場面別アサーション

同僚・他部署との連携をスムーズに。アサーションで築く良好な関係

同僚・他部署との連携、そのコミュニケーション課題にアサーションが有効な理由

ビジネスシーンにおいて、同僚や他部署との連携はプロジェクトの成功に不可欠です。しかし、意見の相違、情報の伝達漏れ、協力の依頼や調整における難しさなど、コミュニケーション上の課題に直面することも少なくありません。特に、自己表現が苦手と感じる方にとっては、これらの場面で自分の意見や状況を正確に伝えることが難しく、ストレスを感じる一因となることもあります。

このような連携における課題の解決に役立つスキルの一つが、「アサーション」です。アサーションは、単なる自己主張とは異なり、相手の権利や気持ちを尊重しながら、自分の意見、感情、要求などを率直かつ誠実に伝えるコミュニケーション技法です。このスキルを習得することで、同僚や他部署との間でより建設的で円滑な関係を築くことが可能になります。

この記事では、同僚や他部署との連携で役立つ具体的なアサーション表現の例を提示し、アサーションスキルを日々の業務で活かすための実践的な練習方法をご紹介します。

アサーションとは何か、なぜ社内連携に有効なのか

アサーションは、自分と相手の双方を尊重する「誠実な自己表現」です。攻撃的な自己主張（アグレッシブ）でも、自分の意見を抑え込む非主張的態度（ノンアサーティブ）でもありません。アサーションは、相手の立場や感情に配慮しつつ、曖昧にせず、伝えたい内容をクリアに表現することを目指します。

社内、特に部署間の連携においては、立場や専門性の違いから考え方や優先順位が異なることがあります。アサーションを用いることで、以下のようなメリットが期待できます。

• 相互理解の促進: 自分の考えや期待を明確に伝えることで、相手に正確に理解してもらいやすくなります。
• 協力関係の構築: 相手を尊重する姿勢を示すことで、信頼関係が生まれ、協力的な関係を築きやすくなります。
• 問題の早期解決: 懸念や課題を率直に伝えることで、問題が大きくなる前に対応できます。
• 自身のストレス軽減: 言いたいことを適切に表現できることで、抱え込みや不満を減らすことができます。

これらのメリットは、読者ペルソナである「仕事熱心だが自己表現が苦手な社会人」が抱える「断れず抱え込んでしまう」「会議で発言できない」といった悩みの解消に直接的に繋がるものです。

具体的な場面別アサーション表現の例

ここでは、同僚や他部署との連携でよく直面する場面を取り上げ、具体的なアサーション表現とその意図を解説します。

場面１：他部署に協力や情報提供を依頼する

他部署への協力依頼は、自身の業務を円滑に進める上で不可欠です。しかし、相手の忙しさを考えると遠慮してしまったり、依頼内容が曖昧になったりすることがあります。アサーションを使って、明確かつ協力的に依頼することを心がけましょう。

• 状況例: プロジェクトAを進める上で、他部署が持つ特定のデータや専門知識が必要。
• 非主張的な表現例: 「あの、もしよろしければなんですが、ちょっとお願いがあるんですけど…」

• 攻撃的な表現例: 「早くあのデータ出してもらわないと困るんですよ！」

• アサーション表現例:

  • 「〇〇部の△△様、お忙しいところ恐縮です。現在進めているプロジェクトAで、貴部署がお持ちのデータ（または専門知識）が必要となっております。具体的には、××に関する情報（または知見）を〇月〇日までにいただけると大変助かります。もし可能であれば、ご協力いただけますでしょうか？」

• 表現の意図:

  • 相手の名前や所属を明確にし、敬意を示す。
  • 依頼の背景（プロジェクトA）と具体的な内容（××に関する情報）を明確に伝えることで、相手は何を求められているのかすぐに理解できます。
  • 期日を提示することで、相手は対応の目安を立てやすくなります。
  • 「もし可能であれば」「ご協力いただけますでしょうか」といったクッション言葉や依頼形を用いることで、相手に選択の余地を与え、強制する印象を与えません。相手の状況への配慮を示すことが重要です。

場面２：相手からの依頼や提案に対して、すぐにYESと言えない場合（断る以外の対応例）

同僚や他部署から急な依頼を受けたり、提案された内容に懸念があったりする場合、その場で安請け合いしたり、曖昧な返事をしてしまったりすることがあります。自分の状況や意見を誠実に伝えることが重要です。

