「〇〇について、少し違う見方があります」相手の意見に同意できない時のアサーション表現と伝え方
相手の意見に同意できない時、どう伝えていますか?
ビジネスの場では、様々な意見が飛び交います。会議での方針決定、プロジェクトの進め方、日々の業務報告など、多様な視点があることは健全な状態と言えるでしょう。しかし、時として、自分とは異なる意見や、賛同できない意見に直面することもあるかと思います。
そのような時、皆さまはどのように対応されていますか?
- 「ここで反対意見を言ったら、場の空気が悪くなるのでは?」
- 「相手の立場や気持ちを考えると、言い出しにくい…」
- 「うまく言葉にできず、結局何も言えずに終わってしまう」
このように感じ、言いたいことを飲み込んでしまったり、曖昧な態度を取ってしまったりすることは、決して珍しいことではありません。しかし、同意できない意見に何も言わないままだと、誤解が進んでしまったり、自分の専門性や経験に基づく貴重な意見が反映されなかったり、あるいは、内心で不満やストレスを抱え込んでしまうことにもつながりかねません。
相手との関係性を損なわずに、かつ自分の考えを誠実に伝えるためには、「アサーション」のスキルが役立ちます。今回は、相手の意見に同意できない、あるいは異論がある場合に、建設的に伝えるためのアサーション表現と、その具体的な練習方法についてご紹介いたします。
同意できない状況でアサーションが重要な理由
アサーションとは、相手を尊重しつつ、自分の気持ち、意見、要求を誠実に、率直に、対等に表現するコミュニケーションスキルです。これは単なる自己主張や反論とは異なります。
相手の意見に同意できない状況でアサーションを行うことは、以下のような点で重要です。
- 建設的な議論の促進: 異なる視点や情報を提示することで、より多角的で深い議論が可能になり、最良の結論にたどり着く助けとなります。
- 誤解の防止: 自分の理解や見解が異なることを伝えることで、後々の認識のズレやトラブルを防ぎます。
- 相互理解の深化: 自分の考えや懸念点を伝えることで、相手もあなたの立場や専門性をより理解する機会となります。
- 健全な関係性の維持: 感情的に否定するのではなく、敬意を持って伝えることで、信頼関係を保ちながら意見交換ができます。
- 自身のストレス軽減: 言いたいことを我慢せず、適切に表現することで、内的なストレスを軽減し、健全な精神状態を保てます。
具体的なビジネスシーン別:同意できない意見へのアサーション表現例
ここでは、ビジネスの様々な場面で、相手の意見に同意できない時に使えるアサーション表現の例文をご紹介します。単に「違うと思います」と言うのではなく、どのように切り出し、どのように伝えるかが重要です。
シーン1:会議での方針決定に関する議論
- 相手の意見の例: 「このプロジェクトはA案で進めるのが最も効率的です。」
- 同意できない理由の例: B案の方がリスクが少なく、長期的な視点ではメリットが大きいと考えている。
アサーション表現例:
- 「A案、承知いたしました。ありがとうございます。〇〇さんのおっしゃる効率性の点は理解できます。一方で、私はB案のリスク回避や長期的なメリットも重要だと考えておりまして、その点について少し違う見方があります。具体的には、〜(リスクや長期メリットについて説明)〜といった点が気になっております。」
- 選ぶ理由・意図: まず相手の意見に同意する姿勢(理解を示す)を見せ、その上で「一方で」や「違う見方」といったクッション言葉を用いて自分の意見を提示します。自分の懸念点やメリットを具体的に伝えることで、感情論ではなく事実に基づいた議論を促します。
- 「A案について、貴重なご意見ありがとうございます。拝聴していて、一つ懸念点が頭をよぎりました。もしA案で進める場合、〜(具体的なリスク)〜といった可能性はないでしょうか?私の経験では、過去に同様のケースで〇〇という問題が発生したことがございまして。その点を考慮すると、〜(代替案や対策など)〜も合わせて検討する必要があるかと感じております。」
- 選ぶ理由・意図: 自分の懸念点を「頭をよぎりました」「感じております」のように控えめに伝えつつ、根拠として自身の経験を提示します。「可能性はないでしょうか?」「検討する必要があるかと」のように疑問形や提案の形で問いかけることで、相手に考える余地を与え、一方的な否定を避けます。
シーン2:プロジェクトの進め方に関する議論
- 相手の意見の例: 「タスクXは担当Yさんに任せるのが一番早いだろう。」
- 同意できない理由の例: 担当Yさんは現在他の重要なタスクで手一杯であり、担当Zさんの方が適任と考えている。
アサーション表現例:
- 「担当Yさんにご依頼するというお考え、理解できます。確かにYさんはその分野に詳しいのですが、現在の彼の状況について、私から少し補足させていただけますでしょうか。彼は現在〇〇の件で非常に多忙にしており、期日までに完了するのが難しいかもしれません。もしよろしければ、Zさんに打診してみるのはいかがでしょうか。Zさんもその分野に知見があり、現在比較的余裕があるかと存じます。」
