場面別アサーション

納期遅延や仕様変更... 社外パートナーと建設的に連携するアサーション術

Tags: アサーション, 外部連携, 協力会社, ビジネスコミュニケーション, パートナーシップ

社外パートナーとの連携におけるコミュニケーションの課題

ビジネスを推進する上で、社外の協力会社やパートナー企業との連携は不可欠です。しかし、異なる企業文化や目標を持つ相手との協業においては、予期せぬ問題が発生することも少なくありません。例えば、約束された納期に遅延が生じたり、プロジェクトの途中で仕様変更の必要が出てきたりする場合です。

このような状況で、自社の立場を守りつつ、相手との良好な関係を維持しながら、建設的な解決を図ることは容易ではありません。強く言いすぎれば関係が悪化し、遠慮しすぎれば自社が不利益を被る可能性があります。

ここで重要となるのが、「アサーション」のスキルです。アサーションは、相手の意見や感情を尊重しながら、自分の意見、感情、要求を誠実に、率直に伝えるコミュニケーション手法です。社外パートナーとの連携においてアサーションを効果的に活用することで、課題を円滑に解決し、より信頼性の高いパートナーシップを築くことが可能になります。

社外パートナーとの連携でアサーションが重要な理由

社外パートナーとの関係は、契約に基づいたビジネス上の関係であると同時に、長期的な協業においては信頼関係が非常に重要になります。アサーションを用いることで、以下の点が可能になります。

では、具体的なビジネスシーンを想定し、アサーション表現を見ていきましょう。

【場面別】社外パートナーへのアサーション表現と伝え方

場面1:納期遅延が発生した場合

協力会社からの納品が予定より遅れている状況です。遅延の原因を確認し、今後の見通しを把握する必要があります。単に催促するだけでなく、状況を正確に伝え、今後の対応を協議するためのアサーションです。

良くない例: 「まだ納品されないのですか?どうなっているんですか!」(相手を非難し、感情的) 「遅延しているようですが…いつになりますか?」(遠慮しすぎで、状況が曖昧)

アサーション表現の例:

ポイント: まず事実(期日が過ぎていること、納品が確認できていないこと)を伝えます。非難するのではなく、現在の状況を尋ねる形で問いかけます。自社の状況(後続作業への影響など)を「私」を主語にして伝えることで、なぜ期日について確認しているのかの理由を明確にします。そして、一方的に要求するのではなく、共に解決策を考える姿勢(「ご相談させていただけますと」「協議させていただけますと」)を示すことが重要です。

場面2:仕様変更が必要になった場合(自社からの依頼)

プロジェクトを進める中で、当初の合意から仕様を変更する必要が出てきました。協力会社に追加の作業や調整をお願いすることになります。

良くない例: 「すみません、仕様変えてもらえませんか?急ぎでお願いします。」(一方的な依頼、状況説明不足) 「大変申し訳ないのですが…もし可能であれば仕様を少しだけ…」(消極的で、相手に判断を委ねすぎ)

アサーション表現の例:

ポイント: 仕様変更が必要になった背景や理由を具体的に、客観的な事実に基づいて説明します。これは相手に必要性を理解してもらうために重要です。単に依頼するだけでなく、それによって相手にどのような負担がかかる可能性があるかを認識していることを示し、その上で費用や納期について協議する用意があることを明確に伝えます。一方的な「変更してください」ではなく、「変更は可能か」「影響について検討いただきたい」と、相手の意見を求める形で伝えます。

場面3:協力会社からの仕様変更要求への対応

逆に、協力会社から仕様変更の提案や要求があった場合です。その内容を検討し、受け入れられるか、あるいは代替案を提案する必要が生じます。

良くない例: 「わかりました、それで進めてください。」(安請け合いで、内容を検討しない) 「それはできません。」(理由の説明がなく、一方的な拒否)

アサーション表現の例:

ポイント: まず相手の提案や状況を理解しようとする姿勢を示し、感謝や共感の言葉を添えます。すぐに可否を判断せず、自社の状況や懸念点を具体的かつ論理的に伝えます。感情的な拒否ではなく、なぜ難しいのかの理由を「私」の視点(懸念していること、影響を受けること)を含めて説明します。代替案を一緒に検討する、相手からの情報提供を求めるなど、問題解決に向けて協力する姿勢を示すことが、関係維持には重要です。