• 状況例: 他部署から、現在の業務で手一杯の中、新たな緊急対応を依頼された。
• 非主張的な表現例: 「はい、分かりました…（内心、無理だと思っている）」

• 攻撃的な表現例: 「今こっちも忙しいんだから、自分でやってよ！」

• アサーション表現例:

  • 「△△さん、ご依頼ありがとうございます。大変恐縮なのですが、現在抱えている業務の締め切りが近いこともあり、その緊急対応を〇月〇日までに行うことは難しい状況です。つきましては、〇月〇日以降であれば対応可能ですが、いかがでしょうか。もし、それよりも前に対応が必要でしたら、他の担当者や別の方法について一緒に検討させていただけますと幸いです。」

• 表現の意図:

  • まず依頼への感謝を伝えることで、相手の行動を否定しない姿勢を示します。
  • 「恐縮なのですが」「難しい状況です」といった言葉で、安易に引き受けられない理由を誠実に伝えます。
  • 理由として「現在抱えている業務の締め切り」など、具体的な事実に基づいた状況を説明します。
  • 代替案（対応可能な期日、他の方法の検討）を提示することで、協力したいという意思と、共に解決策を探る姿勢を示します。完全に「断る」のではなく、「条件付きで引き受ける」「一緒に解決策を考える」といった多様な対応が可能になります。

• 状況例: 他部署からの提案内容に、費用や実現可能性の面で懸念がある。

• アサーション表現例:

  • 「〇〇部の△△さん、貴重なご提案ありがとうございます。提案内容は大変興味深く、〇〇という点ではメリットがあると感じています。一方で、この提案を実行するにあたり、××という費用が発生する点、および△△の技術的なハードルがある点が懸念されます。もし可能であれば、これらの点について、もう少し詳しくお話を伺ったり、代替案を検討する時間をいただけないでしょうか。」

• 表現の意図:

  • まず提案への感謝と、評価できる点（メリット）を伝えることで、相手の努力やアイデアを尊重します。
  • 懸念点（費用、技術的ハードル）を具体的に、かつ事実に基づき伝えます。感情的な批判ではなく、客観的な課題として提起します。
  • 解決に向けた具体的な提案（詳しく話を聞く、代替案検討）をすることで、単に否定するのではなく、前向きに検討したい姿勢を示します。

場面３：自分の状況や意見を伝える（報連相など）

自身の業務状況や、プロジェクトに関する懸念などを適切に共有することは、スムーズな連携のために重要です。しかし、「悪い報告はしにくい」「自分の意見を言うのが怖い」と感じる方もいるかもしれません。

• 状況例: 担当している業務で遅延が発生し、関係者に報告する必要がある。
• 非主張的な表現例: （黙っているか、ギリギリまで報告しない）

• 攻撃的な表現例: 「そもそも無理な納期だったんだ！」

• アサーション表現例:

  • 「関係者の皆様、プロジェクトBの〇〇に関する進捗についてご報告いたします。現在、△△の工程に想定以上の時間を要しており、当初予定していた〇月〇日の完了が難しくなっております。現状では〇月〇日までかかる見込みです。この遅延により、皆様の業務に影響が出る可能性があり、誠に申し訳ございません。この件について、今後の対応策や調整についてご相談させていただけますでしょうか。」

• 表現の意図:

  • 誰への報告かを明確にし、簡潔に報告の主題を伝えます。
  • 遅延の事実（何が遅れているか）と原因（想定以上の時間を要している）を客観的に伝えます。原因の説明は、言い訳にならないよう簡潔に事実を述べます。
  • 具体的な影響（期日の変更）と今後の見込みを明確に伝えます。
  • 関係者への配慮（影響の可能性、謝罪）を示し、一方的な報告で終わらせず、今後の対応について相談する姿勢を示します。

これらの例はあくまで一部ですが、共通するのは「状況や感情を明確に伝える」「事実に基づいた説明」「相手への配慮」「建設的な解決策の提示や相談」といったアサーションの要素です。

アサーションスキル向上のための実践的な練習方法

アサーションは自転車の乗り方や語学学習と同じように、繰り返し練習することで身についていきます。一人でも取り組める具体的な練習方法をいくつかご紹介します。

1. 自己分析:

   • 自分がどのような場面で非主張的（言いたいことが言えない）または攻撃的（きつく言ってしまう）になりがちかを振り返ってみましょう。
   • なぜそうなるのか、その時の感情や思考パターンを書き出してみるのも有効です。「相手に嫌われたくない」「反論されるのが怖い」「どうせ言っても無駄だ」といった自分の内面に気づくことが第一歩です。

