社内提案や意見を効果的に伝えるアサーション術
導入:あなたのアイデアを社内で活かすために
多くのビジネスパーソンが、「もっとこうすれば良いのに」というアイデアや、業務に対する懸念を持っていることと思います。しかし、それを実際に上司や同僚、他部署に伝えることは容易ではありません。「反対されたらどうしよう」「発言するほどのことではないか」「忙しい相手の時間を奪いたくない」といったためらいから、結局何も言えずに終わってしまう、という経験をお持ちの方もいらっしゃるのではないでしょうか。
特に、日々の業務に追われながらも改善意識の高い方、あるいは顧客からの声を通じて得た貴重な気づきをお持ちの方にとって、そのアイデアや意見を組織に還元できないことは、大きな機会損失となります。自分の意見を適切に伝えるスキルは、単に自己満足に留まらず、チームや組織全体の生産性向上、ひいては自己成長にも繋がる重要な要素です。
ここで役立つのが「アサーション」というコミュニケーションスキルです。アサーションは、相手を尊重しながらも、自分の考え、感情、要求を正直かつ誠実に伝える手法です。この記事では、社内での提案や意見具申の場面に特化し、アサーションを用いて効果的に伝えるための具体的な方法と練習法をご紹介します。
アサーションとは:社内提案・意見具申におけるその役割
アサーションは、一方的な自己主張(アグレッシブ)でもなく、自分の意見を抑え込むこと(ノンアサーティブ)でもありません。相手の権利と自分の権利の両方を尊重し、対等な立場でコミュニケーションを行うことを目指します。
社内提案や意見具申の場面でアサーションを用いることは、以下のような役割を果たします。
- 提案の意図を正確に伝える: 「なぜその提案が必要なのか」「何を達成したいのか」といった背景や目的を明確に伝えられます。
- 建設的な対話を生む: 相手の意見や懸念にも耳を傾け、一方的にならない姿勢を示すことで、協力的な雰囲気を作り出します。
- 信頼関係を構築・維持する: 誠実な姿勢で臨むことにより、たとえ提案が採用されなくても、人間関係にひびを入れることなく、むしろ信頼を深めることができます。
- 自己肯定感を高める: 自分の考えを適切に表現できたという経験は、自信に繋がり、今後の積極性を育みます。
具体的な場面別:社内提案・意見具申のアサーション表現例
ここでは、ビジネスシーンで遭遇しやすい具体的な状況を取り上げ、アサーションを用いた伝え方の例文とそのポイントを解説します。
場面1:会議で新しいアイデアを提案する
会議中に新しいプロジェクトや業務フローの改善についてアイデアがある場合。躊躇せず、しかし唐突にならないように発言したい状況です。
アサーション表現例:
「〇〇の件について、一つ提案させていただけますでしょうか。現状のプロセスでは△△という課題があるかと思います。そこで、弊社の過去の事例や他社の動向も参考に、□□という方法を試してみてはどうかと考えております。これによって、△△の課題が解消され、年間〇〇時間の効率化が見込める可能性があります。皆様のご意見を伺えれば幸いです。」
表現のポイント:
- 発言の許可を求める(「一つ提案させていただけますでしょうか」)など、場の流れを考慮する。
- 提案の背景にある「事実」や「課題」を具体的に描写する(「現状のプロセスでは△△という課題がある」「弊社の過去の事例や他社の動向も参考に」)。
- 提案内容(「□□という方法」)と、それによって期待される「効果」や「メリット」(「効率化が見込める」)を明確に伝える。
- 主語を「私」にする(「私が考えております」というニュアンス)。
- 結論を押し付けず、相手の意見を求める姿勢を示す(「皆様のご意見を伺えれば幸いです」)。
場面2:既存業務の改善案を上司に打診する
日々の業務で見つけた非効率な部分や、改善すべき点について、直属の上司に提案したい場合。
アサーション表現例:
「〇〇部長、少しお時間を頂戴できますでしょうか。現在担当している△△業務について、ご相談したい点がございます。この業務のこの部分(具体的に説明)において、現状は□□という進め方をしておりますが、▲▲という方法に変更することで、作業時間が約20%削減できると考えております。つきましては、▲▲の方法を試験的に導入させて頂くことは可能でしょうか。ご検討いただけますと幸いです。」
表現のポイント:
- 事前にアポイントを取るなど、相手の状況に配慮する。
- 改善したい「具体的な業務」と「現状の方法」を説明する。
- 提案する「新しい方法」と、それがもたらす「具体的な効果(数字など)」(「作業時間が約20%削減」)を提示する。
- 「試験的に導入させてほしい」など、具体的な「要求」や「依頼」を明確に伝える。
- あくまで「ご検討」をお願いする形で、決定権は相手にあることを尊重する。
場面3:関係部署に対し、進め方への懸念や別の進言を伝える
プロジェクトなどで、関係部署の進め方に対し、懸念があったり、別の方法が良いと考えたりする場合。相手のやり方を否定するニュアンスにならないよう注意が必要です。
アサーション表現例:
「△△部の皆様、いつもお世話になっております。現在進めていただいている〇〇プロジェクトの件で、一つ確認とお願いがございます。□□の部分の進め方についてですが、▲▲という状況も考慮すると、もしかすると後工程で問題が発生する可能性があるかもしれません。つきましては、現状の進め方について、再度チーム内で影響範囲を含めてご確認いただくことは可能でしょうか。弊社の過去の経験からこのような懸念をお伝えしております。このプロジェクトを成功させるために、協力させていただければ幸いです。」
表現のポイント:
