同僚・部下のミス、どう指摘する?アサーションで関係を壊さず伝える方法
同僚・部下のミスや気になる行動、どう指摘すれば良いのか?
ビジネスシーンでは、同僚や部下の仕事のミス、あるいはチームの円滑な進行を妨げるような行動に気づくことがあるものです。例えば、提出された資料に明らかな間違いがある、約束の期日を守れていない、他のメンバーに不快な印象を与える言動が見られる、といったケースです。
このような状況で、「相手に悪く思われたくない」「関係がギクシャクするのが怖い」といった気持ちから、指摘することをためらってしまう方も少なくないかもしれません。しかし、指摘せずにそのままにしておくと、問題が解決されないばかりか、業務に支障が出たり、チーム全体の士気が低下したりする可能性もあります。また、自分自身がそのミスのフォローに追われたり、不満を抱え込んだりすることにもつながりかねません。
かといって、感情的に非難したり、一方的に決めつけたりするような伝え方をしてしまうと、相手を傷つけたり、反発されたりして、かえって関係を悪化させてしまうリスクもあります。
では、どのように伝えれば、相手を尊重しつつ、建設的に状況を改善へと導くことができるのでしょうか。その答えが、アサーションです。
アサーションで建設的に指摘する重要性
アサーションは、相手の意見や感情を尊重しながら、自分の意見、気持ち、要求を正直かつ率直に伝えるコミュニケーションスキルです。このアサーションを用いることで、同僚や部下への指摘を、非難ではなく、より良い状況を作るための建設的なフィードバックとして伝えることが可能になります。
アサーションによる指摘のメリットは以下の通りです。
- 関係性の維持・向上: 相手の人格や価値を否定することなく、特定の行動や事実に焦点を当てるため、相手は過度に防御的になりにくく、関係性を保ちやすくなります。
- 問題の明確化と解決促進: 曖昧な表現や感情的な言葉を避け、具体的な状況とそれがもたらす影響を冷静に伝えることで、問題点が相手に正確に伝わり、改善に向けた行動につながりやすくなります。
- 相互理解と信頼の構築: 自分の正直な気持ちや意図を誠実に伝える姿勢は、相手からの信頼を得ることにつながります。また、相手が自分の状況や考えを話す機会を持つことで、相互理解が深まります。
- チーム全体のパフォーマンス向上: 問題が早期に、かつ建設的に共有されることで、チーム全体のミスや非効率が減り、協力体制が強化されます。
このように、アサーションは「言いにくいこと」を伝える場面でこそ、その真価を発揮するスキルと言えるでしょう。
具体的な場面とアサーション表現例
それでは、具体的なビジネスシーンを想定し、アサーションを用いた指摘の表現例を見ていきましょう。アサーションの基本は、「事実を客観的に伝える」「自分の感情や影響を『私』を主語にして伝える」「相手への要望や提案を具体的に伝える」というステップです。
場面1:同僚の提出資料に間違いがある場合
- 状況: 同僚がクライアントに提出する予定の資料を確認したら、データに明らかな誤りを見つけた。
- 避けるべき表現: 「この資料、間違いだらけだよ。これじゃ出せないよ。」(非難、一方的な否定)
- アサーション表現例:
- 「〇〇さん、この資料の△△の部分なんだけど、××のデータと照らし合わせると少し数値が違うみたいです。ご確認いただけますでしょうか。」
- 「このグラフの元データを確認していたのですが、〇〇の項目にズレがあるように見受けられました。クライアント提出前に一緒に見ていただけますか?」
- 表現の意図: 間違いそのものを責めるのではなく、事実(データが違う、ズレているように見える)を客観的に伝えます。「〜みたいです」「〜見受けられました」とすることで断定を避け、相手が確認する余地を残します。そして、具体的な行動(確認、一緒に見る)を依頼します。主語は明確ではないものの、データを確認したのは「私」であることが文脈から伝わります。
場面2:部下が納期を守れていない場合(遅延報告がないなど)
- 状況: 部下の担当業務の納期が過ぎているが、本人からの報告がない。
- 避けるべき表現: 「どうなってるんだ!納期過ぎてるじゃないか!報告もなしに!」(感情的な叱責、問い詰め)
- アサーション表現例:
- 「〇〇さん、先日の△△の件、今日の午後が納期でしたが、現在の状況はいかがでしょうか。何か困っていることがあれば、力になれるかもしれません。」
