アサーションで変わる!部下・同僚への効果的なフィードバック術
ビジネスにおけるフィードバックの重要性と難しさ
ビジネスシーンでは、部下や同僚の成長を促し、チーム全体のパフォーマンスを向上させるためにフィードバックが不可欠です。しかし、「相手を傷つけてしまうのではないか」「関係が悪化したらどうしよう」といった懸念から、伝えたいことを十分に伝えられなかったり、逆にきつい言い方になってしまったりと、フィードバックの伝え方に難しさを感じている方も多いのではないでしょうか。
特に、日頃から自己表現に苦手意識を持つ方にとって、相手に改善を求めるフィードバックは大きな心理的なハードルとなり得ます。フィードバックは、単に問題点を指摘するだけでなく、相手の行動変容を促し、ポジティブな結果につなげるための重要なコミュニケーションです。そのためには、相手を尊重しつつ、自分の意見や期待を誠実に伝えるアサーションのスキルが役立ちます。
フィードバックにおけるアサーションの役割
アサーションとは、相手の権利や感情を尊重しながら、自分の気持ち、考え、要求を正直かつ率直に表現するコミュニケーションスキルです。一方的な自己主張や、相手に遠慮しすぎる受け身な態度とは異なります。
フィードバックの場面でアサーションを活用すると、以下の点が実現しやすくなります。
- 相手の受け入れやすさ: 攻撃的にならず、相手の人格を否定しない伝え方であるため、相手が耳を傾けやすくなります。
- 意図の明確化: 何を改善してほしいのか、なぜそう伝えるのかといった意図が明確に伝わります。
- 信頼関係の維持・向上: 相手への配慮と誠実な姿勢を示すことで、信頼関係を損なうことなく、むしろ強化することができます。
- 具体的な改善行動への繋がり: 問題点だけでなく、期待や改善策を具体的に伝えることで、相手が次に取るべき行動が明確になります。
建設的なフィードバックのためのアサーション表現例
ここでは、ビジネスの具体的な場面を想定し、アサーションを活用したフィードバックの表現例をご紹介します。フィードバックの構成としてよく用いられる「DESC法」の要素(Describe: 状況描写, Express: 感情・意見表明, Specify: 具体的な提案, Consequence: 結果・影響)を意識すると、論理的に伝えやすくなります。
場面1:期限に遅れることが多い部下へのフィードバック
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避けるべき伝え方(非アサーティブ・攻撃的):
- 「また遅れてるね。大丈夫?」(遠回しすぎて伝わらない)
- 「何度言ったら分かるんだ。いつも遅刻ばかりで困る!」(攻撃的で相手を委縮させる)
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アサーティブな伝え方:
- (D)状況描写: 「〇〇さん、先日のAプロジェクトの報告書、提出が予定していた期日から2日遅れましたね。その前のBタスクも同様でした。」(具体的な事実を淡々と伝える)
- (E)感情・意見表明: 「期日通りに進捗を把握できないと、後続の工程に影響が出ないか、私としては少し心配になります。」(主語を「私」にして、感情や懸念を誠実に伝える)
- (S)具体的な提案: 「もし期日までに完了が難しい場合は、事前に相談してもらえませんか。そうすれば、一緒に調整したり、必要なサポートを検討したりできます。」(具体的な代替行動を提案する)
- (C)結果・影響: 「期日管理ができると、プロジェクト全体の進捗がスムーズになり、〇〇さんの仕事の信頼性もさらに高まります。」(改善によるポジティブな結果を伝える)
場面2:チーム内で情報共有が不足している同僚へのフィードバック
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避けるべき伝え方:
- 「全然情報回ってこないんだけど。」(非難めいた言い方)
- 「もっとちゃんと情報共有してください。」(指示命令で原因が伝わりにくい)
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アサーティブな伝え方:
- (D)状況描写: 「先日、クライアントへの提案内容についてAさんと話していた際に、△△さんが既に別の資料を作成していることを知りました。」
- (E)感情・意見表明: 「事前に情報共有があれば、二重作業を防げたかもしれないと感じました。情報共有のスピードや範囲について、もう少し連携できるとありがたいです。」
- (S)具体的な提案: 「今後、新しい資料作成や重要な情報については、まずチームのチャットで概要を共有する、または週次のミーティングで簡単に状況を共有する、といったルールを設けるのはどうでしょうか。」
- (C)結果・影響: 「そうすることで、チーム全体の情報格差がなくなり、より効率的に、質の高い仕事ができるようになるかと思います。」
場面3:成果は出ているが、メンバーへの指示が厳しい部下へのフィードバック
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避けるべき伝え方:
- 「言い方がキツいって他の人から言われてるよ。」(他人からの伝聞で責任を回避)
- 「もっと優しく話せないの?」(曖昧で具体的な改善策が見えない)
