「手が回らない…」を解消!複数の依頼が来た時、アサーションで業務を調整・整理する
複数の依頼が重なった時、抱え込んでいませんか?
ビジネスシーンでは、複数の人から同時に、あるいは次々とタスクの依頼を受けることが少なくありません。上司、同僚、他部署、そしてお客様から。仕事熱心な方ほど、「何とか自分でやり遂げなければ」「断るのは申し訳ない」と考え、つい全ての依頼を引き受けてしまいがちです。
しかし、キャパシティを超えて業務を抱え込むことは、タスクの遅延、品質の低下、そして何よりもご自身の心身の負担につながります。結果として、周囲からの信頼を損なう可能性も否定できません。
このような状況で重要となるのが、アサーションスキルです。アサーションは、単に自己主張をするのではなく、相手を尊重しつつ、自分の状況や意見、要望を率直かつ誠実に伝えるコミュニケーション手法です。複数の依頼が重なった複雑な状況でも、アサーションを用いることで、業務を適切に調整し、周囲との信頼関係を維持しながら課題を解決することができます。
この記事では、複数の依頼が重なった際に直面しがちな課題に焦点を当て、具体的なアサーション表現と、このスキルを習得するための実践的な練習方法をご紹介します。
複数の依頼が重なる状況で生じる課題
複数の依頼が同時に舞い込んだ際、多くの人が以下のような課題に直面しやすいです。
- 状況の把握と整理が難しい: どの依頼が優先度が高いのか、それぞれの期日はいつなのかが整理できず、混乱してしまう。
- 断る・調整することが難しい: 「忙しい」と伝えることに遠慮を感じたり、相手に悪いと思ったりして、依頼をそのまま受け入れてしまう。
- 自分のキャパシティを正確に伝えられない: 抱えている業務量を具体的に説明できず、「何となく忙しい」という曖昧な伝え方になってしまう。
- 関係者間の調整ができない: 複数の依頼主に対して、自分の状況を共有し、全体のスケジュールを調整するといった働きかけができない。
これらの課題を抱え込むと、業務はどんどん積み上がり、「手が回らない」状態に陥ります。そして、期日を守れなくなったり、確認がおろそかになりミスが発生したりするリスクが高まります。
なぜ複数の依頼への対応にアサーションが必要なのか
このような状況を打開するために、アサーションがなぜ有効なのでしょうか。
- 自己状況の明確な伝達: 抱えているタスク量、それぞれの状況、必要な時間などを事実に基づいて具体的に伝えることができます。これにより、相手はあなたの状況を正確に理解しやすくなります。
- 現実的な解決策の提案: 「できません」と一方的に断るのではなく、「〇〇であれば可能です」「△△の期日を調整させていただければ対応できます」のように、代替案や協力依頼を含めた現実的な提案を行うことができます。
- 不要な業務の防止: 不要不急の依頼や、優先度の低い依頼に対して、抱えている他の重要な業務があることを伝えることで、業務量の不必要な増加を防ぐことができます。
- 周囲との協調: 状況を共有し、必要に応じて優先順位の調整や他のメンバーへの依頼を提案することで、チーム全体として効率的に業務を進めることにつながります。
- 自身のワークライフバランス維持: 抱え込みすぎず、無理のない範囲で業務を引き受けることで、自身の健康や集中力を維持し、結果的に長期的なパフォーマンス向上につながります。
アサーションは、自分を守るだけでなく、周囲との円滑な連携を築き、仕事全体の効率と質を高めるための重要なスキルなのです。
具体的な場面とアサーション表現例
それでは、複数の依頼が重なった様々なビジネスシーンを想定し、具体的なアサーション表現を見ていきましょう。表現のポイントは、「Iメッセージ(主語を私にする)」、「状況を具体的に伝える」、「代替案や相談を持ちかける」ことです。
場面1:上司から追加の依頼が来た時
上司からの依頼は断りにくいと感じるかもしれませんが、まずは状況を正確に伝え、対応可否や期日について相談する姿勢が重要です。
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例文1(状況確認と相談): 「〇〇部長、ご依頼ありがとうございます。現在、△△社の件と××プロジェクトの対応を進めており、少し手一杯の状況でございます。差し支えなければ、この依頼の期日や緊急度についてもう少し詳しく教えていただけますでしょうか。現在の業務状況と合わせて、対応可否や期日についてご相談させていただければ幸いです。」
- ポイント: まず感謝を伝え、自身の状況を簡潔に述べた上で、詳細確認と相談を依頼しています。一方的に断るのではなく、一緒に解決策を探る姿勢を示しています。
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例文2(具体的な提案): 「〇〇部長、ご依頼ありがとうございます。ただいま抱えている業務が複数あり、明日の午前中までは△△の対応に集中したいと考えております。もし可能でしたら、この依頼は明日午後から着手させていただく、あるいは他のメンバーに依頼いただくことは可能でしょうか。ご検討いただけますと幸いです。」
