「期日に間に合わないかも…」を未然に防ぐ!遅延リスクの早期報告と必要なサポートを依頼するアサーション術
多くのビジネスパーソンにとって、複数の業務を並行して進める中で、予期せぬ課題や業務量の増加により、期日内に完了することが難しくなる状況は少なくありません。仕事熱心な方ほど、期日を守ろうと一人で抱え込み、結果として状況が悪化したり、報告が遅れて関係者に迷惑をかけてしまったりすることもあるかもしれません。
しかし、このような状況を未然に防ぎ、あるいは影響を最小限に抑えるためには、早期に状況を関係者に伝え、必要に応じてサポートを依頼することが非常に重要です。ここでは、期日前に業務の遅延リスクを報告し、必要なサポートをアサーションを用いて誠実に依頼する方法について解説します。
アサーションとは?なぜ期日管理にアサーションが必要か?
アサーションとは、相手を尊重しつつ、自分の考えや気持ち、要求を率直かつ誠実に伝えるコミュニケーションスキルです。一方的に自分の意見を押し通す「攻撃的な」コミュニケーションでもなく、自分の気持ちを抑え込んでしまう「非主張的な」コミュニケーションでもありません。
期日管理においてアサーションが重要となるのは、以下の理由からです。
- 信頼関係の維持: 遅延の可能性を早期に、誠実に伝えることで、関係者からの信頼を損なうリスクを減らすことができます。状況を隠したり、直前になって報告したりすることは、信頼を大きく損ねる原因となります。
- 問題の早期解決: 懸念点や必要なサポートを早期に伝えることで、関係者が協力して解決策を検討したり、代替案を講じたりする時間を確保できます。これにより、手遅れになる前に問題に対処し、期日遅延そのものを回避できる可能性が高まります。
- 自身の負担軽減: 一人で抱え込まず、周囲に状況を共有し協力を求めることで、精神的・物理的な負担を軽減し、冷静に業務に取り組むことができます。
具体的なビジネスシーンにおけるアサーション表現
ここでは、期日前に遅延リスクを報告したり、サポートを依頼したりする際に使える具体的なアサーション表現を、シーン別に紹介します。
シーン1:複数の業務により、特定のタスクの期日厳守が難しくなってきた
現在抱えている他の業務との兼ね合いで、特定のタスクを当初の期日までに完了することが困難になってきた状況です。
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伝えるべきこと:
- 現在の業務状況(抱えている他の業務やそれぞれの進捗)
- 期日内の完了が難しい可能性がある具体的なタスクとその理由
- どのような調整が必要か(期日変更の可能性、優先順位の相談、リソースの追加など)
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アサーション表現例:
「〇〇さん、△△の件でご相談があります。現在、□□のプロジェクトと並行して進めており、どちらも△月△日が期日となっています。□□プロジェクトに想定以上の時間を要しており、このままでは△△のタスクの完了が期日に間に合わない可能性があります。
つきましては、△△のタスクの期日を△月△日まで調整させていただくことは可能でしょうか。もし期日厳守が必要でしたら、他の業務の優先順位についてご相談させていただければ幸いです。早い段階でのご連絡が望ましいと考え、ご相談させていただきました。」
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なぜこの表現を選ぶのか:
- 「ご相談があります」と切り出し、一方的な報告ではなく対話の姿勢を示します。
- 現在の状況(複数の業務)と具体的な懸念点(期日に間に合わない可能性)を事実に基づいて伝えます。
- 「このままでは間に合わない可能性があります」のように、可能性として伝えることで断定的表現を避けつつ、問題提起をします。
- 具体的な解決策の提案(期日調整、優先順位相談)を行い、建設的な話し合いを促します。
- 「早い段階でのご連絡が望ましいと考え」と、早期に連絡した理由を添えることで、相手への配慮と自身の誠実さを示します。
シーン2:特定の業務において、不明点やボトルネックがあり、期日内に進捗しない懸念がある
業務を進める上で、必要な情報が不足している、特定の工程で想定外の遅延が発生している、などのボトルネックがあり、期日内に完了できるか不安になってきた状況です。
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伝えるべきこと:
- 具体的なボトルネックの内容(何が問題で進捗が滞っているか)
- そのボトルネックを解消するために必要なこと(情報、判断、協力など)
- 必要なものが得られない場合の見通し(期日への影響)
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アサーション表現例:
「〇〇さん、△△のタスクの進捗についてご報告とご相談があります。現在、特定の機能の実装を進めておりますが、◇◇の部分の仕様について不明点があり、作業が一時停止しております。この不明点が解消されないと、その後の工程に進むことができず、当初の期日である△月△日までに完了することが難しい状況です。
つきましては、◇◇の仕様について、ご確認または判断をいただけますでしょうか。本日中にご回答いただけますと、期日内の完了に向けて再度調整が可能かと存じます。お手数をおかけいたしますが、ご協力いただけますようお願い申し上げます。」
