評価面談や報告会で成果を適切に伝えるアサーション
成果を伝える難しさ:自己評価に悩むビジネスパーソンへ
ビジネスの現場で成果を出すことは非常に重要ですが、それと同じくらい、あるいはそれ以上に難しいと感じる方が多いのが、「自身の成果や貢献を適切に伝える」ことではないでしょうか。特に、謙遜が美徳とされる文化の中で育った場合、自分の働きや成果を積極的に話すことに抵抗を感じたり、どう伝えれば良いか分からず、結局十分に評価されないまま終わってしまったりすることがあります。
評価面談やプロジェクトの報告会など、自身の貢献を伝えるべき場面で言葉に詰まったり、「いや、自分の力だけではありませんから」と控えめになりすぎたり。その結果、正当な評価を得られず、モチベーションの低下につながることもあります。
しかし、成果を適切に伝えることは、単なる自己アピールではなく、自己の成長を促し、周囲からの信頼を得るための重要なコミュニケーションスキルです。ここで役立つのが「アサーション」の考え方です。
成果伝達におけるアサーションとは
アサーションとは、相手を尊重しつつ、自分の考えや感情、要求を正直かつ率直に、そして適切な方法で伝えるコミュニケーションスキルです。成果を伝える場面におけるアサーションは、単に自分の手柄をひけらかすことではありません。
それは、事実に基づき、客観的な情報(データや具体的な行動)を用いて、自身の貢献や役割を誠実に伝えることを意味します。同時に、プロジェクトに関わった他のメンバーへの感謝や、学びとして次にどう活かすかといった視点も含めることで、周囲との協力関係や信頼を損なうことなく、自身の働きを正しく認識してもらうことを目指します。
成果を適切に伝えるアサーションは、以下のような点で重要です。
- 正当な評価を得る: 自身の貢献が正しく伝わることで、適切な評価やフィードバックにつながります。
- 自己肯定感の向上: 自身の働きを言語化し伝えることで、自信を持って仕事に取り組めるようになります。
- 周囲からの信頼構築: 事実に基づいた誠実な報告は、プロフェッショナルとしての信頼感を高めます。
- キャリア形成: 自身のスキルや実績を明確にすることで、新たな機会を得やすくなります。
なぜ成果を伝えるのが難しいのか?よくある課題
成果を伝えることに苦手意識を持つ背景には、いくつかの理由があります。
- 謙遜の文化: 幼い頃からの教育や社会的な慣習により、「自慢してはいけない」「控えめであるべき」といった価値観が根付いている。
- 評価への不安: 自分の成果が十分ではないのではないか、伝えることで否定されるのではないかといった恐れ。
- 伝え方を知らない: 具体的にどういった言葉を選び、どのような構成で話せば効果的に伝わるのかを知らない。
- 客観的な視点の欠如: 自身の貢献度を客観的に把握できておらず、何から話せば良いか分からない。
- ネガティブな経験: 過去に自己アピールした際に上手くいかなかった経験がある。
これらの課題は、アサーションのスキルを学ぶことで克服することが可能です。
成果を伝えるアサーションの具体的なポイント
成果を伝える際に意識したいアサーションの基本的なポイントをいくつかご紹介します。
- 事実に基づいた具体的な描写: 抽象的な表現ではなく、「〇〇のプロジェクトで、××の施策を行った結果、△△という数値改善(例: 売上10%向上、業務時間20%削減)を達成しました」のように、具体的な行動と客観的な結果を結びつけて話します。
- 主語を「私」にする (Iメッセージ): 「チームが成功しました」だけでなく、「私は〇〇の役割を担い、具体的に△△に取り組みました」のように、自身の貢献を「私」を主語にして明確に伝えます。これは単なる自己主張ではなく、自身の行動と結果に責任を持つ姿勢を示すことにもつながります。
- 貢献度を明確にする: 自身の働きがチームや会社全体にどのように貢献したのか(例: コスト削減、効率向上、顧客満足度向上など)を具体的に示します。
- 協力者への感謝を伝える: チームメンバーや関係部署の協力があってこそ達成できた成果である場合は、そのことへの感謝を丁寧に伝えます。「〇〇さんの協力があったからこそ、この成果を出すことができました。感謝しています。」といった言葉を添えることで、謙虚さとチームワークを重んじる姿勢を示すことができます。
- 今後の展望や学びを結びつける: 達成した成果から何を学び、今後どのように活かしていくのかを伝えることで、単なる過去の報告に留まらず、成長意欲と将来への貢献姿勢を示すことができます。
具体的な場面別アサーション表現例
ここでは、評価面談や報告会といった具体的な場面を想定し、成果を伝えるアサーション表現の例文とそのポイントをご紹介します。
場面1:評価面談(自己評価や面談時)
自己評価シートへの記入や、上司との面談で自身の成果を伝える場面です。
例文:
「はい、今期は特に〇〇プロジェクトに注力いたしました。私の担当であった△△機能の開発においては、既存のプロセスを見直し、ツールを活用することで、開発期間を当初予定より15%短縮することができました。これは、協力いただいたエンジニアチームの皆さんの迅速な対応と、事前にしっかりと仕様を詰められたことが大きかったと考えております。この経験を通じて、事前の計画段階でのリスク洗い出しの重要性を改めて学びました。今後は、この知見を他のプロジェクトでも活かし、全体の効率向上に貢献してまいりたいと考えております。」
