誤解を招いた情報を優しく正すアサーション表現と実践方法
ビジネスシーンで起こりがちな誤解や事実誤認に、どう対応していますか?
ビジネスの現場では、日々のコミュニケーションの中で誤解や事実誤認が生じることがあります。会議での発言、メールのやり取り、伝言、あるいは過去の経緯に対する認識のずれなど、その状況は様々です。
もし、目の前で、あるいは文書上で、事実と異なる情報に基づいて話が進んでいるとしたら、読者の皆さまはどのように対応されるでしょうか。
「波風を立てたくない」「相手を否定しているように思われたくない」という思いから、つい曖昧な返事をしてしまったり、沈黙を選んでしまったりすることもあるかもしれません。しかし、誤解や事実誤認をそのままにしておくと、後々のトラブルにつながったり、プロジェクトの進行に支障が出たりする可能性があります。
一方で、感情的に反論したり、一方的に相手の誤りを指摘したりすることは、関係性を損なうリスクを伴います。相手を尊重しつつ、同時に事実を正確に伝えるためには、どのようにコミュニケーションを取れば良いのでしょうか。
ここで役立つのが、アサーションスキルです。アサーションは単なる自己主張ではなく、相手の権利や感情を尊重しながら、自分の意見や要求、そして事実を誠実に伝えるコミュニケーションの方法です。今回は、ビジネスシーンで遭遇する誤解や事実誤認に対し、アサーティブに対応するための具体的な表現方法と、そのための練習方法について解説します。
誤解を「正す」こととアサーションの目的
誤解や事実誤認を訂正する際のアサーションの目的は、「相手の間違いを指摘すること」や「自分の正しさを誇示すること」ではありません。最も重要な目的は、「事実に基づいた情報を共有し、建設的な状況や正確な認識に戻すこと」です。
この目的を達成するためには、相手を攻撃したり非難したりするのではなく、あくまで「情報のずれを解消する」という視点を持つことが重要です。アサーティブな訂正は、関係性を維持しつつ、信頼性を高めることにもつながります。
具体的な場面別:誤解を優しく正すアサーション表現例
ビジネスシーンで実際に起こりうる状況を想定し、具体的なアサーション表現を見ていきましょう。
場面1:会議中、相手が事実と異なる前提で話を進めている
会議中に、同僚や上司が過去の決定事項や現状について、読者の皆さまの認識と異なる前提で話を進めている状況です。そのままでは誤った結論に至る可能性があります。
よくある反応(非アサーティブな例): * 黙って聞いている(後で問題になる) * 曖昧に頷く、同意する(誤解を助長する) * 強い口調で「それは違います!」と遮る(相手を攻撃している印象を与える)
アサーティブな表現例:
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「〇〇さん、発言の途中すみません。一点だけ、私の理解が正しいか確認させていただけますでしょうか。先ほどおっしゃられた△△の件ですが、私たちのチームで確認した最新の情報では、実際には××という状況でした。この点について、共有させていただいてもよろしいでしょうか。」
- ポイント: 相手の発言を一旦受け止めつつ、自身の理解の確認という形で切り出す。「私たちのチームで確認した最新の情報では」のように客観的な根拠を示す姿勢を見せる。「よろしいでしょうか」と相手に発言の許可を求める丁寧さ。
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「〇〇の件についてですが、私の認識と少し異なる点がございましたので、補足させていただけますでしょうか。私が把握している情報では、□□という内容だったのですが、これは正しいでしょうか。」
- ポイント: 「私の認識と少し異なる点がございました」と、あくまで自分の理解との違いとして提示する。「私が把握している情報では」と情報の出どころを明確にする。「これは正しいでしょうか」と疑問形にすることで、一方的な訂正ではなく、確認・すり合わせの姿勢を示す。
場面2:メールやチャットで、相手が過去の決定や状況について誤った認識を示している
プロジェクトのチャットやメールで、参加者の一人が過去の決定事項や共有された情報について、誤った理解に基づいたコメントをしている状況です。
よくある反応(非アサーティブな例): * 訂正のメールを送るのをためらう(誤解が広がる) * 「いいえ、それは違います」と直接的に否定する(冷たい印象を与える)
アサーティブな表現例:
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「〇〇様、いつもお世話になっております。△△の件について、ご認識ありがとうございます。恐縮ながら、いただいた情報に一部認識のずれがあるかと存じますので、ご確認いただけますでしょうか。実際に決定したのは××という内容で、議事録にもそのように記載されております。(または、先日□□様から共有いただいた情報です)。お手数ですが、ご確認いただけますと幸いです。」
- ポイント: 感謝の言葉で始め、クッション言葉(恐縮ながら、一部認識のずれがあるかと存じます)を入れる。客観的な根拠(議事録、共有情報源)を明確にする。「お手数ですが、ご確認いただけますと幸いです」と相手に確認を促す丁寧な依頼形。
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「△△の件について、私の理解が正しいか確認させてください。以前お話しした際には□□という内容で合意した(または、共有した)と記憶しているのですが、現状はいかがでしょうか?」
