要求し、成功確率を高めます。
- 安心感と集中力の向上: 不安を抱え込まずに済むため、タスクそのものに集中しやすくなります。
- チームワークの強化: 情報をオープンにすることで、チーム全体の協力を得やすくなり、信頼関係が深まります。
一人で抱え込まず、早めに周囲に状況を伝えることが、結果としてタスクのスムーズな進行と成功につながるのです。
具体的なビジネスシーンで使うアサーション表現
新しいタスクへの懸念やサポートを伝える場面は様々です。ここではいくつかの具体的なシーンを想定し、アサーション表現の例文とその意図を解説します。
シーン1:新しい技術を使ったタスクに不安がある場合
状況: これまで使ったことのないプログラミング言語やツールを使ったタスクを依頼された。
アサーション表現の例: 「〇〇様(上司や依頼者)より、△△(新しい技術)を使ったタスクをご依頼いただき、ありがとうございます。新しい技術に触れる機会をいただけて大変嬉しく思います。一方で、△△はこれまでの業務で扱った経験がないため、習得に時間がかかる可能性があり、〇月〇日の納期に対し、少し懸念がございます。もし可能であれば、△△に関する基礎的な学習資料や、チーム内で知見のある方を教えていただけますでしょうか。または、開始当初の数日間、簡単なタスクから慣れていく、といったご配慮をいただけると大変助かります。」
表現の意図: * まずはタスクを引き受けることへの感謝や前向きな姿勢を示すことで、相手に敬意と協力意思を伝えます。 * 懸念点を伝える際は、「経験がないため時間がかかる可能性がある」「納期に対し懸念がある」のように、具体的な事実(経験がないこと)とそこから生じる懸念(納期への影響)をセットで伝えます。抽象的に「自信がない」「難しいです」と言うより、相手は状況を理解しやすくなります。 * 単に不安を伝えるだけでなく、「もし可能であれば」「~していただけると助かります」といった形で、具体的なサポート内容や代替案を明確に、かつ謙虚に伝えます。選択肢を提示することで、相手も対応を検討しやすくなります。 * 主語を「私(私の状況)」にすることで、相手を責めるトーンを避けます。
シーン2:タスクの進め方や必要な情報が不明確な場合
状況: 目的や最終的なアウトプットのイメージが掴みきれない、またはタスクを進める上で参照すべき情報源や担当者が不明なタスクを依頼された。
アサーション表現の例: 「この度の〇〇に関するタスク、ありがとうございます。取り組むにあたり、いくつか確認させていただけますでしょうか。このタスクの最終的な目的は△△(自分が理解している目的)という認識で合っておりますでしょうか。また、タスクを進める上で、□□(参照すべき資料やシステム、キーパーソンなど)に関する情報が必要になると考えているのですが、どなたにご確認すればよろしいでしょうか。もし差し支えなければ、タスクの背景や期待されるアウトプットイメージについて、もう少し詳しくお伺いできますと幸いです。」
表現の意図: * タスクを引き受けたことを伝えつつ、不明確な点を率直に確認する姿勢を見せます。 * 自分が現状理解していること(例: 目的)を先に提示し、それが合っているか確認することで、認識のずれを早い段階で解消しようとします。 * 具体的な情報(参照資料、キーパーソンなど)を挙げ、「どなたに確認すればよいか」「どこを見ればよいか」と具体的に質問します。「何も分かりません」ではなく、「これが足りないと思うのですが、どうすればよいか」と能動的な姿勢を示します。 * 「もし差し支えなければ」「〜できますと幸いです」といったクッション言葉を使うことで、相手にプレッシャーを与えずに情報提供を依頼します。
シーン3:タスク量が多く、期日内に完了できるか懸念がある場合
状況: 複数の既存タスクに加えて、さらに新しいタスクを依頼された。現在の業務負荷を考えると、指定された期日内にすべてを完了するのは難しい可能性がある。
アサーション表現の例: 「〇〇様、新しいタスクのご依頼、ありがとうございます。現在、△△の業務と□□の対応を進めており、それぞれ〇月〇日と△月△日を目標に進めている状況です(事実を伝える)。いただいた新しいタスクについても大変重要だと認識しております。ただ、現在の業務量ですと、ご提示いただいた〇月〇日の納期での完了は、少し難しいかもしれないという懸念がございます。もし可能であれば、新しいタスクの納期を調整いただくか、現在抱えているタスクのいずれかの優先順位を見直す、あるいは他のメンバーに一部を分担いただく、といった対応についてご相談させていただけますでしょうか。」
表現の意図: * 感謝とタスクの重要性への理解を示しつつ、現在の業務状況という事実を具体的に伝えます。感情論ではなく、客観的な状況(抱えている業務内容と期日)を根拠にします。 * 「難しいかもしれない」と断定せず、懸念があることを丁寧に伝えます。 * 期日を守りたいという意思を示しつつ、現在の状況では難しい可能性を伝え、解決策(納期調整、優先順位変更、分担依頼)を提案する形で相談を持ちかけます。単に「できません」と言うのではなく、どうすれば実現可能かを一緒に考えてほしいという姿勢を見せます。 * 「ご相談させていただけますでしょうか」と、あくまで相談の形で伝えることで、一方的な要求ではなく、建設的な話し合いを促します。
新しいタスクへのアサーションスキルを磨く練習方法
アサーションは練習によって必ず向上します。新しいタスクに冷静かつ適切に対応するための練習を始めましょう。
ステップ1:状況と感情、必要なことを整理する(自己分析)
新しいタスクを依頼されたら、まず一人でじっくり考えてみましょう。
- タスクの内容を具体的に理解する: どんな作業が必要か、最終的にどうなれば成功か。
- 現状と照らし合わせる: そのタスクに必要なスキル、知識、時間、情報、リソースは何か? 現在の自分が持っているもの、足りないものは何か?
