業務過多、不明点…困った時に使える!助けを求めるアサーション表現と練習法
多くのビジネスパーソンが、業務の遂行において様々な課題に直面します。特に仕事熱心な方ほど、「自分で解決しなければ」「周りに迷惑をかけてはいけない」と考え、困難な状況や不明点を一人で抱え込んでしまうことがあるかもしれません。しかし、こうした状況が続くと、業務の遅延や質の低下、さらにはご自身の心身の負担につながる可能性も否定できません。
周囲に助けを求めることは、決して能力が低いことではありません。むしろ、問題が大きくなる前に適切なサポートを得るための、賢明で建設的な行動と言えます。そして、この「助けを求める」という行為もまた、アサーションスキルの一つとして捉えることができます。今回は、仕事で困った際に、相手を尊重しつつ自分の状況と必要なサポートを誠実に伝えるためのアサーション表現と、その実践方法について詳しく解説いたします。
アサーションとは?そして、助けを求めることとの関係
アサーションとは、「相手の意見や感情を尊重しつつ、自分の意見や要求、感情を正直に、率直に、対等に表現するコミュニケーションスキル」です。断る、意見を述べる、提案するといった場面で用いられることが多いですが、自分が困っている状況を伝え、必要なサポートを求めることも、まさにアサーションの考え方に基づいています。
自分が困っている状況を隠したり、曖昧にしたりせず、相手に理解してもらえるように具体的に伝えること。そして、必要なサポート内容を明確に伝えることは、問題解決のために不可欠です。同時に、相手の立場や状況にも配慮することで、協力的な関係を築きながら問題を乗り越えることができます。
一人で抱え込むことは、問題解決を遅らせるだけでなく、周囲に「問題がない」という誤った認識を与えてしまうリスクもあります。勇気を持って助けを求めるアサーションは、個人だけでなくチーム全体の生産性向上にも繋がるのです。
具体的な場面で使えるアサーション表現
仕事で困った時に直面しやすい具体的な場面を想定し、それぞれに応じたアサーション表現の例をご紹介します。これらの例文はあくまで一例です。ご自身の状況や相手との関係性に合わせて調整してご活用ください。
場面例1:業務過多で、現在の納期での完了が難しい
複数の業務が重なり、一人では到底期日までに終わらせることが困難な状況です。
-
アサーション表現の例: 「〇〇の件についてご相談させていただけますでしょうか。現在、△△と□□の業務も並行して進めており、現状のペースですと、〇〇の納期である【日付】までに完了することが難しくなっております。つきましては、どなたかに〇〇の作業の一部(例:資料作成、データ入力など)をお手伝いいただくことは可能でしょうか。あるいは、納期を【新たな希望納期】に調整いただくことは可能か、ご検討いただけますでしょうか。お忙しいところ大変恐縮ですが、ご助力をいただけると大変助かります。」
-
表現のポイント:
- まず相談したい旨を伝える(クッション言葉)。
- 現在の具体的な状況(抱えている業務、進捗状況)を事実に基づいて正確に伝える。主語を「私」にする意識(「私はこの状況で困っています」)。
- 何が困難なのか(納期に間に合わないこと)を明確にする。
- 求めるサポート内容(お手伝い、納期調整)を具体的に提案する。
- 相手への配慮や感謝の気持ちを添える。
場面例2:作業に必要な情報や知識が不足している
業務を進める上で、必要な情報が見つからない、あるいは専門知識が不足している状況です。
-
アサーション表現の例: 「△△さん、〇〇の件について教えていただきたいことがございます。この作業を進めるにあたり、□□に関する情報が必要なのですが、社内資料や過去の事例を探しても見つけることができませんでした。△△さんは□□の分野に詳しいと伺ったのですが、もしお分かりでしたら、関連情報のある場所や、基本的な考え方についてご教示いただくことは可能でしょうか。お忙しいところ恐縮ですが、少しお時間をいただけますと幸いです。」
-
表現のポイント:
- 質問・依頼したい相手に声をかける。
- 何について困っているのか、具体的な状況(情報が見つからない、知識がない)を伝える。
- 自分で試みた努力(資料を探したなど)を伝えることで、丸投げではない姿勢を示す。
- 何を教えてほしいのか(情報源、基本的な考え方など)を具体的に伝える。
- 相手の知識や経験への敬意を示す言葉を添える。
- 相手の忙しさを配慮する言葉を添える。
場面例3:指示が不明確で、どのように進めて良いか判断に迷う
上司や顧客からの指示が曖昧で、複数の解釈が可能であったり、具体的なアクションが見えなかったりする状況です。
-
アサーション表現の例: 「〇〇部長、先ほどご指示いただきました△△の件について、いくつか確認させていただけますでしょうか。【指示内容】について、私は□□という理解でおりますが、この方向性で進めて問題ないでしょうか。あるいは、△△という側面も考えられるかと存じますが、この点について補足いただけますと幸いです。作業を進める上で認識にずれがないようにしたいと考えておりますので、お忙しいところ恐縮ですが、ご確認いただけますでしょうか。」
