場面別アサーション

異動・転職先でスムーズに馴染む！アサーションで関係を築き、自己表現する

新しい環境に飛び込むことは、多くの期待とともに、少なからず不安を伴うものです。特に、人間関係やコミュニケーションに課題を感じやすい方にとって、部署異動や転職は大きなハードルに感じられるかもしれません。「新しい職場の雰囲気に馴染めるだろうか」「自分の意見を言えるだろうか」「期待に応えられるだろうか」といった悩みは、多くの方が抱えるものです。

このような新しい環境での不安を和らげ、スムーズなスタートを切るために役立つのが「アサーション」です。アサーションは単に自己主張するだけでなく、相手を尊重しながら自分の考えや気持ち、要求を誠実に伝えるコミュニケーションスキルです。新しい環境でアサーションを実践することで、良好な人間関係を築き、自分らしく貢献していくための土台をしっかりと作ることができます。

この記事では、新しい環境で直面しやすい具体的な場面を想定し、そこで役立つアサーション表現の例や、アサーションスキルを磨くための練習方法をご紹介します。

なぜ新しい環境でアサーションが必要なのか？

新しい部署や職場では、これまでの関係性がリセットされます。ゼロから信頼関係を築き、自身の役割や能力を理解してもらい、チームの一員として認められるためには、丁寧かつ適切な自己表現が不可欠です。

アサーションが新しい環境で重要となる理由は以下の通りです。

• 自己紹介と第一印象: 自分自身を正しく理解してもらい、親しみやすい第一印象を与えるために、自信を持って自己紹介を行う必要があります。
• 関係構築: 周囲の人々とのコミュニケーションを通じて、共通点を見つけたり、互いを理解したりする過程で、アサーションは友好な関係を築く土台となります。
• 情報収集と学習: 新しい環境で業務を遂行するためには、積極的に質問し、不明点を解消する必要があります。遠慮なく、かつ相手の負担にならない形で質問するスキルが求められます。
• 役割と期待値のすり合わせ: 自身の経験やスキル、業務に対する考え方を伝え、周囲からの期待や自身の役割を明確にすることで、早期に貢献するための方向性を定めます。
• 貢献意欲の表明: 新しいチームや組織にどのように貢献したいのか、自身の意欲やアイデアを適切に伝えることで、積極的な姿勢を示すことができます。

これらのステップにおいて、相手を尊重しつつ自分の内面を誠実に表現するアサーションスキルが、円滑なコミュニケーションと信頼関係構築の鍵となります。

新しい環境で使える具体的なアサーション表現

新しい環境で直面するであろう場面ごとに、具体的なアサーション表現の例を見ていきましょう。

場面1：自己紹介や簡単な挨拶をする時

新しい環境での第一声は印象を大きく左右します。自信を持って、簡潔に自分自身を伝えましょう。

使えるアサーション表現の例:

• 「〇〇部の△△です。前職では主にシステム開発に携わっておりました。皆さまにご協力いただきながら、早く業務に慣れて貢献できるよう努めてまいりますので、どうぞよろしくお願いいたします。」
  • 解説: 部署名、氏名、これまでの経験やスキルを簡潔に伝え、貢献意欲と謙虚な姿勢を示しています。
• 「〇〇さん、初めまして。□□部の△△と申します。以前から〇〇さんのプロジェクトのお話は伺っており、ぜひ一度お話しさせていただきたいと思っておりました。もしよろしければ、後ほど少しお時間を頂戴できますでしょうか？」
  • 解説: 相手への関心を示しつつ、具体的な行動（話したいこと）を丁寧に伝えています。

場面2：不明点を質問する時

新しい環境では、分からないことや確認したいことが必ず出てきます。遠慮せず、しかし相手の状況にも配慮して質問することが大切です。

使えるアサーション表現の例:

• 「お忙しいところ恐縮ですが、〇〇の件について少しよろしいでしょうか？資料を拝見したのですが、△△の部分が少し不明瞭で、ご教示いただけますと幸いです。」
  • 解説: 相手の状況への配慮を示しつつ、具体的に何が分からないのかを伝えています。質問の意図も明確です。
• 「すみません、〇〇というツールについて教えていただけますか？以前使ったことがあるのですが、こちらの環境では少し操作が違うようでして。もしお手すきの時があれば、簡単にレクチャーいただけると大変助かります。」
  • 解説: 自分の状況（以前使ったことがあるが違いがある）を伝え、具体的な依頼（レクチャー）と相手への配慮（お手すきの時）を組み合わせています。

場面3：自身の経験やスキル、貢献意欲を伝える時

自己紹介や面談の機会などに、自分の強みや新しい環境で活かせることを伝えましょう。

使えるアサーション表現の例:

• 「前職で培ったプロジェクトマネジメントの経験を、こちらのチームの〇〇プロジェクトで活かせるのではないかと考えております。具体的には△△のような形で貢献できるかと存じます。」
  • 解説: 自身の経験を具体的に提示し、それが新しい環境でどのように活かせるか（貢献できるか）を明確に伝えています。
• 「新しい分野ではありますが、積極的に学びながら、これまでの△△での経験を応用して□□の業務に取り組んでまいりたいと考えております。分からない点は都度確認させていただきますが、成長速度には自信があります。」
  • 解説: 未経験分野への挑戦意欲と、これまでの経験を活かせる点、そして自己成長への自信を伝えています。不明点への対応（質問）も合わせて伝えることで、主体性と同時に謙虚さも示しています。

