専門性を活かす!アサーションで効果的に伝える業務範囲と貢献できること
多くのビジネスパーソンが、日々様々な依頼やタスクに直面しています。「これもお願い」「あれもできる?」といった声に応え続ける中で、自分の専門外の業務に時間を取られたり、本来集中すべき得意分野に注力できなかったりといった状況に陥ることがあります。結果として業務が非効率になったり、自身のキャリア形成に影響が出たりすることもあるかもしれません。
こうした状況を改善し、自身の専門性を活かしながら健全に働くためには、「アサーション」というコミュニケーションスキルが非常に有効です。アサーションは単に自分の意見を押し通すことではなく、相手を尊重しつつ、自分の状況、感情、考え、要求を正直かつ誠実に伝えるスキルです。
この記事では、ビジネスシーンで自分の専門性や業務範囲を効果的に伝えるためのアサーション表現と、そのための具体的な練習方法について解説します。
なぜ業務範囲を伝えるアサーションが重要なのか
自分の業務範囲や専門性を明確に伝えることは、自己中心的な行動ではありません。むしろ、組織全体の生産性向上や、互いの専門性を尊重する文化の醸成に貢献します。
- 業務効率の向上: 得意な人が得意なことに集中することで、業務の質とスピードが向上します。
- 専門性の深化: 自分の専門分野に集中できる時間が増え、スキルの研鑽につながります。
- 役割の明確化: 誰がどの領域を担当するかが明確になり、連携ミスや二重作業を防ぎます。
- 健全な人間関係: 安易に引き受けて後で対応できなくなる事態を防ぎ、信頼関係を維持します。
- 自身の負担軽減: 不要な業務を抱え込まず、心身の健康を保ちます。
特に、自己表現が苦手と感じる方は、頼まれると断りにくい、自分の能力以上のことを引き受けてしまうといった傾向があるかもしれません。しかし、アサーションを身につけることで、自分自身を守り、同時に周囲との良好な関係を築くことが可能になります。
場面別:業務範囲・専門性を伝えるアサーション表現
ビジネスシーンでよくある具体的な場面を想定し、アサーションを使った表現例とそのポイントをご紹介します。
場面1:自分の専門外・能力外の依頼が来た時
期待に応えたい気持ちから、よく分からないまま依頼を引き受けてしまいがちな場面です。しかし、専門外の業務は時間がかかるだけでなく、質も保証できないリスクがあります。
アサーションのポイント: * 依頼内容を丁寧に確認する。 * 自分の専門外であることを具体的に伝える。 * 完全に断るのではなく、できる代替案や協力できる範囲を示す。 * 他に適切な人がいれば、その人に繋ぐ提案をする。
表現例:
- 例1:「この件について、私の専門分野は〇〇ですが、今回の△△の領域は経験が浅いため、正直お手伝いできるか自信がありません。もし可能であれば、この分野に詳しい□□さんに相談してみるのが良いかもしれません。」
- 意図: 自分の専門性を前置きしつつ、できない領域と理由を正直に伝える。代案(□□さんへの相談)を提示することで、協力姿勢を示す。
- 例2:「ご依頼ありがとうございます。いただいた資料を拝見しましたが、私の現在の業務内容とは少し異なる専門知識が必要なようです。私でお力になれるとすれば、〇〇の部分の情報収集ですが、△△の分析については、より専門的なスキルを持つ方にお任せした方が確実かと存じます。」
- 意図: 感謝を示しつつ、依頼内容と自分の専門性のズレを伝える。全くできないのではなく、できる範囲(〇〇の情報収集)を提示し、できない部分についてはより適切な担当者がいることを示唆する。
- 例3:「大変恐縮ですが、このタスクは私の現在のスキルセットとは少し異なるため、期待されているレベルの成果を出すのにかなりの時間を要してしまう可能性がございます。もし納期に余裕があるか、あるいはタスクの一部を分担できる場合は、お手伝いできるかもしれません。」
- 意図: スキル不足により時間がかかる可能性を伝え、安易な引き受けによる迷惑を回避する。ただし、条件付きで協力できる可能性も示唆し、柔軟性を見せる。
場面2:自分の得意分野・専門性で貢献できることを伝えたい時
チームやプロジェクトで、自分の持つ知識やスキルが役立つと感じる場面です。しかし、遠慮して発言をためらい、貢献の機会を逃してしまうことがあります。
アサーションのポイント: * 貢献できる具体的な内容(知識、経験、スキル)を明確に伝える。 * 貢献意欲があることを誠実に伝える。 * 一方的な自己アピールではなく、チームやプロジェクトの目標にどう貢献できるかを意識する。
表現例:
- 例1:「〇〇の件について、私の過去のプロジェクトで同様の課題に取り組んだ経験がございます。その際に得た△△に関する知見が、今回の件でもお役に立てるかと存じます。もしよろしければ、情報提供やアイデア出しで協力させていただけますでしょうか。」
- 意図: 具体的な経験に基づき、役立つ知見があることを伝える。貢献したい具体的な方法(情報提供、アイデア出し)を提示し、相手の判断を仰ぐ形にする。
- 例2:「現在の議論について、私の専門分野である□□の視点から申し上げますと、△△という要素も考慮に入れると、より効果的なアプローチになるかと存じます。」
- 意図: 自分の専門分野を明らかにし、その視点から具体的な提案を行う。議論への貢献意欲を示す。
- 例3:「このタスクは私の得意としている分野ですので、もし担当者がまだ決まっていないようでしたら、私が責任を持って対応させていただけますと幸いです。特に〇〇の部分で、効率よく進める自信があります。」
- 意図: 自分の得意分野であることを率直に伝え、具体的なタスクへの担当意欲を示す。貢献できる具体的な内容(〇〇の部分を効率よく)も加える。
場面3:複数の依頼で業務過多になり、本来の専門業務に集中できない時
様々な依頼に応じているうちに、自分の本来の業務(多くの場合、専門性を最も活かせる業務)に割く時間がなくなってしまう場面です。