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アサーティブな伝え方:
- (D)状況描写: 「〇〇さんはいつも目標達成に向けて熱心に取り組んでくれていて素晴らしいと思います。ただ、先日の□□さんへの指示の際に、『なんでこんなこともできないんだ』といった強い言葉を使っているのを耳にしました。」(ポジティブな点も認めつつ、具体的な言動を挙げる)
- (E)感情・意見表明: 「目標達成への真剣さは理解できるのですが、そういった表現は聞いている側が委縮したり、否定されたように感じたりする可能性があると感じます。」(主観的な感情や懸念を伝える)
- (S)具体的な提案: 「指示や期待を伝える際に、相手の状況を一度確認してみる、または『〜してもらえると助かります』といった依頼形の表現を使ってみるなど、少し伝え方を調整してみることを意識してもらえませんか。」(具体的な行動の選択肢を示す)
- (C)結果・影響: 「そうすることで、△△さんの真剣さがよりポジティブに伝わり、チームメンバーも安心して協力しやすくなると思います。結果として、チーム全体のパフォーマンスもさらに向上するはずです。」(改善のメリットを伝える)
アサーションを活用したフィードバックのための練習方法
アサーションは練習によって必ず向上するスキルです。一人でも、あるいは信頼できる相手とでも取り組める練習方法をご紹介します。
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DESCの要素を書き出してみる: フィードバックしたい状況を思い浮かべ、DESCの各項目について紙やデジタルツールに書き出してみましょう。「事実として何が起きたか?」「それについて自分はどう感じているか?」「相手にどうしてほしいか?」「それが実現するとどうなるか?」を整理することで、冷静かつ論理的に伝える準備ができます。
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声に出して練習する(一人ロールプレイング): 書き出した内容をもとに、実際に声に出して言ってみましょう。鏡を見ながら、あるいはスマートフォンなどで録音しながら行うと、自分の声のトーンや表情、話し方を確認できます。ぎこちなさがなくなるまで繰り返してみてください。
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信頼できる相手と練習する(ペアワーク): 職場の同僚や友人など、信頼できる相手に協力をお願いし、ロールプレイング形式で練習します。聞き役になってもらい、フィードバックが分かりやすかったか、攻撃的に聞こえなかったか、といった点を率直にフィードバックしてもらいましょう。
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小さな成功体験を積み重ねる(スモールステップ): いきなり難しいフィードバックに挑戦する必要はありません。まずは、感謝を伝える(例:「〇〇さん、先日の資料作成を手伝ってくれてありがとう。とても助かりました。」)や、簡単な依頼をする(例:「この書類、シュレッダーにかけてもらえるとありがたいです。」)など、比較的伝えやすい場面でアサーションを意識して実践してみましょう。小さな成功体験が自信につながります。
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自己分析と振り返り: フィードバックを行った後、うまくいった点、難しかった点を振り返りましょう。「この伝え方はスムーズだった」「この時は少し感情的になってしまったかもしれない」など、客観的に分析することで、次に活かすことができます。
フィードバックを成功させるアサーションの心構え
- 目的意識を持つ: 何のためにこのフィードバックをするのか(成長支援、問題解決、関係改善など)、その目的を常に意識しましょう。
- 事実にフォーカスする: 相手の人格や能力ではなく、具体的な行動や状況についてフィードバックします。「あなたはいつもだらしない」ではなく「今日のミーティングに10分遅刻しました」のように、客観的な事実に焦点を当てましょう。
- 「私」を主語にする (Iメッセージ): 「あなたは〇〇すべきだ」ではなく、「私は〇〇だと感じます」「私は〇〇してほしいと思っています」のように、主語を「私」にすることで、一方的な非難ではなく、自分の正直な気持ちや考えとして伝わります。
- 相手の反応も大切にする: フィードバックは一方的に伝えるだけでなく、相手がどう受け止めたか、何か意見や状況があるかを聞く対話の機会でもあります。相手の言葉にもしっかりと耳を傾けましょう。
まとめ
部下や同僚へのフィードバックは、職場の信頼関係やチームのパフォーマンスに大きく影響します。自己表現が苦手だと感じていても、アサーションのスキルを意識的に活用することで、相手を尊重しながら、伝えたいことを誠実に、そして効果的に伝えることが可能になります。
今日ご紹介した具体的な表現例や練習方法を参考に、ぜひ小さなステップから実践してみてください。アサーションを取り入れたフィードバックは、あなた自身のコミュニケーションの質を高めるだけでなく、周囲とのより良い関係性を築き、チーム全体の成長を促す力となるはずです。継続的な学びと実践を通じて、自信を持ってフィードバックできるようになることを願っております。