社外パートナーとのアサーションを成功させるためのポイント

これらの場面でアサーションを効果的に行うためには、いくつかの共通するポイントがあります。

  1. 事実に基づいた描写: 状況を説明する際は、推測や感情ではなく、実際に何が起きているのか、どのような状況であるのかを客観的な事実として伝えます。
  2. 「I(私)」メッセージの使用: 相手を主語にして非難するのではなく、「私は〜と感じている」「私は〜を懸念している」「私は〜を希望する」のように、「私」を主語にして自分の感情や考えを伝えます。これにより、相手は責められていると感じにくくなります。
  3. 相手への配慮と尊重: 相手の立場や状況を理解しようと努め、敬意をもって接します。言葉遣いや態度に、相手を尊重する気持ちを込めます。感謝や労いの言葉を添えることも効果的です。
  4. 具体性と明確性: 何について話し合いたいのか、どのような情報を求めているのか、どのような行動を希望するのかを具体的に明確に伝えます。曖たな表現は避けましょう。
  5. 代替案や解決策の提案/協議: 問題点を伝えるだけでなく、可能な範囲で代替案を提案したり、解決策を一緒に考えたりする姿勢を示します。

アサーションスキル向上のための実践的な練習方法

社外パートナーとのコミュニケーションでアサーションを自信を持って使うためには、日々の練習が重要です。一人でも取り組める方法をいくつかご紹介します。

  1. 自己分析から始める:

    • 自分が社外パートナーに対して、どのような状況で言いたいことが言えなくなるのか、あるいは逆に強く言いすぎてしまうのかを振り返ってみましょう。
    • 「あの時、本当はどう伝えたかったのか?」「どんな表現なら、相手を尊重しつつ自分の意図を伝えられたか?」を具体的に書き出してみます。
    • 自分のコミュニケーションパターンを理解することが、改善の第一歩です。
  2. 具体的な場面を想定したロールプレイング(一人で、または協力者と):

    • 過去に経験した、あるいはこれから起こりうる社外パートナーとの難しい場面を具体的に設定します。
    • 相手役になりきって想定される言動をリストアップし、それに対して自分がアサーションでどのように応じるか、具体的なセリフを考えて声に出して練習します。
    • 可能であれば、信頼できる同僚や友人に相手役をお願いし、フィードバックをもらいながら練習するとさらに効果的です。
  3. 「Iメッセージ」の練習:

    • 日々のコミュニケーションの中で、意識的に「私は〜と思います」「私は〜と感じています」「私としては〜を希望します」といった「Iメッセージ」を使う練習をします。
    • 最初は簡単な状況から始め、徐々に難しい状況に挑戦します。
  4. スモールステップでの実践:

    • いきなり大きな課題に対してアサーションを使うのではなく、まずは社外パートナーとの日常的なやり取りの中で、小さな確認や簡単な依頼などでアサーションの要素(例: 事実を伝える、Iメッセージを使う)を取り入れてみます。
    • 成功体験を積み重ねることで、自信につながります。
  5. アサーション表現のストックを増やす:

    • この記事で紹介した例文のように、様々な場面を想定したアサーション表現を学び、自分自身の言葉として使えるように練習します。
    • 自分に合った表現をいくつか準備しておくと、いざという時にスムーズに言葉が出てきやすくなります。

まとめ:アサーションで築く、より強固な社外パートナーシップ

社外パートナーとの連携におけるコミュニケーションは、ビジネスの成否に大きく関わります。納期遅延や仕様変更といった困難な状況に直面した際も、アサーションを用いることで、感情的にならず、事実に基づき、相手を尊重しながら自社の意見や要求を伝えることが可能です。

アサーションは単なる自己主張ではなく、誠実な対話を通じて互いの立場を理解し、共に最適な解決策を見つけ出すためのスキルです。日々の小さなコミュニケーションから意識してアサーションを取り入れ、ご紹介した練習方法を実践することで、社外パートナーとの間に確固たる信頼関係を築き、より円滑で実りある協業を実現してください。