- ポイント: 自分の具体的な状況(いつまで何に集中したいか)を伝え、その上で代替の対応開始時期や他の担当者を提案しています。完全に断るのではなく、可能な範囲や他の選択肢を提示しています。
場面2:他部署から突発的な依頼が来た時
他部署からの依頼は、背景や緊急度が分かりにくいことがあります。まずは状況を確認し、自部署(または自分自身)の状況を伝えて調整を図ります。
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例文3(状況確認と連携部署内の調整): 「〇〇部の△△様、ご依頼ありがとうございます。大変助かります。差し支えなければ、この依頼の期日や目的についてもう少し詳しく教えていただけますでしょうか。現在、他の部署からも複数の依頼を受けており、対応状況を確認・調整した上で、改めて対応可否と具体的な期日をご連絡させていただきます。〇〇時までにご連絡する形でよろしいでしょうか。」
- ポイント: 感謝を示しつつ、詳細確認と、複数の依頼を抱えている自身の状況を伝えています。すぐに確約はせず、確認・調整の時間をいただき、いつまでに返答するかを明確に伝えることで、相手に安心感を与えます。
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例文4(難しさを伝える): 「〇〇部の△△様、ご依頼ありがとうございます。大変申し訳ございません。現在、自部署の緊急対応を複数抱えており、今すぐこの依頼に着手することが難しい状況です。もし急ぎの場合は、恐縮ながら、他のご担当者にご相談いただくことは可能でしょうか。あるいは、〇〇日以降でしたら対応可能かもしれません。ご検討いただけますでしょうか。」
- ポイント: 感謝と謝罪を述べつつ、現在の具体的な状況(緊急対応がある)を伝えます。代替案(他の担当者、別期日)を提示することで、ただ断るだけでなく、解決に向けた選択肢を示唆しています。
場面3:複数の依頼主に対して、全体の状況を共有・調整する時
自分一人で抱えきれないと判断した場合、あるいは複数の依頼間で優先順位を調整する必要がある場合は、依頼主や上司に状況を共有し、協力を仰ぐことが重要です。
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例文5(上司への報告と相談): 「〇〇部長、現在の業務状況についてご報告・ご相談させていただけますでしょうか。現在、A部長からの依頼、B部署の△△様からの依頼、そしてお客様の××対応と、複数のタスクが重なっており、それぞれの期日内に全てを完了することが物理的に難しい状況です。つきましては、これらのタスクの優先順位や、一部業務の調整・委譲についてご相談させていただけないでしょうか。」
- ポイント: 抱えているタスクを具体的に挙げ、全てを期日内に完了することが難しいという事実を率直に伝えます。その上で、判断や協力が必要な点(優先順位、調整、委譲)について相談を持ちかけています。
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例文6(各依頼主への状況共有と期日調整の相談): 「(A部長、B部署△△様など関係者に)先日はそれぞれご依頼いただき、誠にありがとうございます。現在、複数の依頼が重なっており、大変恐縮ながら、当初ご提示いただいた期日での対応が難しい状況となっております。つきましては、〇〇部長にご相談の上、全体の優先順位とスケジュールを調整し、改めて各ご依頼の具体的な納期をご連絡させていただければと存じます。ご理解いただけますと幸いです。」
- ポイント: 関係者全体に状況を共有し、それぞれの依頼の納期調整が必要であることを伝えます。誰に相談して調整するのか(例:上司)を明確にすることで、対応のプロセスを示し、関係者の納得を得やすくします。
アサーションスキルを向上させるための練習方法
アサーションは自転車の乗り方や楽器の演奏と同じように、練習を重ねることで必ず身につくスキルです。ここでは、一人でも取り組める具体的な練習方法をステップ形式でご紹介します。
ステップ1:自己分析と状況の整理
まずは、どのような状況で依頼を断ったり調整したりするのが苦手か、その時自分はどのように感じ、どう反応してしまうかを分析します。
- 紙に書き出してみましょう。
- 「どのような相手(上司、同僚、顧客など)からの依頼が苦手か?」
- 「どのような依頼(突発的、内容が曖昧、期日が短いなど)が苦手か?」
- 「依頼を受けた時、心の中でどのような感情(プレッシャー、罪悪感、戸惑いなど)が湧くか?」
- 「その感情によって、どのような行動(とりあえず引き受ける、曖昧に返事する、返事を保留するなど)をとってしまうか?」