- 選ぶ理由・意図: 相手の意見を頭ごなしに否定せず、まず理解を示します。その上で、「補足」という形で新しい情報(Yさんの状況)を提供します。「もしよろしければ」と前置きしつつ、代替案としてZさんを提案することで、相手に検討の機会を与え、建設的な提案として受け取られやすくなります。
- 「担当YさんにタスクXをお願いすることをご提案なのですね。ありがとうございます。タスクXの重要性を考えると、個人的には担当Yさんの現在の負荷状況が少し心配です。彼は今、〇〇の件でかなり集中して取り組んでいますので、新しいタスクを追加すると品質や期日に影響が出ないか懸念しています。いかがでしょうか。」
- 選ぶ理由・意図: 自分の懸念点を「個人的には〜心配です」「懸念しています」のようにIメッセージ(私を主語にした表現)で伝えます。相手の意見そのものを否定するのではなく、担当者の状況という「事実」に基づいた懸念を伝えることで、反論ではなく情報共有として受け止められやすくなります。最後に問いかけることで、相手の反応を促します。
シーン3:報告内容に対する異なる見解
- 相手の意見の例: 「このデータから、顧客のニーズはAであると結論づけられます。」
- 同意できない理由の例: データの一部が考慮されておらず、Bの可能性も十分にあると考えている。
アサーション表現例:
- 「ご報告ありがとうございます。〇〇さんの分析、大変参考になります。このデータからAという結論を導かれたのですね。私も大筋では同意いたしますが、一つ、〜(考慮されていないデータ部分)〜のデータも合わせて考えると、Bという見方もできるのではないかと感じております。例えば、〜(Bという見方ができる根拠を説明)〜。この点について、〇〇さんはどのようにお考えになりますか?」
- 選ぶ理由・意図: 相手の報告や分析をまずは肯定し、同意できる部分を示すことで、相手の主張全体を否定する意図ではないことを伝えます。その上で、「一つ」「〜という見方もできる」といった柔らかい表現で自分の異なる見解を提示します。最後に相手に問いかけ、対話の姿勢を示します。
- 「ご報告、拝見いたしました。分析結果、興味深いです。Aという結論、承知いたしました。ただ、私の解釈が間違っていたら恐縮なのですが、報告書にある〜(考慮されていないデータ部分)〜のデータは、〜(自分の解釈)〜と捉えることも可能でしょうか?もしそうだとすると、顧客ニーズについて少し別の側面が見えてくるようにも感じられます。」
- 選ぶ理由・意図: 謙遜(私の解釈が間違っていたら恐縮なのですが)を挟むことで、相手の専門性を尊重する姿勢を示しつつ、自分の異なる解釈を提示します。断定を避け、「〜と捉えることも可能でしょうか?」「〜感じられます」といった表現を使うことで、決めつけではなく、一つの可能性として提案します。
これらの例文はあくまで一例です。状況や相手との関係性に応じて、言葉を選び、表現を調整することが重要です。
同意できない意見へのアサーションを行う上での心構えとポイント
同意できない意見に対してアサーションを行う際には、以下の心構えとポイントを持つことで、より効果的に、かつ関係性を保ちながらコミュニケーションを進めることができます。
- 相手の意見を傾聴する: まずは相手がなぜそう考えるのか、その背景にある意図や根拠をしっかり聞く姿勢を持ちましょう。完全に理解できなくても、聞こうとする姿勢は相手に伝わります。
- 感情的にならない: 反論や異論を述べる際に、感情的になったり、語気を強めたりすると、相手も感情的に反応し、建設的な議論が難しくなります。冷静に、落ち着いたトーンで話すことを心がけましょう。
- 事実や根拠を提示する: 可能であれば、なぜ自分が同意できないのか、その理由をデータや事実に基づいて説明しましょう。主観だけでなく客観的な情報を加えることで、意見の妥当性が高まります。
- 「私」を主語にした表現を使う(Iメッセージ): 「あなたの意見は間違っている」と相手を主語にすると、攻撃的な印象を与えます。「私はこのように考えます」「私の懸念は〇〇です」のように、「私」を主語にすることで、自分の考えや感情の表明として伝わりやすくなります。
- 相手の人格や意見全体を否定しない: 同意できないのは特定の意見や考え方についてであり、相手の人格や、その人の他の意見全てを否定するわけではないことを明確にしましょう。「〇〇さんのA案について、△△という点では異なる見方があります」のように、具体的にどの点について意見が異なるのかを伝えます。
- 代替案や解決策を提示する: 単に否定するだけでなく、「〜という理由で同意しかねるのですが、代案として〜はいかがでしょうか?」「〜という懸念があるので、〇〇のような対策も合わせて検討しませんか?」のように、建設的な提案を加えることで、議論を前向きに進めることができます。