-
表現のポイント:
- 確認・質問したいという意図を明確に伝える。
- 指示のどの部分が不明確なのかを具体的に示す。
- 自分なりの理解や仮説を伝える(例:「〜という理解でおりますが」)。これは、自分で考えた上で質問している姿勢を示す。
- 何を確認したいのか(方向性の確認、補足情報の依頼など)を具体的に伝える。
- 確認する目的(認識のずれを防ぐ)を伝えることで、質問の正当性を示す。
- 相手への敬意や配慮を忘れない。
助けを求めるアサーションを実践するための練習方法
助けを求めることに慣れていない場合、最初は勇気が必要かもしれません。しかし、段階的に練習することで、自然と助けを求めるスキルを身につけることができます。
ステップ1:なぜ助けを求めるのが苦手なのか、自己分析をする
まずはご自身が助けを求めることに抵抗を感じる理由を考えてみましょう。「周りに迷惑をかけたくない」「無能だと思われたくない」「自分で全て解決するのが当たり前だと思っている」など、人によって様々な理由があります。その理由を冷静に分析することで、次に取るべき行動が見えてきます。これらの感情は自然なものですが、抱え込むことの長期的なリスクと比較検討することも重要です。
ステップ2:小さな一歩から始める
いきなり大きな依頼をするのはハードルが高いかもしれません。まずは、簡単な質問や、既に知っている人がいそうな情報を尋ねることから始めてみましょう。例えば、「〇〇の会議室の場所はご存知ですか?」「この資料はどこに保管されていますか?」といった些細なことから練習します。成功体験を積むことで、「尋ねても大丈夫なんだ」という安心感を得られます。
ステップ3:依頼内容を具体的に準備する練習をする
漠然と「困っています」と伝えるだけでは、相手もどのようにサポートすれば良いか分かりません。助けを求めたい状況になったら、以下の点を整理してから伝える練習をしましょう。 * 何に困っているのか?(具体的な問題点、状況) * 何ができていないのか?(困っている結果、進捗状況) * 相手に何をしてほしいのか?(情報提供、アドバイス、作業の手伝い、判断の仰ぎなど) * なぜその相手に助けを求めたいのか?(その分野に詳しい、担当者であるなど)
これらの点を明確にすることで、より的確なアサーション表現を使うことができます。
ステップ4:ロールプレイングやシミュレーションを行う
信頼できる同僚や友人に協力してもらい、想定される場面での会話を練習してみましょう。自分が助けを求める側、相手がそれに応じる側(あるいは応じない側)を演じます。実際に声に出して練習することで、本番での緊張を和らげることができます。また、相手役からフィードバックをもらうことで、表現の改善点に気づくことができます。一人で行う場合は、頭の中でシミュレーションするだけでも効果があります。
ステップ5:成功体験を記録し、振り返る
助けを求めることに成功したら、その経験を記録しておきましょう。どのような状況で、どのように伝え、相手がどのように反応したかを振り返ります。うまくいった点は自信に繋げ、もし次回に活かせることがあれば改善点として捉えます。失敗したと感じる場合でも、「あの伝え方では難しかったかもしれない」「もう少し具体的に伝えるべきだった」など、学びとして次に活かす視点を持つことが重要です。
助けを求めるアサーションの心構え
助けを求めるアサーションを効果的に行うためには、いくつかの心構えが役立ちます。
- 正直さを持つ: 困っている状況を繕ったり、過小評価したりせず、ありのままを伝える勇気を持ちましょう。
- 相手への配慮を忘れない: 助けを求める際は、相手も自分の業務を抱えていることを理解し、感謝や敬意の気持ちを伝えることが大切です。「お忙しいところ恐縮ですが」「もし可能でしたら」といったクッション言葉は有効です。
- 断られても落ち込まない: 相手の状況によっては、すぐにサポートを得られないこともあります。その場合も、相手には相手の事情があることを理解し、別の方法を検討するなど、柔軟に対応しましょう。
- 普段からの関係構築: 普段から周囲の人と良好なコミュニケーションを心がけ、信頼関係を築いておくことは、いざという時に助けを求めやすくなる土壌となります。
まとめ
仕事で困難に直面した際に、一人で抱え込まず周囲に助けを求めることは、問題を早期に解決し、ご自身の負担を軽減するために非常に重要なスキルです。これは決して弱さではなく、自身の状況を正直に伝え、建設的な解決策を求めるアサーションの健全な実践と言えます。
今回ご紹介した具体的な表現例や練習方法を参考に、小さなことからでも実践を始めてみてください。助けを求める経験を積み重ねるうちに、きっと自信を持って周囲と協力しながら仕事を進められるようになるはずです。あなたのキャリアにおいて、このアサーションスキルが、より健康的で生産的な働き方を支える一助となることを願っております。