場面4：依頼を受けた際に、自身の状況を伝える時

新しい環境では、積極的に依頼を引き受けることも重要ですが、無理な依頼は丁寧にかわす必要があります。

使えるアサーション表現の例:

• 「お声がけいただきありがとうございます。〇〇の件ですね。ぜひお引き受けしたい気持ちはあるのですが、現在並行して△△の業務も抱えており、納期までに完了できるか現状では判断が難しい状況です。もし可能であれば、□□の部分を他のメンバーにお願いするか、納期を少し調整いただくことは難しいでしょうか？一度業務内容を確認させていただけますでしょうか。」
  • 解説: まず感謝と引き受けたい気持ちを伝え、その上で現在の状況（抱えている業務）とそれによる懸念点（納期）を具体的に伝えています。代替案の提案や、まずは詳細を確認したいという姿勢を示すことで、ただ断るのではなく、協力的な解決策を探る意思を示しています。
• 「〇〇の件、ありがとうございます。大変興味深い内容で、ぜひ取り組みたいと感じております。ただ、この業務は私の現在のスキルではまだ経験が浅く、ご期待に沿える品質やスピードで対応できるか、正直なところ自信がございません。もし、△△さんにご指導いただきながら進められる機会があれば、ぜひ挑戦させていただきたいと考えております。」
  • 解説: 依頼への興味や意欲を伝えつつ、現在のスキルレベルによる懸念を正直に表現しています。同時に、サポートがあれば挑戦したいという前向きな姿勢を示すことで、成長意欲と謙虚さを伝えています。

新しい環境でのアサーションを成功させるための練習法

アサーションスキルは一朝一夕に身につくものではありませんが、意識して練習することで着実に向上させることができます。新しい環境で効果的にアサーションを実践するための練習方法をいくつかご紹介します。

1. 自己分析を行う:

   • 新しい環境で「自分は何を期待されているのか」「何を貢献したいのか」「どのような不安があるのか」を具体的に書き出してみましょう。
   • 自分の強み、これまでの経験で活かせるスキル、苦手なこと、助けが必要な部分などを客観的に見つめ直します。これが、自信を持って自己開示し、必要なサポートを求める土台となります。

2. 想定される場面と表現をシミュレーションする:

   • 自己紹介、質問、依頼への対応など、新しい環境で直面しそうな具体的な場面をいくつか想定します。
   • それぞれの場面で、自分がどのように感じ、何を伝えたいかを明確にし、実際にどのようなアサーション表現を使うか具体的に考えて書き出してみましょう。声に出して練習すると、より自然な表現になります。

3. スモールステップで実践する:

   • 最初から難しいアサーションに挑戦する必要はありません。まずは簡単な挨拶を積極的に行う、部署内のメンバーに簡単な質問をするなど、小さなことから始めてみましょう。
   • 成功体験を積み重ねることで、自信がつき、徐々により複雑なコミュニケーションにも挑戦できるようになります。

4. ロールプレイングを行う:

   • 信頼できる友人や家族に協力してもらい、想定した場面でのロールプレイングを行います。
   • 相手に上司や同僚役になってもらい、フィードバックをもらうことで、自分の表現の癖や、さらに改善できる点に気づくことができます。

5. ポジティブなセルフトークを取り入れる:

   • 「失敗したらどうしよう」「嫌われたらどうしよう」といったネガティブな考えは、アサーションの実践を妨げます。「自分にはできる」「正直に伝えても大丈夫だ」といったポジティブな言葉を自分に言い聞かせ、自信を高めましょう。

新しい環境でアサーションを行う上での心構え

新しい環境でアサーションを実践する際には、いくつかの心構えが重要です。

• 相手への配慮を忘れない: アサーションは自己主張であると同時に、相手の立場や感情を尊重するコミュニケーションです。一方的な要求や非難ではなく、相手に寄り添う姿勢が信頼関係を築きます。
• 正直さと誠実さ: 分からないことは分からない、できないことはできないと正直に伝える勇気を持ちましょう。誠実な態度は信頼を生みます。
• 完璧を目指さない: 最初からすべてを完璧にこなそうとせず、一歩ずつ着実に進むことを意識しましょう。多少の失敗は成長の糧となります。
• 焦らない: 新しい環境に馴染むには時間がかかるものです。焦らず、日々のコミュニケーションを通じて徐々に信頼関係を深めていきましょう。
• 自分らしさを大切に: 無理に周りに合わせようとせず、自分の価値観や強みを大切にしながらコミュニケーションを取ることが、長期的な関係構築につながります。

まとめ

部署異動や転職といった新しい環境は、キャリアにおける重要な節目です。この時期にアサーションスキルを意識的に活用することで、単に業務に慣れるだけでなく、周囲との良好な人間関係を築き、自分らしく働くための強固な基盤を築くことができます。

ご紹介した具体的な表現例や練習法は、新しい環境での一歩を踏み出すための一助となるはずです。最初は難しく感じるかもしれませんが、小さな実践を積み重ねることで、アサーションはあなたの強力な武器となります。新しい環境での挑戦を、アサーションとともに成功させてください。応援しています。