評価面談で「こうなりたい」を伝えるアサーション術〜希望・キャリアパスの適切な伝え方〜
評価面談で「こうなりたい」を伝える難しさ
多くのビジネスパーソンにとって、年に数回実施される評価面談は、これまでの成果を報告し、今後の目標をすり合わせる重要な機会です。しかし、「給与を上げてほしい」「こんな業務に挑戦したい」「部署を異動したい」といった自身の具体的な希望やキャリアパスを率直に伝えることに、難しさを感じている方も少なくありません。
「生意気に思われたらどうしよう」「要望を伝えても聞き入れられないだろう」「漠然とした希望をどう言葉にすれば良いかわからない」といった不安から、結局何も伝えられず、あるいは曖昧な表現に留めてしまうケースは少なくないようです。
しかし、評価面談は、自身のキャリアや働き方について、上司と率直に話し合うことのできる貴重な場です。ここで自身の希望を適切に伝えることは、今後の業務内容や待遇に影響を与えるだけでなく、自身のモチベーション維持や成長にも繋がります。
アサーションとは何か?評価面談でなぜアサーションが必要なのか
アサーションとは、相手を尊重しつつ、自分の意見や気持ち、要求、権利などを率直かつ誠実に伝えるコミュニケーションスキルのことです。攻撃的な自己主張でも、相手に迎合する一方的な譲歩でもありません。
評価面談という場において、アサーションスキルは特に重要になります。単に「給与を上げてください」と要求するだけでは、独りよがりな印象を与えかねません。かといって、何も言わずに現状維持を受け入れるだけでは、自身の不満や将来への不安を抱え続けることになります。
アサーションを用いることで、以下の点を踏まえながら、自身の希望を伝えることが可能になります。
- 自身の考えや感情を正直に表現する: 自分が何を望んでいるのか、なぜそう考えているのかを誠実に伝えます。
- 相手(上司)の状況や立場を考慮する: 一方的な要求ではなく、会社の状況や上司の立場を理解しようとする姿勢を示します。
- 対等な立場で対話する: 自身の希望を伝えつつ、上司からのフィードバックや意見にも耳を傾け、共に建設的な解決策を探る姿勢を持ちます。
評価面談でアサーションを実践することで、上司との間に信頼関係を築きながら、自身のキャリアに対する前向きな姿勢を示すことができるのです。
評価面談で使えるアサーション表現:具体的な場面と例文
ここでは、評価面談で直面しうる具体的な場面を想定し、アサーションを用いた伝え方の例文をご紹介します。ポイントは、主語を「私(I)」にすること、事実に基づいて状況を描写すること、相手への配慮を示すことです。
場面1:給与・待遇改善の希望を伝える
これまで会社に貢献してきたこと、自身の成長、市場価値などを踏まえ、適切な評価と待遇を求める場面です。
- そのまま伝えると…(非アサーティブ例): 「給料が安すぎます。もっと上げてください。」(攻撃的)、「給料のこと、ちょっと気になってまして…でも、難しいですよね。」(非主張的)
- アサーション表現例:
- 「今期は〇〇(具体的な成果や貢献)に取り組み、目標を達成することができました。この経験を通じて、私のスキルも〇〇(具体的に身についたスキルや成長)の点で向上したと感じております。これらの実績と今後の更なる貢献意欲を踏まえ、現在の評価と報酬について見直しの機会をいただければ幸いです。」
- 表現の意図: まず事実(成果)と自己評価(スキルの向上)を客観的に伝えます。その上で、貢献意欲と待遇見直しへの希望を丁寧に伝えています。「機会をいただければ幸いです」という表現で、一方的な要求ではなく、話し合いの場を求めている姿勢を示しています。
場面2:昇進・キャリアアップの希望を伝える
より責任のある立場や、専門性を深める役割に就きたいという希望を伝える場面です。
- そのまま伝えると…(非アサーティブ例): 「いつになったら昇進できるんですか?」(攻撃的)、「正直、今のままでは物足りなくて…でも、自分には無理かもしれません。」(非主張的)
- アサーション表現例:
- 「現在の〇〇という業務にはやりがいを感じておりますが、今後はさらに△△(挑戦したい分野や役職)といった分野で、より広い視野と責任を持って業務に貢献していきたいと考えております。具体的には、□□(挑戦のために必要だと思うことや、自分が貢献できると考える点)のスキルをさらに磨き、次のステップに進むための準備を進めていきたいと考えております。この点について、何か私に期待されることや、今後のキャリアパスについてアドバイスをいただけますでしょうか。」
- 表現の意図: 現状への感謝と、今後の具体的な希望を明確に伝えています。単なる「昇進したい」ではなく、なぜ昇進したいのか、昇進して何を成し遂げたいのかという意欲と、そのために自己が努力する姿勢を示しています。上司への相談という形をとることで、対話への扉を開いています。
場面3:異動・配置転換の希望を伝える
現在の部署や業務内容から、他の部署や別の種類の業務への異動を希望する場面です。
- そのまま伝えると…(非アサーティブ例): 「この部署、もう限界です。別の部署に移りたいです。」(攻撃的)、「異動できたら嬉しいですけど…希望しても無駄ですよね。」(非主張的)