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なぜこの表現を選ぶのか:
- 報告と相談である旨を明確にします。
- 「仕様について不明点があり、作業が一時停止しております」のように、客観的な事実(ボトルネック)とそれがもたらしている状況を具体的に伝えます。
- 「期日までに完了することが難しい状況です」と、客観的な事実に基づく見通しを誠実に伝えます。
- 「ご確認または判断をいただけますでしょうか」と、相手に求める具体的な行動(必要なサポート)を明確に伝えます。
- 「本日中にご回答いただけますと…」と、協力が得られた場合の効果や、早期対応の必要性を説明します。
アサーションスキル向上のための実践的な練習方法
アサーションはスキルであり、意識的に練習することで向上させることができます。期日管理におけるアサーションのために、以下の練習方法を試してみてください。
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想定シーンでの「I(アイ)メッセージ」作成:
- 実際に期日管理で懸念が生じた、あるいは過去に困った状況を具体的に書き出します。
- その状況で、相手に伝えたいこと(事実、自分の気持ちや懸念、具体的な依頼や提案)を整理します。
- 主語を「私は〜」「私は〜と感じています」とする「Iメッセージ」を使って、伝わる文章や言葉を考えて書き出してみます。(例:「このままでは間に合わない可能性があり、私は懸念しています。」「〜という状況のため、私は△△のサポートが必要だと感じています。」)
- 作成した文章を声に出して読んでみましょう。
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ロールプレイング:
- 信頼できる友人や同僚に協力してもらい、想定したビジネスシーンで役割を決めて練習します。
- 相手には、協力的・中立的・あるいは少し難しい反応など、いくつかのパターンを演じてもらうとより実践的です。
- 伝えた後の相手の反応を見て、どう伝えるのが最も効果的か、練習相手からフィードバックをもらいましょう。
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スモールステップでの実践:
- いきなり重要な報告や依頼から始めるのではなく、比較的伝えやすい簡単な報告や確認からアサーションを使ってみましょう。(例: 「〇〇の件、今日の午後一までに進捗をご共有いただけますでしょうか」「□□について確認したい点があるのですが、少しお時間よろしいでしょうか」)
- 成功体験を積むことで、自信を持ってより難しい状況にも取り組めるようになります。
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過去の経験を振り返る:
- 過去に期日管理で失敗した経験や、抱え込んで苦労した経験を振り返ります。
- その時、もしアサーションを使っていたら、どのような状況を、どのように伝えられたか考えてみましょう。
- 具体的な表現を考えることで、次に似たような状況になった際に役立てることができます。
アサーションを行う上での心構えとポイント
早期報告やサポート依頼をアサーションで行う際に、意識しておきたい心構えやポイントです。
- 事実に基づいた状況説明: 感情論ではなく、「〜という状況なので」「〜というデータによると」のように、客観的な事実や状況を具体的に伝えることを心がけます。
- 主語を「私」にする(Iメッセージ): 相手を責めるような「あなたは〜」「〇〇さんのせいで〜」ではなく、「私は〜と感じています」「私は〜を懸念しています」のように、主語を「私」にして自分の内面的な状況や気持ちを伝えます。
- 相手の立場への配慮: 相手が忙しいかもしれない、他のタスクを抱えているかもしれない、といった相手の状況にも配慮を示し、「お忙しいところ恐縮ですが」「大変申し訳ありませんが」といったクッション言葉を適切に用います。
- 具体的な依頼と代替案の提示: 「なんとかしてください」のような曖昧な依頼ではなく、「〇〇について判断をお願いします」「△△のタスクを代わりに担当していただけますか」「期日を〜まで延ばすことは可能ですか」のように、具体的に何をしてほしいかを伝えます。また、可能な範囲で代替案も提示できると、話し合いがスムーズに進みます。
- 冷静さと誠実さ: パニックになったり、感情的になったりせず、常に冷静かつ誠実に状況を伝えることが、信頼を保つ上で不可欠です。
まとめ
期日前に業務の遅延リスクを早期に報告し、必要なサポートをアサーションで依頼することは、ビジネスにおける重要なスキルです。これは、自分一人で問題を抱え込まず、関係者と協力して解決策を見つけるための誠実な行動です。
最初は勇気が必要に感じるかもしれませんが、事実に基づき、自分の気持ちや懸念を正直に伝え、相手への配慮を忘れずに具体的な依頼をすることで、状況は必ず好転します。そして、早期にコミュニケーションをとることで、自身の負担を軽減し、より質の高い仕事に集中できるようになります。
今日から、小さな「報・連・相」にアサーションの要素を取り入れることから始めてみませんか。一歩ずつ実践することで、自信を持ってビジネスコミュニケーションに臨めるようになるはずです。