- 「△△の件で確認したいことがあります。今日の納期について、進捗状況を教えていただけますか?もし遅れが出ているようでしたら、対応を一緒に考えたいと思っています。」
- 表現の意図: 事実(納期が過ぎたこと、今日の納期であること)を提示し、まずは状況の確認(いかがか、教えてほしい)を求めます。感情的な非難ではなく、「何か困っていることはないか」「一緒に考えたい」というサポートの意思を示すことで、相手は報告しやすくなります。これは、問題を隠そうとするのではなく、助けを求めることを促すアサーションです。
場面3:他部署の担当者が約束した対応をしていない場合
- 状況: 以前、他部署の〇〇さんが△△の件で□□の対応をすると約束したが、期日を過ぎても完了していないため、自分の業務が進められない。
- 避けるべき表現: 「〇〇さん、あの件どうなったんですか?こっちは待ってるんですけど。」(催促、不満の表明)
- アサーション表現例:
- 「〇〇さん、先日お願いしました△△の件(□□の対応)について、現在の状況はいかがでしょうか。その件が進まないと、こちらの次のステップに進めずにおりまして、少々困っております。いつ頃完了の見込みか、あるいは何かお手伝いできることはありますでしょうか。」
- 「△△の件でご連絡しました。以前、□□の対応をいただけるとお伺いしていたのですが、もし状況が変わられましたらと思い、確認させていただきたく。この件の進捗によって、こちらのスケジュールにも影響が出てしまうため、大変恐縮ですが、現在の状況と今後の見通しを教えていただけますと幸いです。」
- 表現の意図: 事実(いつ、何を約束したか)を確認し、それが自分にどのような影響を与えているか(進めず困っている、スケジュールに影響)を「私」を主語にして具体的に伝えます。感情的になるのではなく、状況の確認と見通し(いつ頃か)、あるいは協力の意思(お手伝いできること)を伝えます。「大変恐縮ですが」「幸いです」といった丁寧なクッション言葉を用いることで、相手への配慮を示します。
場面4:チームメンバーの言動が他のメンバーに悪影響を与えている場合
- 状況: 特定のチームメンバーが、会議中に他のメンバーの意見を遮ったり、否定的な発言を繰り返したりしており、他のメンバーが発言しづらくなっている。
- 避けるべき表現: 「〇〇さんの話し方だと、みんな委縮しちゃいますよ。」(主観的な非難、断定)
- アサーション表現例:
- 「〇〇さん、会議中の発言について少しお話しさせてください。時々、他の人の発言を途中で遮ったり、意見が出た時に最初に否定的な言葉が出たりすることがあるように見受けられます。私としては、せっかく皆が出してくれた意見が萎縮してしまうのではないかと少し懸念しており、チーム全体の活発な議論のためにも、まずは最後まで聞いてから建設的なフィードバックをするということを一緒に心がけられたらと思うのですが、いかがでしょうか。」
- 表現の意図: 具体的な行動(発言を遮る、否定的な言葉)を「〜見受けられる」と客観的に描写します。それが自分に与える懸念(皆の意見が萎縮するのではないか)を「私としては〜懸念しており」と伝えます。そして、チームにとって望ましい状況(活発な議論)を伝え、そのために一緒に心がけたい行動(最後まで聞く、建設的なフィードバック)を提案し、相手の同意を求めます。
これらの例に共通するのは、感情をぶつけるのではなく、客観的な事実に基づき、自分の気持ちや状況への影響を率直に伝え、相手への要望や提案を具体的かつ丁寧に行うというアサーションの構造です。
アサーションスキル向上のための練習方法
同僚や部下への指摘は、特に難易度が高く感じられるアサーションの一つかもしれません。スムーズに、そして建設的に伝えられるようになるためには、段階を踏んだ練習が有効です。
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ステップ1:状況と自分の感情・考えを整理する
- まず、何が問題なのか、具体的な事実を整理します。「いつ、誰が、何を、どうした」という客観的な情報に焦点を当てましょう。
- その事実に対して、自分がどのように感じているか(例:「困っている」「懸念している」)、なぜ指摘しようと思ったのか(例:業務に支障が出る、チームに悪影響がある)、といった自分の内面を整理します。
- この際、DESC法(Describe, Express, Specify, Consequence/Choose)のようなフレームワークを参考に、伝えるべき要素(描写・感情・提案・結果)を洗い出すと効果的です。