アサーションのポイント: * 依頼してくれたことへの感謝を伝える。 * 現在の業務状況(特に優先すべき業務や専門業務)を正直に伝える。 * 依頼への対応可否、あるいは対応できる場合の期日や条件を明確に伝える。 * 安易に「できます」と言わず、現実的な落としどころを探る姿勢を示す。
表現例:
- 例1:「〇〇の件、私にご依頼いただきありがとうございます。現在、△△のプロジェクトで□□の対応に集中しており、今日の終業までには完了させる必要がございます。もしよろしければ、明日の午前中であれば〇〇の件を拝見できますが、本日中の対応は難しい状況です。」
- 意図: 感謝と現在の優先業務を具体的に伝える。本日中の対応が難しい理由を明確にし、対応可能なタイミングを具体的に提示する。
- 例2:「ご相談ありがとうございます。大変恐縮ですが、現在抱えている業務量が多く、特に私の専門である〇〇の領域にかなりの時間を割いている状況です。今回の依頼について、すべてをお引き受けするのが難しいのですが、もし一部のタスク(例えば△△の部分)のみであれば、お手伝いできるかもしれません。」
- 意図: 感謝と業務過多の状況を伝える。すべてを引き受けるのが難しい理由(専門領域への注力)を明確にし、一部タスクであれば対応可能という代替案を示す。
- 例3:「〇〇の件、承知いたしました。現在の私の担当業務は△△であり、今週は特にその完了が求められております。今回の依頼が私の業務範囲に含まれるかどうか、あるいは優先順位について、一度上司の□□さんに確認させていただいてもよろしいでしょうか。」
- 意図: 依頼内容を認識したことを伝えつつ、現在の担当業務と優先順位を明確にする。自身の判断だけでなく、上司への確認を提案することで、組織としての最適解を探る姿勢を見せる。
アサーションスキルを向上させるための実践方法
これらのアサーション表現を実際に使えるようになるためには、日々の練習が不可欠です。一人でも、あるいは同僚や友人と一緒に取り組める練習方法をご紹介します。
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自己分析を行う:
- 自分が得意なこと、苦手なこと、興味のあること、避けたい業務などを具体的にリストアップしてみましょう。
- どんな依頼なら引き受けたいか、どんな依頼なら断りたいかの基準を自分の中で明確にします。
- これにより、自分がどうありたいか、何を伝えたいかが整理できます。
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スモールステップで実践する:
- まずはリスクの少ない小さな場面(例:社内チャットでの簡単な依頼への返答、親しい同僚からの頼まれごと)で、今回ご紹介したアサーション表現を試してみましょう。
- 成功体験を積み重ねることで、より重要な場面でもアサーションを使う自信につながります。
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具体的な表現を書き出してみる:
- 想定される具体的なビジネスシーン(例:「〇〇さんから△△の依頼が来た時」)を紙に書き出し、その場面でどのようなアサーション表現を使うか、いくつかパターンを考えて書き出してみましょう。
- 声に出して読んでみることも効果的です。
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ロールプレイングを行う:
- 信頼できる同僚や友人に協力してもらい、実際のビジネスシーンを想定したロールプレイングを行います。
- 相手に依頼者役になってもらい、自分がアサーションで応じる練習をします。練習相手からフィードバックをもらうことで、より効果的な伝え方を学ぶことができます。
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上手な人のアサーションを観察・分析する:
- 周囲で、自分の意見や状況を上手に伝えている人はいないでしょうか。その人がどのような言葉遣いや態度で伝えているかを観察し、参考にしてみましょう。
- 書籍やセミナーで、アサーションに関する知識を深めることも有効です。
アサーションを行う上での心構え
アサーションを実践する際には、以下の心構えを持つことが大切です。
- 完璧を目指さない: 最初から完璧なアサーションを目指す必要はありません。少しずつ、できることから試してみましょう。
- 結果よりもプロセスを重視: 相手が必ずしも自分の意図通りに反応するとは限りません。大切なのは、相手を尊重しつつ、自分が誠実に伝えようとしたプロセスです。
- 「私」を主語にする (Iメッセージ): 「〇〇さんは〜」「あなたは〜」ではなく、「私は〇〇と感じます」「私は〜したい」のように、「私」を主語にして伝えることで、相手を非難する印象を与えずに済みます。
- 事実に基づいて伝える: 感情的にならず、客観的な事実(現在の業務状況、過去の経験など)に基づいて伝えるように心がけましょう。
- 相手への配慮を忘れない: 伝え方によっては、相手に不快感を与えてしまう可能性もあります。「恐れ入りますが」「大変申し訳ございませんが」「お手数をおかけしますが」といったクッション言葉を上手に使いましょう。
まとめ
自分の専門性を活かし、健全な働き方を実現するためには、業務範囲や得意なことを適切に伝えるアサーションスキルが不可欠です。今回ご紹介した具体的な表現例や練習方法を参考に、日々のコミュニケーションの中でアサーションを意識的に取り入れてみてください。
最初は難しく感じるかもしれませんが、実践を重ねることで、徐々に自信を持って自分の状況や考えを伝えられるようになります。アサーションは、あなた自身の能力を最大限に発揮し、周囲とのより良い関係を築くための強力なツールとなるはずです。ぜひ、できることから一歩踏み出してみてください。