- 相手への敬意と感謝を示す(「いつもお世話になっております」)。
- 懸念を抱いた「事実」や「具体的な状況」(「▲▲という状況も考慮すると」)に基づいて伝える。
- 懸念内容を推測ではなく可能性として提示する(「もしかすると後工程で問題が発生する可能性があるかもしれません」)。
- 自分の意見や懸念の根拠を伝える(「弊社の過去の経験からこのような懸念をお伝えしております」)。
- 解決に向けた具体的な「お願い」や「提案」(「再度ご確認いただくことは可能でしょうか」)を明確にする。
- 非難ではなく、プロジェクト全体の成功を願う協力的な姿勢を示す(「協力させていただければ幸いです」)。
アサーションスキル向上のための実践的な練習法
社内提案や意見具申の場面で自然にアサーションを使うためには、日頃からの練習が不可欠です。一人でも取り組める練習方法をステップ形式でご紹介します。
ステップ1:提案・意見の内容を整理する(DESCのDとEを意識)
DESC法とは、アサーションでよく用いられるフレームワークです。 - D (Describe): 状況や事実を客観的に描写する。 - E (Explain/Express): それに対する自分の感情や意見を表現する。 - S (Specify): 具体的な解決策や要求を提案する。 - C (Choose/Consequence): その結果や、相手が選択した場合のメリット・デメリットを伝える。
まずは、自分が提案したいアイデアや、伝えたい意見について、「事実(D)」と「自分の考え・感情(E)」を書き出してみましょう。 例:「現状の報告書作成に2時間かかっている(D)。もっと効率化できないかと感じている(E)。」 このように切り分けることで、感情的にならず、事実に基づいた提案の組み立て方が見えてきます。
ステップ2:「私」を主語にした表現(Iメッセージ)の練習
相手を非難するような「あなたは〜」「〜すべきだ」という「Youメッセージ」ではなく、「私は〜と思う」「私としては〜を希望する」という「Iメッセージ」を使う練習をします。 紙に書き出す、あるいは声に出して練習してみましょう。 例:「このやり方では遅すぎる」→「私は、このやり方では期日に間に合うか心配です。」 「もっと協力してほしい」→「私は、お互いに情報を共有しながら進められると助かります。」 提案の場面では、「私は〇〇というアイデアが良いと考えます」「私としては〇〇という方法を提案したいです」のように使用します。
ステップ3:提案・意見の「理由」と「メリット」を明確にする練習
提案や意見が受け入れられるためには、なぜそれが必要なのか、導入することで何が得られるのかを相手に理解してもらうことが重要です。 自分の提案について、「なぜそう考えたのか(背景・理由)」と「それによってどんな良いことがあるのか(メリット・効果)」を具体的に説明する練習をします。 「〜だから、〜という効果がある」という形で文章や会話を組み立てる練習を繰り返しましょう。 例:「顧客からの要望が多い(理由)ため、この機能を追加することで、顧客満足度向上に繋がり、競合との差別化も図れる(メリット)。」
ステップ4:スモールステップでの実践
いきなり大きな提案をするのが難しければ、まずは小さなことから意見を言う練習を始めましょう。例えば、会議の最後に簡単な感想を述べる、チーム内の日常的なやり取りの中で改善点に気づいたら提案してみるなど、負担の少ない場面から練習を重ねることが有効です。成功体験を積むことで、徐々に自信がつきます。
ステップ5:ロールプレイング(一人または信頼できる相手と)
実際に提案する場面を想定し、一人で声に出して練習したり、信頼できる同僚や友人に協力してもらいロールプレイングを行ったりします。相手役からフィードバックをもらうことで、自分の話し方の癖や改善点に気づくことができます。
社内提案でアサーションを行う上での心構え・ポイント
アサーションはテクニックだけでなく、取り組む上での心構えも重要です。
- 提案の目的を明確にする: 何のためにこの提案をするのか、最終的にどうなりたいのかを自分の中で整理しておく。
- 相手への配慮を忘れない: 相手の立場や感情を想像し、非難ではなく協力の姿勢で臨む。忙しい時間帯を避ける、事前にアポイントを取るなどの配慮も大切です。
- 建設的な意図を伝える: 改善したい、より良くしたい、貢献したい、という前向きな意図を言葉に含める。
- 反対意見や質問への向き合い方: 提案に対する反対意見や質問が出た場合も、感情的にならず、まずは相手の意見に耳を傾け(傾聴)、理解しようと努める。必要であれば、事実に基づき丁寧に説明したり、代替案を検討したりする姿勢を示す。
- 結果をコントロールしようとしない: アサーションは「誠実に伝える」こと自体に価値があります。提案が必ずしも受け入れられるとは限りません。結果をコントロールしようとせず、提案できた自分自身を評価することも大切です。
まとめ:あなたの声が組織を変える力になる
社内での新しい提案や意見具申は、組織の活性化に不可欠です。しかし、そのためには自分の考えを適切に伝えるアサーションスキルが求められます。
この記事でご紹介した具体的な表現例や練習法を参考に、まずは小さな一歩から始めてみてください。事実に基づき、「私」を主語に、提案の理由とメリットを明確に伝える練習を重ねることで、自信を持って発言できるようになります。
アサーションは、あなたの声が組織に届き、変化を生み出すための強力なツールです。ぜひ、この記事で学んだスキルを活かし、あなたのアイデアを社内で形にする挑戦を始めてみましょう。あなたの積極的なコミュニケーションが、より良い職場環境と自己成長に繋がるはずです。