- タイミングと場所に配慮する: 相手の意見表明が終わった直後や、場が混乱している最中など、意見を述べるのに適切なタイミングを選びましょう。また、可能であれば、他の人が大勢いる場ではなく、1対1や少人数の場で話す方が、お互い落ち着いて話せる場合もあります。
建設的なアサーションのための具体的な練習方法
同意できない意見に対して、これらのポイントを踏まえて適切にアサーションを行うには練習が必要です。一人でも、あるいは協力者と一緒でも取り組める練習方法をいくつかご紹介します。
1. 過去の状況を振り返り、理想の表現を考えてみる
過去に「あの時、こう言いたかったのに言えなかった」という経験はありませんか?そうした状況を具体的に思い出し、以下のステップで振り返ってみましょう。
- 状況を正確に描写する: いつ、誰と、どのような会話で、相手はどのような意見を言ったのかを具体的に書き出します。感情的な評価を入れず、事実だけを描写します。
- 自分の気持ちや考えを明確にする: その時、自分はどのように感じたのか、なぜ相手の意見に同意できなかったのか、自分はどのように考えていたのかを正直に言葉にしてみます。「私は〜と感じた」「私は〜と考えた」のようにIメッセージを使う練習をしましょう。
- 理想のアサーション表現を考える: 相手を尊重しつつ、自分の気持ちや考えを誠実に伝えるには、どのような言葉を選べばよかったかを考えます。上記の例文なども参考にしながら、いくつかパターンを考えてみましょう。
- 声に出して練習する: 考えた表現を、実際の会話のスピードで声に出して言ってみます。スムーズに言えるまで繰り返すことで、いざという時に言葉が出てきやすくなります。
2. 小さな意見の違いから伝える練習を始める
いきなり重要なビジネスシーンで反対意見を言うのはハードルが高いかもしれません。まずは日常生活や重要度の低い場面で、小さな意見の違いを伝える練習から始めてみましょう。
- ランチの場所について「A店も良いですが、B店の方が最近気になっているんです。」
- 休憩時間の過ごし方について「皆さんで雑談するのも楽しいですが、私は少し静かに本を読みたいです。」
- テレビ番組について「〇〇さんも面白いとおっしゃるんですね。私は△△の方が好みなんですが、〇〇さんも見てるんですね!」
このように、相手の意見を一旦受け止めたり、同意できる点に触れたりしながら、「私は違う」「私はこうしたい」を伝える練習を積み重ねます。
3. ロールプレイングで実践練習をする
信頼できる同僚や友人、家族などに協力してもらい、ロールプレイング形式で練習するのも効果的です。
- 具体的なビジネスシーン(会議、打ち合わせ、報告時など)を設定します。
- 相手役に、あなたが同意できないであろう意見や主張を言ってもらいます。
- あなたは、その意見に対してアサーションで応答します。
- 練習後、相手からフィードバックをもらいます。「どのように聞こえたか」「もっとこうした方が伝わりやすいか」などを聞き、改善点を見つけます。
4. 使う表現のテンプレートを準備する
「相手の意見を一旦受け止める+クッション言葉+自分の意見(Iメッセージ)+根拠(事実/経験)+提案/問いかけ」といった構成で、いくつかの汎用的な表現をテンプレートとして持っておくと便利です。
例: * 「〇〇さんの意見、理解いたしました。ありがとうございます。ただ、〜という点について、私は少し異なる見方があります。それは〜という理由からです。いかがでしょうか?」 * 「〜についてのご提案、承知いたしました。大変参考になるのですが、懸念点が一つございます。もし〜の場合、〇〇という問題が起きる可能性はないでしょうか?私の考えでは、〜する方がより安全かと存じます。」
これらのテンプレートを状況に合わせてカスタマイズして使う練習をすることで、自然に言葉が出てくるようになります。
まとめ:建設的なアサーションで、より良い関係と成果を
相手の意見に同意できない時に、何も言わずに我慢してしまうことは、短期的な波風は避けられるかもしれませんが、長期的には誤解や不満を生み、建設的な関係や成果を阻害する可能性があります。
アサーションは、相手を尊重しながらも自分の考えや立場を誠実に伝えるための強力なツールです。「それは違う」と直接的に言うのではなく、「私はこう考えます」「少し異なる見方があります」といった表現を使うことで、相手を否定することなく、対等な立場で意見交換ができます。
今回ご紹介した表現例や練習方法を活用し、ビジネスシーンで遭遇する「意見の相違」の場面で、ぜひアサーションを実践してみてください。最初は難しく感じるかもしれませんが、小さな一歩から始め、練習を積み重ねることで、きっと自信を持って自分の考えを伝えられるようになるはずです。それが、より良い人間関係を築き、仕事で質の高い成果を出すことにつながるでしょう。皆さまのコミュニケーションが、より豊かで実りあるものとなることを願っています。