- 懸念点を具体的に書き出す: 「経験がないから時間がかかる」「情報源が分からない」「〇〇さんの協力が必要だが、多忙そうだ」「今の業務量では厳しい」など、客観的な事実に基づいた懸念点を洗い出します。
- 必要なサポートをリストアップする: 「〇〇に関する資料」「△△さんの知見」「□□のシステムの利用権限」「他のタスクの優先順位変更」「納期を〇日まで延期」「一日あたり〇時間の確保」など、懸念点を解消するために具体的に何が必要かを整理します。
- 自分の感情を認識する: 不安、焦り、戸惑い、または期待など、自分が今どんな気持ちかも把握しておきましょう。伝える際に感情的にならないための準備になります。
ステップ2:伝える内容を構成する
ステップ1で整理した内容をもとに、相手に伝える内容を構成します。アサーションの基本的な流れ(DESC法なども参考に)を意識すると良いでしょう。
- Describe (描写): 事実や現状を客観的に描写する(「〇〇のタスクをご依頼いただきました」「現在△△の業務を抱えています」)。
- Explain/Express (説明/表現): その事実に対する自分の気持ちや考え、懸念を表現する(「新しい技術で懸念があります」「現在の業務量から納期に不安を感じています」)。
- Specify (具体化): 相手にしてほしい具体的な行動や、自分が求めるサポートを具体的に伝える(「〇〇の資料をいただけますか」「納期を△日まで調整できませんか」)。
- Consequence (結果): その行動が実現した場合、どのような良い結果につながるかを伝える(省略されることも多いが、伝えることで相手の納得感が増す。「そうしていただけると、〇月〇日までにタスクを完了できる可能性が高まります」)。
上記の例文のように、感謝や前向きな姿勢を最初に加えることも効果的です。
ステップ3:声に出して練習する(ロールプレイング)
構成した内容を、実際に声に出して言ってみましょう。
- 一人で練習: 鏡を見ながら、あるいは録音しながら、自然なトーンで言えるか確認します。棒読みにならないように、感情を込めすぎずに、誠実に伝える練習をします。
- 信頼できる相手と練習: 可能であれば、家族や友人、信頼できる同僚に相手役をお願いし、実際に話してみます。フィードバックをもらうことで、話し方や表現を調整できます。相手役には、依頼者や上司になりきってもらい、様々な反応を想定して練習すると、本番で慌てにくくなります。
ステップ4:スモールステップで実践する
いきなり難しい場面で実践するのではなく、比較的伝えやすい場面から試してみましょう。
- 「〇〇について、△△という理解で合っていますでしょうか?」といった簡単な確認から始める。
- 「この資料はどこにありますか?」といった、情報に関するシンプルな質問をする。
- 慣れてきたら、「〇〇の理由で、この部分に少し時間がかかりそうです」のように、小さな懸念点を伝える練習をする。
成功体験を積み重ねることで、より複雑な状況でもアサーションスキルを発揮できるようになります。
アサーションを行う上での心構えとポイント
- 事実に基づいて描写する: 感情的にならず、客観的な状況やデータに基づいて話します。
- 主語を「私」にする(Iメッセージ): 「あなたは~しませんでした」ではなく、「私は~だと感じています」「私は~を必要としています」のように、「私」を主語にして伝えることで、相手を非難するトーンを避けられます。
- 相手への配慮を忘れない: 依頼してくれたことへの感謝や、期待に応えたいという気持ちを伝えると、相手も耳を傾けやすくなります。「お忙しいところ恐縮ですが」「可能であれば」といったクッション言葉も有効です。
- 冷静で穏やかなトーンを保つ: 不安や焦りから早口になったり、声が大きくなったりしないように注意します。
- 非言語コミュニケーションも意識する: 落ち着いた表情、適度なアイコンタクト、開いた姿勢などを心がけると、言葉の信頼性が増します。
- 相手の反応も受け止める: アサーションは自分の意見を伝えることですが、同時に相手の反応や意見も聞く姿勢が重要です。必ずしも自分の要求が100%通るとは限りません。代替案の検討など、その後の対話も大切です。
まとめ:抱え込まず、アサーションでタスクを成功に導く
新しいタスクへの不安や懸念、必要なサポートを伝えることは、決して恥ずかしいことでも、能力が低いことを示すものでもありません。むしろ、タスクを成功させるために現状を正確に把握し、建設的に行動しようとする責任感とプロ意識の表れです。
自己表現が苦手だと感じている方も、今回ご紹介したアサーション表現や練習方法を参考に、小さな一歩から始めてみてください。一人で抱え込まず、周囲と適切にコミュニケーションを取ることで、新しいタスクの成功確率が高まるだけでなく、ご自身の業務に対する安心感も増し、より自信を持って仕事に取り組めるようになるはずです。
アサーションスキルは、一度身につければ様々な場面で役立つ一生もののスキルです。ぜひ日々の業務の中で、意識的に実践してみてください。