会議中の割り込みや脱線、どうする?スムーズな進行を促すアサーション術
会議は、情報共有や意思決定を行う上で非常に重要なビジネスシーンです。しかし、参加者による割り込みや話の脱線が発生すると、議論が混乱したり、時間が超過したりして、本来の目的を達成できないことがあります。特に、普段から発言に苦手意識がある方にとって、こうした状況はさらに発言の機会を奪い、ストレスとなる要因にもなりかねません。
本記事では、会議中の割り込みや話の脱線といった場面で、どのようにアサーションスキルを活用し、建設的な場の維持に貢献できるのかを解説します。アサーションを用いた具体的な表現例や、一人でも取り組める練習方法をご紹介します。
アサーションとは何か? 会議でなぜ重要なのか
アサーションとは、相手を尊重しつつ、自分の意見や感情、要求を誠実に伝えるコミュニケーションスキルです。単に自己主張を押し通すことではなく、相手の権利も自身の権利も大切にする「対等な」コミュニケーションを目指します。
会議の場においてアサーションが重要になるのは、以下の理由からです。
- 建設的な議論を維持するため: 割り込みや脱線は、議論の流れを妨げ、参加者の集中力を削ぎます。アサーションを用いて適切に介入することで、会議の目的から逸脱しない議論を促せます。
- 自分の発言機会を守るため: 意見を述べようとした際に割り込まれたとしても、アサーションを用いて発言を継続する意思を示すことで、自分の貢献機会を守ることができます。
- 参加者全員が安心して発言できる場を作るため: 一部の参加者による一方的な発言や脱線が頻繁に起こる会議では、他の参加者は発言しにくくなります。アサーションを用いて場の秩序を保つことは、会議全体の心理的安全性を高めることにつながります。
- タイムマネジメントのため: 冗長な発言や脱線を適切に修正することで、限られた会議時間を有効に活用し、効率的な進行が可能になります。
アサーションは、会議を単なる情報の羅列や一部の人の意見発表の場ではなく、参加者全員で価値を生み出す共同作業の場にするために不可欠なスキルと言えるでしょう。
具体的な場面とアサーション表現
会議中に起こりうる割り込みや脱線の場面を想定し、具体的なアサーション表現の例文をご紹介します。それぞれの表現の背景にある意図も解説します。
場面1:自分の発言中に別の参加者に割り込まれた時
話している途中で遮られてしまうと、伝えたいことが中途半端になったり、発言の意欲を失ったりします。感情的にならずに、冷静に自分の発言を続ける意思を示しましょう。
- 表現例1:
「すみません、私の話が途中でしたので、最後までよろしいでしょうか?」
- 意図: 相手の割り込みを指摘しつつ、許可を求める形で丁寧に進めるよう促す表現です。「よろしいでしょうか?」と問いかけることで、相手に一瞬立ち止まる時間を与え、場を和らげる効果も期待できます。
- 表現例2:
「〇〇さん、一旦私の話を聞いていただけますか?この後、〇〇さんのご意見もお伺いできますと幸いです。」
- 意図: 相手の名前を呼びかけ、一時的に発言を止めてもらうよう明確に伝えます。その後に相手の発言機会も設けることを示唆することで、一方的な拒絶ではないことを示し、配慮の姿勢を見せます。
- 表現例3(司会者として):
「△△さんのご意見、大変興味深いですが、一旦◇◇さんのお話の最後まで伺いましょう。後ほど△△さんのご意見に戻る時間を設けます。」
- 意図: 司会者として、割り込んだ参加者の発言価値を否定せず、現在の発言者の権利を守ることを明確にします。全体の進行をコントロールする役割を果たします。
場面2:特定の参加者が長時間話し続け、議論が脱線しそうな時
一人の発言が長すぎたり、議題から逸れ始めたりすると、他の参加者が発言しにくくなるだけでなく、会議の目的達成が困難になります。会議の目的や時間軸を意識して、穏やかに軌道修正を促します。
- 表現例1(参加者として):
「〇〇さんの貴重なご意見、大変参考になります。今後の議論のために、本日の議題である△△について、一旦立ち戻って皆様の考えを伺えませんでしょうか。」
- 意図: まず相手の発言を肯定的に受け止め、尊重の姿勢を示します。その上で、「本日の議題」という客観的な基準を用いて、議論を本来の軌道に戻すよう促します。
- 表現例2(司会者として):
「〇〇さん、ありがとうございます。その点は重要な論点ではありますが、本日の時間配分を考慮し、一旦次の議題に移らせていただけますでしょうか。必要であれば、別途時間を設けて改めて議論させていただければと存じます。」
- 意図: 司会者として、時間管理の観点から議論の切り替えを提案します。脱線した話題そのものを否定せず、別の機会での議論を示唆することで、相手の面子を保ちつつ、会議の進行を優先します。
- 表現例3(参加者として):
「現在の議論は□□に関する重要な点ですが、本日の会議の目的が◎◎の決定にありますので、一旦そちらに焦点を戻す時間とさせていただけませんでしょうか。」
- 意図: 会議の「目的」というより上位の基準を持ち出し、議論を戻す理由を明確にします。参加者として発言する場合、司会者への提言のような形をとることで、よりスムーズに受け入れられやすくなります。
場面3:完全に別の話題に脱線してしまいそうな時
現在の議題とは全く異なる話題に議論が移ってしまいそうな場合、完全に脱線する前に、その話題の扱いを明確にします。
- 表現例1:
「その点も大変興味深いのですが、今日の議題とは少し異なるかと存じます。必要であれば、別の機会に改めて議論するのはいかがでしょうか?本日は◎◎について集中して話し合いたいと考えております。」
- 意図: 脱線しかけている話題の重要性を否定せず、適切だと考える別の機会への提案を行います。今日の議題を明確に再提示することで、参加者に意識を戻してもらいます。