この自己分析を通じて、ご自身のコミュニケーションの癖や、アサーションが必要となる具体的な場面を特定することができます。
ステップ2:理想的なアサーション表現の作成
ステップ1で特定した具体的な場面を想定し、それぞれの状況で「どのように伝えたいか」「どのような言葉を使いたいか」を具体的に文章にしてみましょう。この記事で紹介した例文や、アサーションのポイント(Iメッセージ、具体性、代替案など)を参考にしてください。
- 例えば、「上司から急ぎの追加依頼が来たが、今日は既存業務で手一杯」という場面を想定します。
- NGな反応:「はい、承知いたしました…(内心、どうしよう)」
- OKなアサーション表現(作成例):「〇〇部長、ご依頼ありがとうございます。大変恐縮ですが、現在△△の件で手一杯の状況で、今日の〇時までには完了させたいと考えております。もし可能でしたら、この依頼は明日一番に着手させていただけないでしょうか。あるいは、他の担当者に対応いただくことは可能でしょうか。」
- いくつかの異なる場面を想定して、複数の表現を作成してみましょう。
ステップ3:声に出して練習(一人ロールプレイング)
作成したアサーション表現を、実際に声に出して言ってみましょう。頭の中で考えるだけでなく、声に出すことで、言葉遣いやトーン、間の取り方などを確認できます。
- 相手がいるつもりで、具体的な状況をイメージしながら練習します。
- 相手が「でも、今日中に必要なんだよ」などと返してきた場合の応答も想定し、練習に組み込んでみましょう。
- 鏡を見ながら、あるいは自分の声を録音して聞いてみるのも効果的です。客観的に自分の話し方を確認できます。
ステップ4:スモールステップでの実践
いきなり重要度の高い依頼や、難しい相手に対してアサーションを試みる必要はありません。比較的小さな依頼や、信頼できる相手とのやり取りなど、プレッシャーの少ない場面から実践してみましょう。
- 「この資料、明日までにくれる?」→「ありがとう。ただ、今、別の資料作成をしていて、それが〇時までかかりそうなんだ。その後すぐに着手するけど、〇時頃までには渡せると思う。」
- 「この件、ちょっと手伝ってくれる?」→「ありがとう。今、別のタスクを進めているんだけど、大体〇分くらいで終わる予定だよ。終わったら手伝いに行けるけど、急ぎだったりする?」
小さな成功体験を積み重ねることで、自信を持ってアサーションを使えるようになります。
ステップ5:実践後の振り返り
実際にアサーションを試した後は、結果がどうであったかにかかわらず、必ず振り返りを行いましょう。
- 「今回の対応で良かった点は何か?」
- 「うまくいかなかった点は何か?」
- 「次に同じような状況になったら、どのように改善できるか?」
- 「相手の反応はどうだったか? それに対して自分はどう感じたか?」
この振り返りを通じて、アサーションスキルをさらに磨き、より状況に応じた柔軟な対応ができるようになります。
アサーションを行う上での心構え
複数の依頼に対してアサーションを行う際には、いくつかの心構えが役立ちます。
- 完璧を目指さない: 最初から完璧なアサーションを目指す必要はありません。まずは「自分の状況を伝える」「相談する」ことから始めてみましょう。
- 感情的にならない: 焦りやプレッシャーから感情的な口調にならないよう、一呼吸置いて落ち着いて話すことを意識しましょう。
- 相手への配慮を示す: 依頼を受ける側の状況を伝えるだけでなく、「お忙しいところ恐縮ですが」「大変助かります」のように、相手への配慮や感謝の気持ちを言葉に添えましょう。
- 早めに伝える: 「手が回らない」状況になってから伝えるのではなく、依頼を受けた時点で現在の状況を伝えたり、不明点を質問したりするなど、早めのコミュニケーションを心がけましょう。
- 断る=悪ではないと理解する: 業務を抱え込み、結果として品質を下げたり期日を破ったりすることの方が、組織全体の損失につながります。できないことを正直に伝えるのは、無責任でもワガママでもなく、プロフェッショナルな対応です。
まとめ:アサーションで業務をコントロールする
複数の依頼が重なる状況は、ビジネスパーソンにとって避けられないものです。しかし、アサーションスキルを身につけることで、これらの依頼に振り回されるのではなく、自身の業務状況を適切にコントロールし、より効率的かつ質の高い働き方を実現することができます。
抱え込んでしまう癖がある方も、まずは「自分の状況を伝える」「相談を持ちかける」といった小さな一歩から始めてみてください。そして、この記事で紹介した具体的な表現や練習方法を参考に、少しずつアサーションを実践してみてください。
アサーションは、あなた自身の「できること」と「できないこと」を明確にし、周囲との建設的な対話を促すための強力なツールです。このスキルを習得することで、不必要な業務負荷から解放され、本当に価値のある仕事に集中できるようになるでしょう。
業務過多の状況を乗り越え、自信を持って業務に取り組むために、今日からアサーションを意識してみてください。