急な依頼に慌てない!アサーションで冷静に対応し、業務を円滑に進める方法
急な依頼や割り込みタスクに、つい「はい」と答えていませんか?
ビジネスの現場では、予期せぬ急な依頼や、進行中の業務に割り込んでくるタスクが発生することが少なくありません。チームメンバーや上司からの急ぎの確認、顧客からの突発的な要望など、その種類は多岐にわたります。
こうした状況で、「断ったら悪いのではないか」「対応しないと評価が下がるのではないか」といった考えから、つい反射的に「はい、対応します」と答えてしまい、結果として自分の抱えている業務が滞ってしまったり、納期に間に合わなくなったり、あるいは残業が増えて疲弊してしまったり…といった経験をお持ちの方もいらっしゃるのではないでしょうか。
真面目で仕事熱心な方ほど、依頼を断ることに罪悪感を感じ、抱え込んでしまいがちです。しかし、安易に引き受けることは、ご自身の業務の質を下げるだけでなく、周囲からの信頼を損なう可能性も否定できません。
このような時に役立つのが、「アサーション」というコミュニケーションスキルです。アサーションを用いることで、相手を尊重しつつ、ご自身の状況や意見を正直かつ適切に伝えることができるようになります。
この記事では、急な依頼や割り込みタスクが発生した際に、アサーションを用いて冷静に対応し、ご自身の業務も円滑に進めるための具体的な表現方法と練習法をご紹介いたします。
アサーションとは何か?なぜ急な依頼対応に必要なのか?
アサーションとは、「自分も相手も大切にする自己表現」と定義されるコミュニケーションスキルです。攻撃的に自分の意見を押し通す「攻撃的な自己表現」でもなく、自分の気持ちや状況を押し殺して相手に合わせてしまう「非主張的な自己表現」でもありません。相手の立場や気持ちを尊重しつつ、ご自身の考え、感情、要求、権利を正直かつ率直に表現することを指します。
急な依頼や割り込みタスクに対してアサーションが必要な理由は、以下の通りです。
- 正確な状況共有のため: ご自身の現在の業務状況や、依頼されたタスクにどの程度時間がかかるかを正直に伝えることで、相手は状況を正しく理解し、その後の計画や判断に役立てることができます。
- 期待値の調整のため: 安易に引き受けて後から「できませんでした」となるよりも、最初に現実的な対応可否や所要時間、必要な調整などを伝えることで、お互いの期待値を適切に調整できます。
- 業務効率の維持のため: ご自身のキャパシティを超えて依頼を引き受け続けると、本来の業務に支障が出ます。アサーションによって、自身の業務負荷を管理し、全体の効率を維持することができます。
- 信頼関係の構築のため: 曖昧な返答や、できないのに引き受けてしまうことは、かえって相手に不信感を与えかねません。誠実に状況を伝える姿勢は、長期的な信頼関係の構築につながります。
急な依頼・割り込みタスクに使えるアサーション表現(ビジネスシーン別例文)
ここでは、ビジネスシーンでよくある急な依頼や割り込みタスクの場面を想定し、具体的なアサーション表現の例文と、その意図をご紹介します。
場面1:比較的簡単な依頼だが、現在の作業をすぐに中断できない場合
(例:資料の軽微な修正依頼、簡単な調査依頼など)
例文: 「〇〇さん、ご依頼ありがとうございます。承知いたしました。ただいま△△の作業を進めておりまして、あと15分ほどで一段落する見込みです。その作業が終わり次第、ご依頼いただいた件に着手いたしますので、恐れ入りますが少々お待ちいただけますでしょうか。」
この表現を選ぶ理由・意図: * まず依頼を受けたことへの感謝と理解を示します。 * すぐに着手できない理由(現在の作業)を具体的に伝えます。 * いつ頃着手可能か、具体的な時間や目安を示すことで、相手に待ち時間を伝えることができます。 * 一方的に断るのではなく、対応する意思があることを明確に伝えます。
場面2:難易度が高い、または時間がかかる依頼で、現在の業務に大きな影響が出る場合
(例:緊急ではないが工数のかかる新規分析、期日が近いプロジェクトへの追加タスクなど)
例文1: 「ご依頼ありがとうございます。内容を拝見しました。この作業を進めるためには、現在の〇〇プロジェクトのタスクを一時中断する必要が出てまいります。現在の私の業務状況をご説明させていただいてもよろしいでしょうか?」
この表現を選ぶ理由・意図: * まずは依頼内容を確認し、感謝を示します。 * 安易に引き受ける前に、現在の業務状況と依頼タスクの関連性について、影響が出る可能性を提示します。 * 一方的に判断せず、「状況をご説明しても良いか」と相手に確認することで、対話の姿勢を示します。
例文2(状況説明後): 「現在の私の業務状況は以上です。この状況でご依頼いただいた△△のタスクを今週中に完了させるのは、現時点では難しい見込みです。つきましては、ご相談なのですが、期日を来週頭まで延ばしていただくか、あるいは他のメンバーに一部タスクを分担していただくことは可能でしょうか。」
この表現を選ぶ理由・意図: * 現状を踏まえて、依頼された期日での完了が難しいことを正直に伝えます(「〜は難しい見込みです」という穏やかな表現)。 * 「できません」と突き放すのではなく、「ご相談なのですが」と切り出し、代替案や調整案を具体的に提示します。これにより、問題解決への協力姿勢を示すことができます。 * 「〜していただけませんか?」というYouメッセージではなく、「〜することは難しい見込みです」のように、主語を自分にしたIメッセージで伝えています。