- 表現例2:
「誠に恐縮ですが、その件については今日の議題外となりますため、後ほど個別にお話させていただけますでしょうか。」
- 意図: 個別対応を提案することで、会議の場を維持しつつ、相手の関心事にも配慮する姿勢を見せます。この表現は、比較的身近な関係性の参加者に対して使いやすいでしょう。
アサーションを行う上での心構えとポイント
会議中にアサーションを効果的に行うためには、いくつかの心構えとポイントがあります。
- 冷静さを保つ: 割り込みや脱線に対して感情的になると、言葉の選び方が攻撃的になったり、相手も感情的に反発したりする可能性があります。常に冷静に、落ち着いたトーンで話すことを心がけましょう。
- 事実に基づいた描写: 「また勝手に割り込んで!」「いつも話が長い!」のような、評価や非難を含む言葉ではなく、「私の話が途中でした」「今日の議題は△△です」といった、客観的な事実に基づいた表現を選びましょう。
- 主語を「私」にする(Iメッセージ): 相手を非難する「Youメッセージ」(例:「あなたはいつも会議を脱線させる」)ではなく、「私は、議論が議題から逸れることを懸念しています」「私は、時間内に終えたいと考えております」のように、主語を「私」にして自分の気持ちや考えを伝える「Iメッセージ」を用いることで、相手を責める印象を与えにくくなります。ただし、会議の進行役として発言する場合は「本日の議題は〜です」「皆様の共通認識として〜」など、会議全体の立場から述べることも有効です。
- 相手への配慮を忘れない: 割り込んだり脱線したりする側にも、何らかの意図や背景があるかもしれません。相手の発言そのものを頭ごなしに否定するのではなく、「貴重なご意見ですが」「その点も重要ですが」のように、一旦相手の発言を受け止める姿勢を見せることで、その後のコミュニケーションが円滑に進みやすくなります。
- 声のトーンと表情: どんなに適切な言葉を選んでも、怒ったような声や表情では、相手に不快感を与えてしまいます。落ち着いた、穏やかなトーンで話すように意識しましょう。
- 完璧を目指さない: 最初からすべての状況で完璧なアサーションができる必要はありません。まずは小さな介入から試してみる、練習を重ねる中で表現を洗練させていく、という姿勢が大切です。
アサーションスキルを向上させるための具体的な練習方法
会議中のアサーションは、事前の準備と練習によって着実に身につけることができます。一人でも取り組める具体的な練習方法をステップ形式でご紹介します。
ステップ1:自分の会議での行動パターンを分析する
まず、自分が会議中に割り込みや脱線に直面した際、どのような反応をしているかを振り返ってみましょう。 * 黙ってしまうか? * イライラしても何も言えないか? * 諦めてしまうか? * 後で不満を言うか? * その場で感情的に反論してしまうか?
自分の典型的な反応パターンを把握することが、改善の第一歩です。手帳やメモに、具体的な会議の状況と自分の反応を簡単に記録してみるのも良いでしょう。
ステップ2:理想的なアサーション表現をリストアップする
ステップ1で分析した状況や、本記事でご紹介した場面例を参考に、次に同じような状況が起きたら、どのようにアサーションを用いて対応したいかを具体的に考えます。 * 「〇〇という状況が起きたら、△△という言葉で対応しよう」 * 「割り込まれたら、まずこのフレーズを言ってみよう」
いくつかの場面を想定し、使えるアサーション表現をいくつかリストアップしておきましょう。声に出して練習してみるのも効果的です。
ステップ3:ロールプレイングで実践練習をする
可能であれば、信頼できる同僚や友人に協力してもらい、想定した会議の場面をロールプレイング形式で練習します。 一人が割り込み役や脱線させる役、もう一人がアサーションを試す役となって、実際に言葉に出してやり取りをしてみましょう。難しければ、一人二役で練習したり、頭の中でシミュレーションしたりするだけでも効果があります。 * 「相手がこう言ったら、自分はこう返す」 * 「この表現を使った時の自分の声のトーンはどうか」
ステップ4:スモールステップで実際の会議で試してみる
いきなり重要な会議で試すのはハードルが高いかもしれません。まずは、比較的参加人数が少ない会議や、社内でも気心の知れたメンバーとの会議など、プレッシャーの少ない場面からアサーションを試してみましょう。 最初は完璧を目指さず、「今日は割り込まれた時に一度だけ反応してみよう」「脱線しそうな時に、一言だけ軌道修正を促してみよう」のように、小さな目標を設定するのがおすすめです。
ステップ5:実践後の振り返りと改善
アサーションを試した後は、必ず振り返りを行いましょう。 * 事前に準備した表現を使えたか? * 相手の反応はどうだったか? * 自分の意図は伝わったか? * もっと違う言い方ができたか?
うまくいかなかったとしても落ち込む必要はありません。経験を積み重ねることで、より自然に、効果的にアサーションを使えるようになります。必要であれば、ステップ2に戻って表現を練り直しましょう。
まとめ
会議中の割り込みや脱線に適切に対応するアサーションスキルは、会議を円滑に進め、参加者全員にとってより生産的な時間とするために非常に有効です。これは、個人的な不満を解消するだけでなく、チーム全体のコミュニケーションの質を高めることに貢献するスキルです。
すぐに完璧にできる必要はありません。本記事でご紹介した具体的な表現や練習方法を参考に、まずは小さな一歩から始めてみてください。場にふさわしいアサーションを実践することで、会議でのストレスを減らし、自信を持って参加できるようになることを願っております。