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ステップ2:伝える内容を組み立てる
- ステップ1で整理した要素をもとに、実際に相手に伝える言葉を組み立てます。
- 「〇〇という事実がありましたね。私はそれについて△△と感じています。ですので、今後□□のようにしていただけると助かります(あるいは、一緒に〜できませんか)。」という基本的な形を意識します。
- より丁寧にするために、「お忙しいところ恐縮ですが」「もしよろしければ」といったクッション言葉を適宜加えます。
- 相手の状況や関係性に合わせて、言葉遣いや表現を調整する練習も重要です。
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ステップ3:声に出して練習する
- 頭の中で考えただけでは、いざという時に言葉が出てこなかったり、ぎこちなくなったりしがちです。
- 実際に声に出して、組み立てたフレーズを言ってみましょう。一人で練習する場合は、鏡を見ながら話す、自分の声を録音して聞き返す、といった方法が有効です。
- 可能であれば、信頼できる同僚や友人に協力してもらい、ロールプレイング形式で練習するのも大変効果的です。相手役に様々な反応をしてもらい、それに対する受け答えを練習することで、実践力が身につきます。
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ステップ4:スモールステップで実践する
- いきなり重大なミスや難しい状況での指摘に挑戦するのはハードルが高いかもしれません。
- まずは、比較的軽微な状況(例:資料の小さな誤字脱字、ちょっとした連携ミス)で、練習したアサーションを使ってみることから始めましょう。
- 成功体験を積み重ねることで、自信を持ってより難しい状況にも対応できるようになります。
指摘するアサーションを行う上での心構えとポイント
指摘するアサーションを成功させるためには、いくつかの心構えとポイントがあります。
- 目的意識を明確に: 指摘の目的は、相手を責めることではなく、問題となっている行動を改善し、より良い業務遂行や関係性を築くことにあります。この目的を忘れずに伝えましょう。
- 行動・事実に焦点を当てる: 相手の「性格」や「人格」ではなく、「具体的な行動」や「客観的な事実」について話します。「あなたはいつも〜だ」ではなく、「〇〇の件で、△△ということがありました」のように伝えます。
- 「私メッセージ」を使う: 自分の感情や、その行動が自分やチームにどのような影響を与えたかを伝える際に、「あなたは〜」「君は〜」と相手を主語にするのではなく、「私は〜と感じました」「そのことで〜という影響が出ています」のように「私」を主語にして伝えます。これにより、非難ではなく率直な気持ちの共有になります。
- 相手の状況への配慮: 相手にもそのミスや行動に至った背景や理由があるかもしれません。一方的に話すのではなく、相手の話を聞く姿勢を持ち、「何か理由があったのですか?」「何か困っていることはありませんか?」といった言葉を添えることで、対話の機会を作ります。
- 解決策を共に探る姿勢: 問題点を伝えるだけでなく、「今後どうすれば良いか」を一緒に考える姿勢を示すと、相手は前向きに改善に取り組みやすくなります。「次に同じようなことが起きないために、何か一緒に考えられることはありますか?」「〇〇のようにしてみるのはどうでしょうか?」といった提案が有効です。
まとめ
同僚や部下のミスや気になる行動を指摘することは、多くの人にとって心理的なハードルが高いものです。しかし、アサーションというスキルを身につけることで、相手との関係性を不必要に損なうことなく、問題を解決し、チームとしての成長を促すことが可能になります。
アサーションを用いた指摘は、単に「言いたいことを言う」のではなく、事実に基づき、相手を尊重し、自分の誠実な思いや要望を伝えるコミュニケーションです。最初は難しく感じるかもしれませんが、ご紹介した練習方法を参考に、小さな一歩から実践を始めてみてください。
建設的な指摘ができるようになることは、あなた自身のコミュニケーション能力を高めるだけでなく、周りの人々との信頼関係を深め、より快適で生産的な職場環境を作るためにも、非常に価値のあるスキルとなるはずです。