場面別アサーション

「でも」「なぜ?」意見への反論・質問に、アサーションで建設的に応じる方法

Tags: アサーション, コミュニケーション, 反論対応, 質問対応, ビジネススキル

意見表明に付きものの「反論」や「質問」への向き合い方

ビジネスシーンにおいて、会議での発言や企画提案など、自分の意見を表明する機会は数多くあります。しかし、「発言しても反論されるのではないか」「的を射ない質問が来たらどうしよう」といった不安から、なかなか一歩踏み出せないという方もいらっしゃるのではないでしょうか。また、せっかく勇気を出して発言したのに、予期せぬ反論や質問を受けてしまい、うまく言葉に詰まったり、感情的になりそうになったりして、後悔した経験をお持ちの方もいらっしゃるかもしれません。

自分の意見を伝えること自体がアサーションの第一歩ですが、その後の相手からの反応、特に反論や質問にどう応じるかも、アサーションスキルが問われる重要な場面です。反論や質問に適切に対応することで、一方的な主張ではなく、建設的な対話へと発展させることができます。本記事では、意見表明に伴う反論や質問に、感情的にならずアサーションを使って冷静に対応するための具体的な方法と、そのための練習法をご紹介します。

反論や質問は「攻撃」ではないと理解する

まず大切なのは、反論や質問を自分自身への「攻撃」や「否定」と捉えないことです。多くの場合、相手の反論や質問は、以下のような意図から生じます。

これらの多くは、建設的な議論のために必要なプロセスです。反論や質問を、対話を深めるための「ボール」として受け止める姿勢を持つことが、アサーティブな対応の始まりとなります。

意見への反論・質問にアサーションで応じる具体例

ここでは、ビジネスシーンでよくある反論や質問に対し、アサーションを用いて応じる具体的な表現と、そのポイントをご紹介します。

例1:提案に対するコスト面の懸念

シーン: 新しいツール導入を提案したが、「コストがかかりすぎるのではないか」という反論があった。

相手の言葉: 「〇〇さんの提案、確かに便利そうだが、現状の予算を考えるとコストがかかりすぎるのではないですか?」

アサーティブな応答例: 「ご指摘ありがとうございます。コストについてのご懸念、承知いたしました。確かに初期導入には費用がかかります。しかし、このツールを導入することで、現在の手作業による〇〇の工数を〇〇%削減できると試算しており、長期的に見れば〇〇のコスト削減が見込めます。具体的な数値として、導入から1年後には投資額の〇〇%を回収し、3年後には年間〇〇円のコスト削減に繋がる見込みです。」

ポイント: * まず相手の懸念(コスト)を明確に受け止める言葉(「ご指摘ありがとうございます」「承知いたしました」)を伝える。 * 感情的にならず、提案の根拠となる事実や具体的なデータ(試算結果、削減率、金額など)を示す。 * 短期的な視点だけでなく、長期的な視点でのメリットを提示する。

例2:業務分担の提案に対する理由の確認

シーン: プロジェクトのタスク分担について、あるメンバーに特定のタスクを依頼したところ、理由を尋ねられた。

相手の言葉: 「このタスクを私が担当するとのことですが、なぜ私なのでしょうか?」

アサーティブな応答例: 「今回のタスクを〇〇さんにお願いしたいと考えた理由は、〇〇さんが過去に△△プロジェクトで培われた××の経験とスキルが、このタスクを遂行する上で非常に重要だと判断したからです。特に、□□の知識が必須であり、チーム内で最もその経験をお持ちなのが〇〇さんだと認識しています。〇〇さんのご経験をぜひこのタスクに活かしていただきたいと考えております。」

ポイント: * 質問(理由)に対して、曖昧にせず具体的に答える。 * 相手のスキルや経験を評価し、そのタスクへの適性を論理的に説明する。 * 個人的な感情ではなく、タスクの性質と個人の能力との関連性を明確に伝える。

例3:現状への疑問提起に対する慣習を理由にした反論

シーン: 長年続けられている業務プロセスについて改善提案をしたところ、「これは前からこう決まっていることだ」という反論があった。

相手の言葉: 「そのやり方は効率が悪いという意見は分からなくもないが、これは昔からこう決まっている手順だから。」

アサーティブな応答例: 「これまでの経緯や、この手順が決定された際の意図を尊重しております。その上で、現在の状況を踏まえますと、〇〇という課題が生じているため、この点について見直す余地があるのではないかと考えております。例えば、△△のように手順を一部変更することで、××の非効率を解消できる可能性があります。過去の決定の意図も踏まえつつ、改めてこの手順についてご議論いただけると幸いです。」

ポイント: * 相手が根拠としている「慣習」「決定事項」を頭ごなしに否定しない姿勢を示す(尊重していることを伝える)。 * 単に「効率が悪い」という主観だけでなく、現在の状況下で具体的にどのような「課題」が生じているのか、事実に基づいて説明する。 * 感情的にならず、提案内容(改善案)を具体的に提示し、再検討を促す。

