不明確な指示で困らない!アサーションで誤解を防ぐ確認・質問法
不明確な指示、どうしていますか?
日々の業務において、上司や顧客、あるいは他部署から受け取る指示や依頼が、常に明確であるとは限りません。期日、範囲、目的、優先順位など、様々な点が曖昧なままでは、作業を進める上で不安を感じたり、手戻りが発生したり、最悪の場合は大きな誤解が生じ、プロジェクト全体の遅延につながる可能性もあります。
「質問しても迷惑かな」「自分で判断した方が早いだろうか」と考えてしまい、不明確な点をそのままにしてしまう方もいらっしゃるのではないでしょうか。特に自己表現が苦手だと感じる方にとっては、分からないことを質問する行為自体が心理的なハードルになることもあります。
しかし、不明確な点を曖昧なままにしておくことは、自分自身だけでなく、相手やチーム全体にも影響を及ぼします。ここで役立つのが「アサーション」のスキルです。アサーションを用いることで、相手を尊重しつつ、不明確な点を解消し、円滑に業務を進めることができるようになります。
この記事では、不明確な指示に対するアサーションを用いた確認・質問の方法について、具体的なビジネスシーンを想定した例文を交えながら解説し、さらにそのスキルを磨くための練習方法をご紹介します。
アサーションとは?なぜ不明確な指示に有効なのか?
アサーションとは、相手の権利や感情を尊重しつつ、自分の意見、感情、要求、信念などを正直かつ率直に表現するコミュニケーションスキルです。単に自分の意見を押し通す「攻撃的」な表現とも、自分の気持ちを抑え込む「非主張的」な表現とも異なります。
不明確な指示に対してアサーションが有効な理由は以下の通りです。
- 誤解の防止: 曖昧な点を具体的に確認することで、指示内容の誤った解釈を防ぎ、手戻りや無駄な作業を回避できます。
- 効率の向上: 疑問を速やかに解消することで、自信を持って作業を進められ、全体の作業効率が向上します。
- 信頼関係の構築: 分からないことを誠実に質問する姿勢は、業務に対する真剣さや責任感を示すことにつながり、相手からの信頼を得やすくなります。また、一方的に決めつけず、確認する姿勢は相手への配慮として伝わります。
- 自律性の向上: 指示の背景や目的を理解することで、単なる作業者としてではなく、自律的に考えて業務に取り組めるようになります。
具体的な場面別:アサーションによる確認・質問表現
ビジネスシーンで遭遇しやすい、不明確な指示の具体例と、それに対するアサーション表現を見ていきましょう。
場面1:指示内容の具体的な要素(期日、範囲、担当など)が曖昧な場合
上司から「あの資料、明日までにまとめておいて」と指示があったが、どの資料をどの程度まとめれば良いのか、具体的なイメージが掴めない。
アサーション表現の例:
「〇〇部長、先ほどの資料の件ですが、『あの資料』というのは、先日打ち合わせで使ったAの資料のことでしょうか? それとも、関連するBの資料も含めるべきでしょうか?」
「『明日までに』というのは、明日の午前中までにご確認いただけますよう準備、という意味でしょうか? それとも、明日の終業時間までで問題ないでしょうか?」
表現の理由・意図:
- 「〜でしょうか?」と疑問形で問いかけることで、確認したい箇所を特定しつつ、相手に回答を促しています。
- 具体的な資料名(AやB)や時間帯(午前中、終業時間)を例示することで、確認したい内容を明確に伝え、相手も具体的に答えやすくなります。
- 推測で進めるのではなく、事実に基づいた可能性(Aの資料、Bの資料)を提示し、相手に確認を求めている点がアサーション的です。
場面2:業務の背景や目的が不明確な場合
新しい業務を依頼されたが、「なぜこの業務が必要なのか」「最終的にどう活用されるのか」といった背景や目的が説明されない。
アサーション表現の例:
「△△さん、この業務の依頼ありがとうございます。より効果的に進めるために、差し支えなければ、この業務の背景や最終的な目的を少し教えていただけますでしょうか? 例えば、〜のためにこの情報が必要、といったことでしょうか?」
「この業務についてご依頼いただき、ありがとうございます。この情報を〇〇に活用されると伺っておりますが、私の理解は合っておりますでしょうか? 背景を理解することで、より的確なアウトプットができると考えております。」
表現の理由・意図:
- 「より効果的に進めるために」「背景を理解することで、より的確なアウトプットができると考えております」のように、背景や目的を知りたい理由を伝えることで、単なる好奇心ではなく、業務を真剣に進めたい意欲として伝わります。
- 「差し支えなければ」「私の理解は合っておりますでしょうか?」といった配慮のある言葉遣いを加えることで、相手にプレッシャーを与えずに質問できます。
- 自分の理解(もしあれば)を伝えることで、相手はどこから説明すれば良いかが分かりやすくなります。
場面3:複数の指示があり、優先順位が不明確な場合
複数のタスクを抱えている状況で、新たに別のタスクを依頼されたが、どれを優先すべきか判断できない。
アサーション表現の例:
「課長、新しい〇〇の件、承知いたしました。ありがとうございます。現在、私はAとBの業務も並行して進めており、それぞれ〇日まで、△日までに完了させる予定でおります。今回の〇〇の件は、これらの業務と比較して、優先順位はどのようになりますでしょうか?」