場面3:依頼内容が不明確で、そのままでは着手できない場合
(例:指示が曖昧な調査、目的が不明な資料作成依頼など)
例文: 「〇〇さん、ご依頼ありがとうございます。恐れ入ります、こちらの△△に関する調査について、具体的にどのような情報が必要でしょうか?また、その情報は何にご活用されるご予定でしょうか?差し支えなければ、目的を教えていただけますと、より的確に対応できるかと存じます。」
この表現を選ぶ理由・意図: * 依頼を受けたことへの感謝を示しつつ、不明確な点を具体的に質問します。 * 質問の意図として、「目的を教えていただけると、より的確に対応できる」というポジティブな理由を添えることで、相手も説明しやすくなります。 * 曖昧なまま進めるリスクを回避し、効率的かつ正確な作業につなげることができます。
急な依頼にアサーションで応じるための心構えとポイント
アサーションを実践する上で、以下の心構えやポイントを意識することが重要です。
- 即答する必要はない: 急な依頼に対し、すぐに「はい」「いいえ」を答える必要はありません。「内容を確認させてください」「一度スケジュールを見てお返事します」といった返答も立派なアサーションです。考える時間を持つことで、冷静に状況を判断できます。
- 事実に基づいて伝える: 感情的にならず、現在の業務負荷、それぞれのタスクにかかる時間、締め切りなどの客観的な事実を伝えます。
- 「私(Iメッセージ)」で伝える: 「あなたの依頼は私の業務を圧迫する」ではなく、「この依頼に今すぐ着手すると、私の現在の〇〇という業務に遅れが生じる可能性があります」のように、主語を「私」にして、ご自身の状況や感情、考えを伝えます。
- 相手への配慮を忘れない: 依頼してくれたことへの感謝や、「お力になりたい気持ちはあるが、現状難しい」といった相手への配慮を言葉に添えることで、関係性を良好に保ちやすくなります。
- 代替案や妥協案を提示する: 一方的に断るのではなく、「いつなら可能か」「誰か他の人に頼むことは可能か」「一部だけ対応するか」など、可能な範囲での代替案や妥協案を提示することで、共に解決策を探る姿勢を示すことができます。
アサーションスキルを向上させるための練習方法
急な依頼に対して適切にアサーションを行うスキルは、日々の練習によって身につけることができます。一人でも取り組める具体的な練習方法をご紹介します。
ステップ1:自己分析と状況の棚卸し
- 自分がどのような場面で依頼を断れず抱え込んでしまうかを振り返ります。具体的な状況(誰からの依頼か、どのような内容か、その時の自分の業務状況はどうか)を書き出してみましょう。
- 現在の自分の業務負荷や、それぞれのタスクにかかるおおよその時間を把握しておきます。これにより、急な依頼が来た際に「この依頼を受けると、他のどのタスクに影響が出るか」を具体的に判断できるようになります。
ステップ2:想定シナリオでのアサーション表現の練習
- ステップ1で書き出した、断れずに困った具体的な状況を想定シナリオとして準備します。
- そのシナリオに対し、今回学んだアサーションのポイント(事実を伝える、Iメッセージ、代替案提示など)を踏まえ、どのような言葉で応答するかを書き出してみましょう。
- 声に出して読んでみることで、より実践的な練習になります。スムーズに言えるようになるまで繰り返してみましょう。
ステップ3:スモールステップでの実践
- いきなり重要な場面で難しいアサーションに挑戦するのではなく、日常生活やビジネスの比較的簡単な場面からアサーションを試してみましょう。
- 例:「〜について確認しても良いですか?」(不明点の質問)
- 例:「〇〇は〜という理解で合っていますか?」(指示の確認)
- 例:「恐れ入りますが、〜していただけますか?」(丁寧な依頼)
- こうした小さな成功体験を積み重ねることで、自信を持ってより難しい場面でのアサーションに挑戦できるようになります。
ステップ4:振り返りと改善
- アサーションを実践した後、どのように感じたか、相手の反応はどうだったかを振り返ります。
- うまくいかなかった場合は、どのような表現ならより適切だったか、どのような状況説明が不足していたかなどを分析し、次の実践に活かします。
まとめ:アサーションで、あなたらしい働き方を守りましょう
急な依頼や割り込みタスクに適切に対応することは、単に業務を断ることではありません。ご自身のキャパシティを正直に伝え、優先順位を明確にし、必要であれば調整や協力をお願いすることは、プロフェッショナルな対応の一つです。それは結果として、ご自身のパフォーマンスを維持し、より質の高い仕事を提供することにつながります。
アサーションは練習すれば誰でも身につけられるスキルです。今日から、まずは小さな一歩として、不明確な点を質問することや、「一度確認します」と答えることから始めてみてはいかがでしょうか。
あなたらしい働き方を守り、ビジネスシーンでのコミュニケーションをより円滑に進めるために、ぜひアサーションを役立ててください。