これらの例のように、アサーティブに応じるためには、相手の言葉の表面的な意味だけでなく、その背景にある意図や懸念を理解しようと努め、事実や根拠に基づいた論理的な説明を行うことが重要です。

反論・質問にアサーティブに応じるための心構えとテクニック

1. 感情的にならない(ブレイクを取る)

予期せぬ反論や、少し否定的な口調で質問されると、感情的に反応してしまいそうになることがあります。しかし、感情的な応答は対話を滞らせ、関係性を損なう可能性があります。一瞬でも良いので間を置き、深呼吸をするなど、冷静さを保つ工夫をしましょう。必要であれば、「少し考えるお時間をいただけますでしょうか」と伝えて、一旦考える時間を持つのも有効です。

2. 相手の言葉を正確に理解する(傾聴と確認)

相手の反論や質問の真意を正確に理解することが、適切な応答の第一歩です。「〇〇ということですね?」のように、相手の言葉を繰り返したり、要約して返したりすることで、自分の理解を確認し、相手に「きちんと聞いてもらえている」という安心感を与えられます。不明な点は臆せず質問し、誤解がないように努めましょう。

3. 事実と意見・感情を区別する

自分の応答の中で、何が客観的な事実で、何が自分の意見や推測なのかを明確に区別して伝えましょう。「データによれば〇〇です(事実)」と「私は〇〇だと考えます(意見)」を混同しないことで、説得力が増し、感情論と捉えられるリスクを減らせます。

4. 「私」を主語にしたIメッセージを使う

自分の考えや感情を伝える際は、「あなたは〜」と相手を主語にするのではなく、「私は〜」「私としては〜と考えます」のように「私」を主語にしたIメッセージを使用しましょう。これにより、相手を非難するニュアンスを避け、自分の内面にある考えや感情を誠実に伝えることができます。

5. 全てに応じる必要はない

その場で即答できない質問や、検討に時間が必要な反論に対しては、無理に回答しようとせず、「貴重なご指摘ありがとうございます。この点については、持ち帰って改めてデータを確認し、後日改めてご回答させていただけますでしょうか」のように、一度持ち帰る選択肢があることを伝えても良いのです。誠実に対応しようとする姿勢を示すことが大切です。

反論・質問対応力を高める具体的な練習法

アサーティブな反論・質問対応スキルは、意識的な練習によって向上させることができます。

1. 想定問答集を作成する

会議やプレゼンなど、意見表明の機会がある前に、予想される反論や質問を事前にリストアップしてみましょう。「コスト」「納期」「実行可能性」「効果測定の方法」など、テーマに関連する懸念点を洗い出します。それぞれの反論・質問に対し、上で紹介したポイント(事実に基づいた説明、Iメッセージなど)を踏まえて、アサーティブな応答のスクリプトを作成します。

2. シミュレーション(ロールプレイング)を行う

作成した想定問答集を元に、同僚や信頼できる友人とシミュレーション練習を行います。一方が反論・質問役、もう一方が応答役となり、実際の会話のように行います。練習後には、応答の仕方や言葉選びについてフィードバックをもらいましょう。一人で練習する場合は、自分の応答を録音して聞き返すことも有効です。

3. 実際の会話を振り返る(セルフモニタリング)

実際のビジネスシーンで反論や質問に対応した後、その会話を振り返ってみましょう。「どのように応答したか」「どんな言葉を使ったか」「感情的にならずにいられたか」「相手の反応はどうだったか」などを客観的に分析します。上手くいった点、改善が必要な点を特定し、次の機会に活かします。

4. スモールステップで実践する

いきなり重要な会議で難しい反論に対応しようとするのではなく、まずは比較的ハードルの低い場面で試してみましょう。例えば、部署内の非公式なミーティングでの軽い質問への応答や、1対1での話し合いの中での簡単な意見交換などです。成功体験を積み重ねることで、自信を持ってより難しい場面に臨めるようになります。

まとめ:アサーションで対話を深める

自分の意見を表明した後、反論や質問を受けることは、決して後ろ向きなことではありません。それは、相手があなたの意見に関心を持ち、より深く理解しようとしている、あるいはより良い結果を共に探求しようとしているサインでもあります。

反論や質問に感情的にならず、アサーションの原則(誠実さ、相互尊重、自己責任)に則って対応することで、一方的な主張で終わらせることなく、建設的な対話へと発展させることができます。これにより、相互理解が深まり、より質の高い結論に至る可能性が高まります。

反論や質問へのアサーティブな対応は、繰り返し練習することで必ず習得できるスキルです。今回ご紹介した具体的な表現や練習法を参考に、ぜひ日々のコミュニケーションの中で実践してみてください。自信を持って意見を述べ、建設的な対話を通じて、より円滑なビジネスコミュニケーションを実現していきましょう。