- アサーション表現例:
- 「現在の部署での経験は大変貴重であり、〇〇(具体的な学びや貢献)を得ることができました。一方で、私自身のキャリアについて考えた際、△△(希望する部署や業務内容)の分野に強い関心があり、そこで□□(自分の強みや経験がどう活かせるか)といった形で貢献できるのではないかと感じております。もし可能であれば、将来的に△△の部署で経験を積む機会をいただけないでしょうか。そのために、現在取り組むべきことや、必要なスキルについてご意見を伺えれば幸いです。」
- 表現の意図: 現在の部署への感謝を述べつつ、異動を希望する具体的な理由(関心、活かせる経験)を明確に伝えています。異動希望が、単なる現状否定ではなく、自身の成長や会社への貢献という前向きなものであることを示唆しています。一方的な要求ではなく、可能性を探る姿勢を見せています。
アサーションスキルを向上させるための練習方法
評価面談でスムーズに希望を伝えるためには、事前の準備と練習が不可欠です。一人でも取り組める具体的なステップをご紹介します。
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自己分析と希望の明確化:
- 自分が「こうなりたい」という状態を具体的に書き出してみましょう。給与はいくら欲しいのか、どんな役職に就きたいのか、どんな業務に挑戦したいのか。
- なぜそうなりたいのか、その背景にある理由(やりがい、スキルアップ、貢献したいことなど)を掘り下げてみましょう。
- 自分の強みや、これまでの成果をリストアップし、それが希望するキャリアとどう繋がるのかを整理します。
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上司の視点を想像する:
- 自分の希望を伝えた時に、上司はどんな点を懸念する可能性があるか考えてみましょう。(例: 経験不足、部署の状況、会社の予算など)
- その懸念に対して、どのように説明すれば理解を得られるか、代替案や協力できる点はないかを検討します。
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話す内容の構成と「I(私)」メッセージの作成:
- 面談で話す内容を、導入(感謝や成果報告)→本題(希望とその理由)→まとめ(今後の意欲や相談)という流れで構成します。
- 希望を伝える部分では、「私は~と感じています」「私としては~したいと考えています」といった「I(私)」を主語にした表現を意識して文章を作成します。
- 具体例を参考に、自分の言葉でアサーション表現を書き出してみましょう。
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ロールプレイング(頭の中で、書き出し、声に出す):
- 頭の中で、上司との面談場面をシミュレーションしてみます。上司の反応を想定しながら、自分がどのように話すかイメージします。
- 書き出したアサーション表現を、実際に声に出して読んでみます。ぎこちなくないか、自然なトーンで話せるか確認します。録音して聞いてみるのも有効です。
- 可能であれば、信頼できる同僚や友人に上司役をお願いして、実際にロールプレイングをしてみるのも良い練習になります。
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スモールステップでの実践:
- 評価面談のような重要な場でいきなり完璧を目指すのではなく、日頃のコミュニケーションの中で小さなアサーションを試してみましょう。例えば、会議での簡単な質問や意見表明、同僚への依頼や協力依頼などです。
- 小さな成功体験を積み重ねることで、自信を持って自己表現できるようになります。
評価面談でアサーションを行う上での心構え
- 準備を怠らない: 自己分析、上司の視点考慮、話す内容の整理は入念に行いましょう。準備が自信に繋がります。
- 冷静さと誠実さ: 感情的にならず、落ち着いて誠実に自身の考えを伝えます。事実に基づいた客観的な説明を心がけます。
- 相手への敬意: 上司の意見や会社の状況にも耳を傾け、対話の姿勢を忘れないでください。
- 結果を受け止める覚悟: 希望がすぐに全て叶うとは限りません。希望が通らなかった場合でも、その理由を理解し、次のステップに向けて前向きに考える姿勢が重要です。面談は今後の対話の始まりと捉えましょう。
まとめ:キャリアを切り拓くための一歩として
評価面談で自身の希望やキャリアパスを伝えることは、自己表現が苦手な方にとって大きな挑戦かもしれません。しかし、アサーションスキルを用いて、相手を尊重しつつ誠実に自身の考えを伝えることは、自身のキャリアを主体的に切り拓くための重要な一歩となります。
今回ご紹介した具体的な表現例や練習方法を参考に、ぜひ一歩ずつ実践してみてください。面談は一方的な通告の場ではなく、上司と部下が互いを理解し、今後の成長について話し合う機会です。恐れず、誠実に、あなたの「こうなりたい」を伝えてみましょう。その経験が、きっとあなたのビジネスキャリアをより豊かなものにしてくれるはずです。