「〇〇さん、ご依頼いただいた件について確認させてください。現在、他に2件のタスクを進行中であり、それぞれ期日が迫っております。今回の件について、特に急ぎであれば、既存タスクの期日調整や担当変更を相談したいのですが、いかがでしょうか?」
表現の理由・意図:
- まず依頼への感謝や受領の意思を伝えます。
- 「現在、〜の業務を抱えており、期日は〜です」のように、自分の現在の状況(事実)を具体的に伝えます。これにより、相手はあなたの状況を理解しやすくなります。
- 「優先順位はどのようになりますでしょうか?」「既存タスクの期日調整や担当変更を相談したいのですが、いかがでしょうか?」のように、判断を丸投げするのではなく、具体的な確認項目や提案の余地(相談したい)を示すことで、協力的な姿勢を示せます。
これらの例のように、アサーションを用いた確認・質問では、「私」を主語に現状や意図を伝えつつ(Iメッセージ)、事実に基づいた情報を提供し、相手への配慮を忘れずに、不明確な点について具体的に問いかけることがポイントです。
アサーションスキルを向上させるための練習方法
不明確な指示に対する確認・質問に自信を持つためには、日頃からの練習が大切です。一人でも取り組める効果的な練習方法をご紹介します。
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スモールステップでの実践:
- まずは簡単な確認から始めてみましょう。「〇〇ということですね」と、相手の指示を復唱して確認するだけでも効果があります。
- 次に、「〜は〇〇で合っていますか?」といった簡単な質問に挑戦します。
- 徐々に、複数の選択肢を提示して確認する、背景や目的を質問するといった複雑な表現に慣れていきましょう。
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自己分析とセルフイメージの改善:
- なぜ質問することをためらってしまうのか、自分の内面を分析してみましょう(例: 失敗を恐れている、能力がないと思われるのが嫌、相手を煩わせたくない)。
- 質問は、業務を円滑に進めるために必要な建設的な行為であると認識を改め、「質問する自分」に対する肯定的なセルフイメージを持つように意識します。
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ロールプレイング:
- 同僚や信頼できる友人に協力してもらい、実際のビジネスシーンを想定したロールプレイングを行います。指示を受ける側と指示を出す側を交代で行うのも良い練習になります。
- 一人で行う場合は、想定されるシーンを紙に書き出し、様々なアサーション表現を声に出して練習します。自分の声を聞くことで、話し方やトーンを客観的に確認できます。
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「I(私)メッセージ」と「事実描写」の練習:
- 自分の感情や状況を伝える際に、「〜という状況なので、私は〇〇だと感じています」「〜という事実に基づき、私は〜と考えます」のように、「私」を主語にして話す練習をします。
- 状況を説明する際に、憶測や感情を交えず、「〇月〇日〇時に、〜という指示をいただきました」のように、客観的な事実のみを描写する練習をします。
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良かった点を記録する:
- アサーションを使って確認や質問がうまくできた経験を記録しておきましょう。「いつ、誰に、どのような状況で、どのように伝えたか、その結果どうなったか」を書き出すことで、成功体験が自信につながります。
これらの練習を継続することで、自然とアサーションを用いた確認・質問ができるようになり、不明確な指示に対する不安を減らすことができるでしょう。
不明確な指示へのアサーション:心構えとポイント
- 完璧を目指さない: 最初から完璧なアサーションをしようと思う必要はありません。まずは、一つずつでも不明確な点を解消する行動をとることから始めましょう。
- 相手への敬意を忘れない: 確認や質問は、あくまで業務を円滑に進めるためのコミュニケーションです。相手の発言を否定するのではなく、理解を深めようとする姿勢で臨むことが大切です。
- 早めの行動: 不明確な点に気づいたら、時間が経つほど確認しづらくなることがあります。可能な限り早めに、適切なタイミングで確認・質問を行いましょう。
- 「分からない」を罪悪感につなげない: 分からないことがあるのは自然なことです。それを放置する方が問題につながりやすいという認識を持ちましょう。
まとめ
不明確な指示は、業務を滞らせ、無用なストレスを生み出す要因となります。しかし、アサーションスキルを活用することで、相手との信頼関係を保ちながら、不明確な点を効果的に解消することができます。
この記事でご紹介した具体的な表現例や練習方法を参考に、ぜひ日々の業務でアサーションを実践してみてください。最初は少し勇気が必要かもしれませんが、一歩踏み出すことで、より円滑で質の高いコミュニケーションが実現し、業務効率の向上や、自分自身の自信にも繋がっていくはずです。
不明確な指示を恐れず、アサーションで乗り越え、よりスムーズなビジネスコミュニケーションを目指しましょう。