解説:
- 事実と具体性: 「〇〇プロジェクト」「△△機能の開発」「開発期間15%短縮」といった具体的な情報を含んでいます。
- 自身の役割と行動: 「私の担当であった」「既存プロセスを見直し、ツールを活用」と、自身の行動を明確にしています。
- 貢献の示唆: 開発期間の短縮が、全体の効率向上に貢献したことを示唆しています。
- 感謝: 「協力いただいたエンジニアチームの皆さん」への感謝を伝えています。
- 学びと展望: 「リスク洗い出しの重要性を学んだ」「他のプロジェクトでも活かし、貢献したい」と、成長意欲と今後の貢献姿勢を示しています。
- Iメッセージ: 主語は「私」ではありませんが、「私の担当であった」「考えております」「学んできました」「貢献してまいりたい」といった表現で、自身の考えや意志を伝えています。
場面2:プロジェクト報告会(全体に向けて)
チームやプロジェクト全体の成果報告の中で、自身の担当部分について触れる場面です。
例文:
「続きまして、私が担当いたしましたマーケティング戦略の実行フェーズについてご報告いたします。特に注力したSNS広告運用では、A/Bテストを繰り返し実施し、クリエイティブとターゲティングを最適化した結果、コンバージョン率を前期比で20%向上させることができました。これにより、新規顧客獲得コストの削減に貢献できたと考えております。これは、データ分析を担当してくれた〇〇さんとの密な連携なくしては達成できませんでした。感謝しております。」
解説:
- 自身の担当を明確に: 「私が担当いたしました」と役割を示しています。
- 具体的な行動と結果: 「A/Bテストを繰り返し実施」「コンバージョン率20%向上」と具体的なアクションと成果を提示しています。
- 組織への貢献: 「新規顧客獲得コストの削減に貢献」と、自身の成果が組織全体の目標にどう寄与したかを伝えています。
- 協力者への感謝: 関係者への感謝を具体的に述べています。
場面3:上司への日常的な報告・共有
日々の業務報告や進捗共有の中で、小さな成果や工夫について伝える場面です。
例文:
「〇〇部長、ご報告です。先日ご相談させていただいた資料作成ツールですが、導入後1週間で、同じ内容の資料作成にかかる時間が約30分短縮されました。簡単なツールの使い方マニュアルも作成し、チーム内で共有済みです。他のメンバーからも好評を得ています。」
解説:
- 簡潔かつ具体的: 何を改善し、どのような結果が出たかを短くまとめています。
- 数値での効果: 「約30分短縮」と具体的な効果を示しています。
- 横展開の示唆: 「チーム内で共有済み」「他のメンバーからも好評」と、単なる自身の成果だけでなく、組織への貢献につながっていることを示唆しています。
成果を伝えるアサーションスキルを向上させるための練習方法
成果を適切に伝えるスキルは、すぐに身につくものではありません。意識的に練習を重ねることが重要です。
-
成果の「見える化」と棚卸し:
- 定期的に(週ごとやプロジェクト終了時など)、自分が何に取り組み、どのような結果や学びが得られたかを具体的に書き出してみましょう。数値データや具体的な行動に焦点を当てることが大切です。
- これは自己評価シートの準備にも役立ちますし、自身の貢献を客観的に捉える習慣が身につきます。
-
伝える内容の構成を考える:
- 「成果を伝えるアサーションの具体的なポイント」で挙げた要素(事実、Iメッセージ、貢献、感謝、学び/展望)を意識して、話す内容の構成を事前に考えてみましょう。
- 箇条書きでも良いので、話す順番や盛り込むべき要素を整理します。
-
声に出して練習する(独り言、またはロールプレイング):
- 作成した構成案をもとに、実際に声に出して話す練習をします。スムーズに話せるか、不自然な表現はないかを確認します。
- 可能であれば、信頼できる同僚や友人に聞き役をお願いし、フィードバックをもらうロールプレイングは非常に効果的です。難しい場合は、スマートフォンなどで録音して聞いてみるのも良いでしょう。
-
小さな成果から伝える練習を始める:
- 大きな成果だけでなく、日々の業務で見つけた小さな改善点や、工夫して効率化できたことなど、ハードルの低いことから上司や同僚に伝える練習を始めましょう。
- 成功体験を積み重ねることで、自信を持って大きな成果も伝えられるようになります。
-
他者の良い例を参考にする:
- 社内で成果報告が上手な人の話し方や資料を参考にしてみましょう。どのような言葉を選び、どのように構成しているのかを分析することで、自身の表現力を磨くヒントが得られます。
まとめ:誠実な成果伝達が、あなたと組織の成長を促す
自身の成果を適切に伝えるアサーションは、単に個人の評価を高めるだけでなく、組織全体の透明性を高め、チームの成功を共有し、協力関係を深める上でも重要なスキルです。
自己表現が苦手だと感じている方も、事実に基づき、誠実に伝えることを心がけるアサーションの考え方を実践することで、きっと自身の働きを適切に伝えられるようになります。
今日から小さな一歩を踏み出してみませんか。あなたの貢献は、あなたが適切に伝えることで、さらに価値を増すはずです。