- ポイント: 「私の理解が正しいか確認させてください」と、あくまで自分の理解を出発点とする。「〜と記憶しているのですが」と、断定を避ける。「現状はいかがでしょうか?」と相手に確認を促すことで、対話を促す。
場面3:クライアントや取引先が、提供した情報やサービスについて誤った理解をしている
自社のサービスや製品、提供した資料の内容について、クライアントや取引先が誤った認識を持っている状況です。
よくある反応(非アサーティブな例): * 相手に合わせて曖昧な返事をしてしまう(後でクレームにつながる) * 「お客様、それは違います」と強く否定する(関係性を損なう)
アサーティブな表現例:
- 「〇〇様、△△の件についてご説明ありがとうございます。一点、弊社のサービスについて補足させていただけますでしょうか。ご紹介しましたサービスは××という仕様になっておりまして、□□という点で〇〇様の現在の認識と少し異なるかと存じます。この点について、より詳細な情報はこちらの資料(または、改めてご説明)をご確認いただけますでしょうか。ご不明な点がございましたら、遠慮なくお尋ねください。」
- ポイント: 感謝の言葉で一旦相手の話を受け止める。「補足させていただけますでしょうか」と、追加情報として提供する姿勢。「〜という点で〇〇様の現在の認識と少し異なるかと存じます」と、丁寧かつ事実に基づいた表現。「資料をご確認いただけますでしょうか」と、客観的な情報源へ誘導する。
誤解訂正のアサーションスキルを向上させるための練習方法
アサーションスキルは、自転車の乗り方や楽器の演奏と同じように、練習することで習得できます。誤解を適切に訂正するアサーションのために、一人でも取り組める練習方法をご紹介します。
ステップ1:状況と事実を冷静に整理する
誤解が生じた、あるいは生じそうな状況を思い返してみてください。その際、「何が事実か」「相手は何と認識しているか」「自分は何を感じたか(困惑、焦り、もどかしさなど)」を紙に書き出すなどして冷静に整理します。事実と感情を切り離して考えることが、落ち着いて対応するための第一歩です。
ステップ2:理想のアサーション表現を考えて書き出す
ステップ1で整理した状況を踏まえ、「もしアサーティブに伝えられるとしたら、自分はどのように表現したいか」を具体的に考えてみましょう。上記の例文を参考にしながら、主語を「私」にすること、事実に基づいて描写すること、相手への配慮を示すクッション言葉を使うことなどを意識して、実際に声に出して言ってみたり、紙に書き出したりします。
ステップ3:ロールプレイングで試す(可能であれば)
信頼できる友人や家族、あるいは職場の同僚に協力してもらい、想定される誤解の場面を演じてみましょう。相手に「誤った情報を伝えてもらう役」を演じてもらい、それに対して自分が考えたアサーション表現を使ってみます。相手から「どのように聞こえたか」「もっとこうしたら伝わりやすいのでは」といったフィードバックをもらうことで、表現を洗練させることができます。
ステップ4:リスクの低い場面で実践してみる
いきなり重要な会議やクライアントとのやり取りで実践するのはハードルが高いかもしれません。まずは、比較的リスクの低い日常の場面で試してみましょう。例えば、「〇〇さんが××と言っていたよ」と誤った伝言を聞いた時に、「すみません、それは△△が正しかったかと思います」と優しく訂正してみる、などです。小さな成功体験を積み重ねることが自信につながります。
ステップ5:振り返りと改善
アサーションを試みた後、その結果を振り返りましょう。「自分の意図は伝わったか」「相手の反応はどうだったか」「もっと良い表現はなかったか」などを検討します。うまくいかなかったとしても、それは失敗ではなく学びの機会です。改善点を踏まえ、次の機会に活かしましょう。
誤解訂正のアサーションを行う上での心構え
- 目的は正確な情報の共有: 相手を打ち負かすことではなく、皆が事実に基づいた認識を共有し、スムーズに物事を進めることが目的であることを常に意識してください。
- 感情的にならない: 誤解されると焦ったり、苛立ったりすることもあるかもしれませんが、感情的になるとアサーティブなメッセージは伝わりにくくなります。深呼吸するなどして、落ち着いて話しましょう。
- 「私は」メッセージを使う: 「あなたは間違っています」ではなく、「私は〜と認識しています」「私が見た情報では〜でした」のように、主語を「私」にして伝えることで、一方的な非難ではなく、自分の視点からの情報提供になります。
- クッション言葉を活用する: 「恐縮ながら」「一点よろしいでしょうか」「〜かと存じますが」といったクッション言葉を入れることで、柔らかい印象になり、相手が耳を傾けやすくなります。
- 非言語コミュニケーションも大切に: 落ち着いた声のトーン、穏やかな表情、威圧的でない姿勢など、非言語的な要素もメッセージの伝わり方に大きく影響します。
まとめ:正確な情報共有は信頼の基盤
ビジネスシーンにおける誤解や事実誤認を適切に訂正するアサーションは、単に正確な情報を伝えるだけでなく、プロフェッショナルとしての信頼性を高め、より建設的な人間関係を築くために不可欠なスキルです。
最初は難しく感じるかもしれませんが、今回ご紹介した具体的な表現例や練習方法を参考に、少しずつ実践してみてください。事実を尊重し、相手も尊重するアサーティブなコミュニケーションは、きっと読者の皆さまのビジネスをよりスムーズで確かなものにしてくれるはずです。
自信を持って、そして誠実に、正しい情報を伝えるためのアサーションを、ぜひ日々のコミュニケーションに取り入れていきましょう。