2. 表現パターンの理解:

   • アサーションの基本的な表現パターンを学びます。有名なものにDESC法（描写 Describe、説明 Explain、提案 Suggest、選択 Choose）などがありますが、難しく考える必要はありません。
   • まずは「私は～と感じます」「～という状況です」「～していただけると助かります」といった、「私（I）」を主語にした表現（Iメッセージ）を意識することから始めましょう。

3. 小さな成功体験を積む（スモールステップでの実践）:

   • いきなり難しい交渉や、強く主張する必要がある場面でアサーションを試す必要はありません。
   • まずは、日常の些細な場面で試してみましょう。例えば、「コーヒーにミルクを少し足していただけますか」「〇〇の資料はどこにありますか？」といった、簡単でリスクの低い依頼から始めてみます。
   • 少しずつ慣れてきたら、業務に関する簡単な情報共有や、短い質問など、少しレベルを上げて挑戦していきます。

4. ロールプレイング:

   • 信頼できる同僚や友人など、協力してくれる相手がいれば、特定の場面を想定してロールプレイングを行うのが非常に効果的です。
   • 自分が伝えたい内容をアサーションで表現し、相手に聞いてもらいます。その際、「どのような印象を受けたか」「もっとこうした方が伝わりやすいか」といったフィードバックをもらうと、より実践に役立ちます。
   • 相手役もアサーションを意識して対応してもらうと、双方向の練習になります。

5. 肯定的なフィードバックを求める:

   • アサーションを試した後、うまくいったと感じた場面について、相手に「先ほどの私の伝え方は分かりやすかったですか？」などと尋ねてみるのも良いでしょう。肯定的なフィードバックは自信に繋がります。

6. 完璧を目指さない:

   • 最初から完璧なアサーションができる人はいません。時にはうまくいかないこともあるかもしれません。
   • 重要なのは、試してみること、そして経験から学ぶことです。失敗を恐れず、継続的に練習することが、アサーションスキル習得への一番の近道です。

アサーションを行う上での心構えとポイント

アサーションを実践する上で、常に意識しておきたい心構えとポイントがあります。

• 相手への敬意を忘れない: どのような状況でも、相手の人格や権利を尊重する姿勢が基本です。たとえ意見が対立しても、相手を攻撃したり、見下したりする態度はアサーションではありません。
• 「私」を主語にする（Iメッセージ）: 自分の感情や状況を伝える際は、「あなたは～だから問題だ」といった「あなたメッセージ」ではなく、「私は～と感じる」「私は～という状況にある」といった「私メッセージ」を使います。これにより、相手を責めることなく、自分の内面を伝えることができます。
• 具体的な事実を伝える: 意見や感情だけでなく、それを裏付ける具体的な事実や状況を伝えると、より説得力が増し、相手も理解しやすくなります。
• 感情的にならない: 伝えたいことがある場合でも、感情的になってしまうと、相手も感情的に反応しやすくなり、建設的なコミュニケーションが難しくなります。落ち着いて、論理的に伝えることを意識しましょう。
• 非言語的な表現も意識する: 話す内容だけでなく、表情、声のトーン、姿勢なども重要です。誠実さや自信が伝わるよう、穏やかで開かれた態度を心がけましょう。
• 結果を受け入れる準備: アサーションは、常に自分の要求が通ることを保証するものではありません。しかし、アサーションを使うことで、少なくとも自分の考えや状況を正確に伝え、相互理解を深める可能性が高まります。結果が思い通りでなくても、自分の意見を誠実に伝えることができた、という事実を評価することも大切です。

まとめ：アサーションで、よりスムーズで快適な連携を

同僚や他部署との連携におけるコミュニケーションは、時に難しさを伴いますが、アサーションというスキルを用いることで、その質を大きく向上させることができます。自分の意見や状況を誠実に伝え、相手への配慮を忘れないアサーションは、単に業務を円滑にするだけでなく、お互いにとって気持ちの良い、良好な人間関係を築く上でも非常に有効です。

今回ご紹介した具体的な表現例や練習方法を参考に、まずは身近な場面から少しずつアサーションを実践してみてください。完璧でなくても構いません。一歩ずつ練習を重ねることで、きっとビジネスシーンでのコミュニケーションがよりスムーズで快適なものになっていくはずです。応援しています。